§16 頼む嘔吐はやめてくれ
「やっと見つけた……」
何か息も絶え絶えという感じのアルと、元気なメルが実験室に顔をのぞかせる。
「ちょうど良かった。手伝ってくれ、頼む」
ラインマインが二人を中に招き寄せた。
「何だ、いったいどうなっているんだ」
「正体不明の機械が動くかもしれないんだ」
「なぬ」
アルがはあはあという呼吸をしながらも近寄ってくる。
体力より好奇心の方が勝っている模様だ。
「ではアルはこの針金とこの銅板をくっつけて持ってくれ。若干びりっとする刺激があるかもしれない。でも害はないから心配するな」
「何だいったい」
そう言いつつもアルは言われたとおり銅板と針金を酢酸のコップに固定するように持ってくれる。
「あとアル、左手でこっちの亜鉛板と針金を同じようにコップに固定して持って」
「しょうが無いな」
言われた通りアルは左手で亜鉛板と針金を固定して持ってくれた。
あとはラインマイン、ヘラ、アン先輩でそれぞれの場所を固定してくれている。
「それでは実験、開始」
俺はそう言って、回路の最後の部分、二個目の亜鉛板から繋がっている針金と一個目の銅板から繋がっている針金をモーターの電源部分に押し当てた。
キューン、という音がしてモーターが回り始める。
どうやら壊れていなかったようだ。
「何だ何だ、これはいったい何なんだ」
「よし、とりあえず全員手を離していい。でも銅板と亜鉛板はくっつけずに液の外に出しておいてくれ」
全員俺の言った通りにやってくれている。
よしよし、これで色々再実験が出来るぞ。
「何だったんだ、今確かにその棒が回った気がしたんだが」
アル、見るべき処はちゃんと見ているようだ。
「これはモーターと言って電気で回転力を生む機械だ。電気というのは目に見えないけれど金属を使って伝える事が出来るもので、俺がもといた世界では色々な場所に使われていた。
この金属板と酢で電気を作って、このモーターを回したという訳だ」
「ちょっと待て、ここからは先生を呼んできた方がいい」
アルがそう指摘する。
「そうだな、呼んでくるのだ」
その台詞を残してアン先輩が消えた。
正確には超高速で部屋から出て行ったのだが、まさに消えるという感じだ。
「動きが速いな、流石強靱種」
「言っておくがな、さっきホクトが消えた時も、それを追ってラインマインとヘラが消えた時も似たような感じだったぞ」
「そんなに速い動きなのか」
何せ飛ばされていた身の上だから良くわかっていない。
「普通に七十離刻で走れるからね、私も」
ラインマインがそんな事を言う。
元の世界で大体時速七十キロ、分速一六六七メートル、秒速十九メートル強か。
人間の速度じゃ無いな、それは。
「さて、他に使える機械が無いか今のうちに確認しておこう」
俺がそう言った直後だ。
「連れてきたぞ」
アン先輩の声。
ただ連れてきた摂理担当の先生の状態はかなり良く無さそう。
やたら短時間で連れてきた事と言い、どうやったかは想像がついた。
「ちょっと待て、う、うう」
先生は口を押さえて倒れ込む。
若くない身体の三半規管にはこの移動は堪えたようだ。
まあ仕方無い。
でも吐かれると掃除が面倒だ。
そう思いつつ俺達は先生が復活するのを待った。




