§159 西へのお誘い
分類九二四はこの国の民話。
補助分類〇三はアイル地方の民話。
そして頭文字ヤに該当する本は一冊だけだった。
『山に消えた男』という民話の絵本だ。
ささっと読んでみる。
内容は割と単純。
エバシの外れに住み山仕事で生活している青年がいた。
彼はある日山で若い女が倒れているのを見つける。
家へ連れて帰って介抱したところ女は目を覚ました。
しかし回復した女は帰らなければならないと言う。
山を越えた向こうに彼女の里があると。
山を越えて戻れなくなったが、村の『開かずの祠』からなら彼女の里に帰れると。
そしてある日女は、村の『開かずの祠』に消えてしまう。
そして男もいつしか姿を消し、家には帰らなかった。
そんな昔話の絵本だ。
でも気になる事は色々ある。
例えば目を覚ました女の右目の瞳が緑色に塗られているところ。
これはわざとだろうか。
あと『開かずの祠』は何を意味しているのか。
更に女が別れるときの台詞も気になる。
『もしも会いに来てくれるなら、西の地で待っています。開かずの祠も客人は通しますから』
これはそのままIDとパスワードだ。
ならば開かずの祠とは遺跡の事では無いのか。
西の地とは西の山脈の西にある遺跡のある場所の事では無いのか。
これはきっと俺に対する誘いだ。
遺跡を経由してその場所へ来いという。
でも遺跡を経由しなくても行く事は可能な筈だ。
俺は移動魔法で移動先を調べる方法で探ってみる。
場所はここから西、大体百離くらいだろう。
山の高さが最高四千腕近いので取り敢えず高度五千腕から。
あれ、普通なら出てくる景色が出てこない。
高度を下げても確認出来ない。
ならと思い少しずつ手前方向へと視点を変える。
高度四千、エバシから四十離の処でやっと視界が確認出来た。
でも山脈の向こう側は見えない。
距離と高度を変えて色々試してみる。
どうも山脈の稜線までしか確認出来ない模様。
まさか移動魔法にこんな限界があるとは思わなかった。
この事をアン先輩やリーグレ先輩は知っているのだろうか。
後で確認しよう。
取り敢えずこの絵本はお買い上げしておこう。
販売不可と書いていない限り図書館の本は購入可能な筈だから。
西へ行くかどうかは取り敢えず宿題としてゆっくり考えるつもりだ。
行ってみたいのは確かだけれど不安も大きい。
まずは一度落ち着いて状況を整理してからだろう。
それにしてもさっきのメモと遺跡への通路に貼ってあったメモ。
これは同じ相手が寄越したのだろうか。
同じと考える方が合理的なのだけれど何か違うような気もする。
あとはこの件をアン先輩やリーグレ先輩に話すかも一度考えてからだな。
移動魔法の限界の件とかを確認してからにした方がいいだろう。
そうすると俺が今するべきは、ここで買うべき別の本を探すこと。
ちょっと薄い本のコーナーでものぞいてみようかな。
いや、その前に探すべき本があるかもしれない。
俺は絵本のある部分を確認すると、図書館の相談コーナー方面へと歩き始めた。




