§148 夕食は文句なし!
夕食はボリュームたっぷりで大変に美味しかった。
俺は牛鍋と聞いてすき焼きのような物を想像していた。
でも実態は牛丼というか牛皿というかそんな感じ。
味付けは日本とほぼ同じ甘辛系。
それがそれぞれ小鍋に入って各人の前にでんと置いてある。
でも牛丼屋の牛皿とはひと味もふた味も違う代物だ。
「こんなに柔らかいんだ、このお肉って」
そう、口の中でほどけるくらいに柔らかい。
「でも肉そのものは焼肉と同じ程度には厚さがあるぞ、これ」
「文句無く美味しいのだ」
そのくせ脂がくどくなく幾らでも食べられる感じ。
「俺も初めてだな、こんなお肉は」
神戸牛の高い奴ですき焼きをするとこんな感じなのだろうか。
しかもそんな肉が一人一人の鍋に大量に入っている。
「ごはんがすすむのだ」
おかわり用にお櫃が二つ置いてある。
でもどんどんご飯が無くなっていく。
皆さんものすごい勢いでおかわりしているからだ。
確かにこれはご飯に合う。
「これはきっとこうやったら美味しいのだ」
アン先輩が鍋を斜めにして汁と肉をご飯の上にかけた。
「うん、やっぱりこれが正解なのだ。この汁最高に美味しいのだ」
日本なら行儀が悪いというところだ。
でもそんな細かい事を言う人も煩いマナーもここには無い。
「よし、私も挑戦!」
「これは合理的」
「確かに美味しそうだわ」
俺も含め全員が真似をする。
確かにこれ、美味しい。
でもあまりにご飯がすすみ過ぎる。
そんな訳で……
全ての皿とお櫃が空になった後、皆現実に気づくわけだ。
「ホクト、例のお腹すっきりする魔法を頼むのだ」
「私もお願い」
「同じく」
「僕もだ。ちょっと調子に乗りすぎた」
「私もですわ。でも後悔はしていません」
そんな訳で俺は全員が魔法の範囲に入るようにしてレマノ特製魔法を起動する。
『消化促進プラス糖分脂肪吸収抑制排出!』
うん、効果絶大。
俺の胃袋の重さが消えたぞ。
「ふーっ、この魔法は本当に助かるわ」
「これがあれば思う存分食べても平気なのだ」
「同意。でも思った以上に難しい魔法。習得は無理」
「確かに普通の消化吸収促進魔法と比べると大分難しいな、これは」
俺はまあ元から憶えているからその難易度が良くわからないのだけれど。
取り敢えず片付けようかとしたところで宿の人がやってきた。
全て空になった状況を見てちょっと驚いたような表情を見せる。
でもそこは商売人、余分な事は言わない。
ささっと片付けて一度下がり、そしてちょっとして重箱っぽいものを持ってくる。
「こちらは夜食用の牛肉おにぎりで御座います。よかったらお食べ下さいませ」
店の人がいなくなった後、メルが解説してくれた。
「本当はご飯が余るのが普通。それをおにぎりにして夜食用に置いていくつもりだった。でもご飯が無かったから驚いて、慌てて別に作ったおにぎりを持ってきた」
なるほど、そういうサービスだったのか。
「メルはその事を知っていたの?」
「あそこまで驚かれると、魔法を使わなくても読める」
なるほど。
確かに六人用にしてはご飯は多かったものな。
俺も思いきり納得してしまった。




