§144 学園祭の結末
俺達の学園祭は結局、ひたすら商品を作って売ることで終わってしまった。
他を見に行くことが出来たのは結局最初の周一の日の半日だけだった。
「材料費を引いた利益が正金貨五十七枚に正銀貨八枚、合銀小貨五枚ですわ!」
ヘラが機嫌良さ全開の声でそう報告する。
売れたのは魔力ポットや製氷機の現物だけではない。
浮遊機は高級大學が気象等の研究用に買い上げ。
魔法ポットや製氷機の設計図はメルの知り合いらしいアムの会社が買い上げ。
魔力チェッカーの設計図は学園機構が買ってくれた。
更に俺達がチャーシに行った時のあの船まで金貨十枚で売られていった。
元が正金貨一枚半金貨一枚だから随分高値になったものだ。
売る気は無かったのだがヘラの知り合いの商人に押し切られてしまったのだ。
初日にきて俺が色々説明したあの男である。
さて、ヘラを除く俺達はぐったりと疲れ切っている。
店であり展示場だった一階第二教室で文字通り倒れている。
「毎日お昼ご飯すらまともに食べる暇なしで働き通しになるとは思わなかったな」
「同じく」
「来年は展示だけにするのだ」
「アン先輩は卒業じゃないですか」
「そう言えばそうなのだ」
アルはもう魂が抜けたような状態になっている。
「それにしてもこんなに楽しい帳簿をつけるのは久しぶりですわ。教育機関特例で免税ですからこれが丸々利益なんですよ。なんで皆さんもっと喜ばないのでしょうか」
いや、喜んではいる。
でもそれ以上に疲れているだけだ。
「ヘラはタフなのだ」
あのアン先輩ですらそう漏らす始末。
「同意」
「私もそう思うわ」
「……」
アルはもう返事をする気力が無いようだ。
そんな状況。
「さて、片付けは明日にするとして、食事に行きましょう」
あのヘラの元気さはどこから来るのだろう。
ヘラも働きづめだった筈だ。
普通の客応対だけでは無い。
売り物で無かった色々についての値段やパヴァリア先生を交えた権利等の交渉。
毎日の帳簿整理と釣銭の準備や計算。
そんな頭が痛くなるような仕事を率先して受けている。
それでも誰よりも元気なように見えるのだ。
根っからの商人は儲かってさえいれば疲れなど気にならないのだろうか。
「みんな行こ、お昼まともな物食べていないし」
「そうなのだ」
そんな訳で俺達はのろのろ立ち上がって食堂へ向かった。
◇◇◇
翌日の十月四日周一。
今日は学園祭の片付け日だ。
俺達も教室を元のように片付ける。
パネルや展示品を束ね、俺とアン先輩の移動魔法で実験室へ運搬。
掃除をして机や椅子を元のように並べ直せば完成だ。
移動魔法で実験室へ移りいつものテーブルへつく。
そこでヘラが元気よく立ち上がった。
「さて、温泉旅行についての会議を始めます。まず日程は十月十五日周空から十月十七日までの三連休でいいでしょうか」
「異議無いのだ」
「同意」
「移動はアン先輩とホクトの移動魔法で、宿はこれから私が取ってきます。宿泊費は六人で二泊三日、特別料理付きで金正貨一枚と銀正貨八枚の予定です。予算的にはもっと豪華にも出来るのですが、私達はまだ中等学校生ですのでこの程度までにしておきます。これでも別棟貸し切りで専用露天風呂もついていますわ」
「ロテンブロって何?」
「屋外にあるお風呂ですわ。川沿いの自然たっぷりな場所で今は紅葉が見頃だそうです。お風呂と言っても湯滝は小さいのだけで、自然に沸いているお湯の水たまりに入るのがメインのようですわ」
「何か微妙に想像しにくいな」
「でも疲れが取れそうだね」
「行ってみてのお楽しみ」
うん、若干の不安こそあるが楽しそうだ。
「異議が無ければ予約を取りますね。アン先輩、移動魔法をお願いします」
「任せろなのだ」
二人の姿が消える。
そして残りの四人は机に突っ伏した。
「あー、疲れた。学園祭ってこんなに大変なんだね」
「いや、きっと違う。普通の学園祭はこんな感じじゃ無い!」
「同意」
全くだ。
そして感想がもう一つ。
「商人というのはタフな職業なんだな、きっと」
俺の台詞に皆がうんうんと頷いた。
「強靱種よりもタフだわ、間違いなく」
「魔法でも疲れがとれない」
「同意」
その後ヘラとアン先輩がパンフレットを持って元気よく帰ってくるまでの間。
俺達四人は机に突っ伏してぐったりとしたままだった。




