エリスとの初クエスト
エリスの荷物持ちを任された俺は、初めて見るエリスの戦闘に心底驚いていた。
「エリスって本当に強いんだな」
エリスは右手に持った小柄な片手剣を武器に、目にも止まらるスピードで斬撃を繰り出す。
「ま〜、これでも元はS級の冒険者だったからね」
エリスはそんな風に余裕を見せながらB、Cのクエスト討伐で依頼される、ライライオンやゴリランなどを一撃で倒していった。
ギルドを出て数時間経った頃、俺たちは目的地である魔力だまりに着いた。
ちなみに魔力だまりとは読んで字のごとく魔力が溜まったいる場所で、ここに生き物が入ると特に凶暴なモンスターに変身してしまうという大変危険な場所である。
しかし、魔力だまりにはたくさんの魔力が漂っていて、それを魔力石に溜めて大量の魔力ポーションを作ることができるので、ギルドでは魔力だまりができると実力の高い冒険者にクエストを頼むことがよくあるのだ。
まあ、この町には魔力で凶暴化したモンスターと戦える冒険者はいないので元S級冒険者であるエリスがこのクエストを引き受けているのだが。
「エリス〜、ここに魔力石を置いとけば勝手に魔力がたまって行くんだよね?」
「そうだよ、後、それが終わったらシュウ君も見張りに入って」
「分かった」
俺はそう返事をして魔力石の入った鞄を下ろし、見張りに付いた。
魔力だまりに着いて1時間ほど経ち、魔力石に魔力が溜まってきたので、そろそろ町には戻ろうかと思った時、そいつは現れた。
「ガァオーーー」
突如として空から降りて来たそいつは、10メートルは有ろうかという、真っ赤な体に腕の部分に羽を付けた、そうドラゴンである。
・・・というか、こんな生き物がいて良いのか。
「ちょっとエリスさん、なんでこの世界にドラゴンがいるんだよ。モンスターは動物の進化系みたいな事言ってたじゃんか」
「何言ってるのよシュウ君、ドラゴンって言ったら最強の動物じゃない。それにあれはドラゴンじゃなくてドラゴンがモンスターになった。ドラゴーンよ」
「ドラゴーンって、前から思ってたげどモンスターへの名前安直すぎでしょ」
俺がそんな無駄なツッコミを入れていると、俺とエリスの真上を炎のブレスが通過した。
「やば」
ドラゴーンの攻撃に怯えてそのまま尻から崩れ落ちた。
「何してるのシュウ君、早く逃げるよ。流石の私でもドラゴーンなんか相手にできないんだから」
そしてエリスは、怯えている俺の手を掴んで、引っ張って走り出した。
「ちょ、早い死ぬ、マジで死ぬ」
「死にたくなかったら我慢して」
エリスは俺が宙に浮くぐらいの、もの凄いスピードで駆け抜け、なんとかドラゴーンから逃げ切った。
ドラゴーンから逃げきった俺たちは、町へ戻る前に休憩を取ることにしたので、ついでにエリスからドラゴンに付いて尋ねてみた。
「簡単に言うと、ドラゴンは最強の生き物と呼ばれ、大体は人間の行けないような魔力の高い秘境に群れを成して生活しているか、1匹で居場所を転々としている動物よ」
「じゃあ、何か。あのドラゴンはたまたまあの場所を通って、たまたまモンスター化しちまったってことか?」
あそこには魔力だまりが有ったし、その魔力でモンスター化したのかな?
「いいえそれは無いわ、そもそもドラゴンは魔力抵抗値が人間次いで高いのよ、少なくともあの10倍の濃度の魔力がなきゃとてもじゃ無いけどモンスター化なんてしないわ。多分あのドラゴーンは人為的にモンスター化されのよ。それか体内に直接魔力の塊でも飲み込んだか・・・」
あれ?エリスが今、とんでも無い事言ったよな・・・。
「あのさ、聞き間違いならいいんだけど。ドラゴンは魔力抵抗値が人間の次に高いとか言わなかったか」
俺は驚きながらも、平静も保ちつつエリスに問いかけた。
「ええ、言ったけど、何かおかしいの?」
うん、わかってた。もう準備はできている。
「つまり人間もモンスター化するんだな」
「当たり前じゃない。人間はインゲンなるのよ」
「いや、それは食べ物だろ」
「?」
エリスはキョトンとしている。どうやら、インゲンはこの世界にないらしい。
「いや、なんでもない」
俺はそのまま考える事を放棄した。どうやらこの世界は、俺の知っているファンタジー世界とはかなり違うらしい。まあ、そんな事は来た初日からわかっていたのだが。
俺があまりの事実に思考を停止させていると、急にエリスが俺を押し倒して来た。
「あの〜エリスさん、急なお誘いは有り難いんですけど、初めてはちゃんとベットがっ」
「ちょっと黙って」
エリスはそう言って俺の口を塞ぎながら、体を密着させ「シー」とポーズをした。
俺が何だろうと思い耳をすますと、遠くから男の叫び声が聞こえて来た。
「ぶぁだはっはっは〜、やっとドラゴーンの制御に成功したぞ。これでやっとあの女に復讐できる」
何だこの声は。
「さぁ〜行くぞドラゴーン。手始めに1番近くのアルクの町を火の海にするぞ」
「ガァオーーー」
おいちょっと待て。今ドラゴーンって行ったよな、それにアルクって俺の町だよな。えっ、ヤバイどうしよう。
俺が心の中で同様しているとエリスが手を退けて、俺に小さな声で耳打ちして来た。
「シュウ君は今から先回りして町に帰って、この事をギルドに伝えて」
「何言ってだよエリス、まさかあいつらと1人で戦う気か。いくらなんでも無茶だ。さっきだって、私じゃドラゴーンには勝てないって言ってたじゃん」
「大丈夫よ、私は元S級冒険者よ。勝てなくても、足止めくらいなら何とか出来るわ。だからシュウ君は早くこの事を知らせて、王都から増援を呼んでもらって」
エリスはそう言うと、俺に何か言われる前に声のしたほうに突っ込んでいった。
クソ、どうすんだ俺、ここから町までは片道でも1時間は掛かる、どう見積もったってそれまでエリスは持ちこたえられない。だからって加勢するのか、イノンシシに苦戦するような俺が来たところでどうにも、せめてもっと俺に力があれば・・・。
そう思った直後、俺は頭の中にある考えが芽生えてしまった。そうだ、確かエリスは言っていた、体内に魔力の塊を入れればドラゴンでもモンスター化すると、そして人間でもモンスター化はすると。
「エリスは絶対に殺させない」
そして覚悟を決めた俺は、魔力だまりで溜めた魔力石を飲み込んだ。