序章 地上から
思いつきで作ってみました。
序章 地上から
「準備よし」
廃ビルの屋上で、男が一人佇んでいた。
ごま塩頭をした壮年の男である。
背丈は並みで、ガッチリとした体格の男であった。
「そろそろだな」
男は望遠鏡を覗いていた。
廃墟群での出来事である。
一歩でも外に出てみれば、赤茶けた荒野が広がっている。
キラギラ照り付ける太陽は残酷で、とても人が歩けたものではない。
廃墟群をよく見てみれば、自動車やら飛行機やらの部品が散らばってる。
つまるところ、ここはサルガッソ――乗り物たちの墓場である。
「よーし、見えてきたぞ……」
レンズ越しに男が見たのは、奇妙な物体であった。
…――…――…――…
それは真っ白な翼を従えていた。首の長い白鳥のような物体は、流麗な姿を見せつけて、天高くスーッと翔けて行く。
…――…――…――…
「やっぱり、毎年ここで速度も高度も落ちてやがるな……」
男が確認するように呟く。
「さてと……」
言って、男が望遠鏡から顔を離した。
「今日こそ撮ってやる!」
カメラを手にして、男は階段を駆け下りた。
「待ってろよ、鳥野郎!」
男が廃ビルから飛び出した。
走る男の先には、一機の飛行機が置いてあった。転がっているスクラップとは違う、完全完備のプロペラ機である。
果たして、プロペラ機はエンジンを二つ持ってた。
だがしかし、それだけでは珍しくはない。
見ればこの飛行機、随分と異形である。翼に沿って胴体が二つ横に並んでいて、胴体の真ん中に挟まれる形で座席が二つ縦に並んでいる。
つまるところ、双発双胴の複座機であった。
一風変わったこの双胴機であるが、地上をなぎ払うための攻撃機でもある。
双胴機に飛び乗って、男がキャノピーを閉める。
エンジンに火が入った。
ヒィーンと唸るようなタービン音が響いて、左右のプロペラが空を切り裂いていく。
プロペラは空気を掻いて、双胴機を引っ張り始めた。
双胴機はそのまま、砂塗れの車道へ移動を開始する。
男が距離を見計らって、双胴機を一端停止させた。
そして、あまり間を置かずに全開となるスロットル。
砂塵が勢いよく撒き散らされ、車輪のブレーキが解除された。
双胴機がグイグイ突っ走る。
大して距離を取らずに、双胴機は宙へと舞った。
ある程度の高度を取ると、双胴機は車輪を機内に閉まった。
「せめて行けるとこまで!」
男は願いながら、白い鳥へと向かうのであった。