異世界無双チーレムを短編にしてみたけど大体こんな感じであってる?
俺の名は小林太郎。
四年前、帰宅中にトラックに轢かれて意識が途絶えた。
目を覚ました時、俺は雲に覆われたような不思議な空間にいた。
そこにいた女神様とやらの話を聞くと、俺は本来死ぬ運命ではなかったが神側の手違いで死んでしまったらしい。
そのお詫びと言う形で別の世界で、人生をやり直すことになった。
その世界はいわゆる中世ファンタジーのような世界だ。
魔法があり、魔王がいて、魔物がいて、エルフや人魚なんかの異種族もいる世界。
そんな世界に現代日本人の俺が放り込まれてもすぐ死ぬだけなので、と言う事で、最初に『成長特化』とかいう能力を貰った。
最初の内は生きるための立ち回りに少しだけ苦労したが、この能力で俺は瞬く間にこの世界で最強の勇者になった。
そして今、四年間で出会った大切な仲間たちと共に最後の戦いに挑もうとしている。
「ついにここまで来たんだね……」
金髪ロングのエルフの女剣士、オリアがそう言った。その瞳には覚悟の炎が燃えている。
「後は、この奥にいる魔王さんを倒せば、世界は平和になるんだよね!」
桃髪クセっけ美少女魔法使い、メイも同じ気持ちのようだ。
「タロウさま、今、全てを終わらせに行きましょう!」
世界最大国家のお姫様にして回復魔法のエキスパート、日本の大和撫子を髣髴させる絶世の美女、プリエスが俺に同意を求める。
「ああ、行くぞ! みんな!」
目の前にそびえるのは巨大な扉。
『魔王の間』へと繋がるその邪悪な塊を、俺は開いた。
◇
「よくぞここまでたどり着いたな、勇者タロウよ」
玉座に座った前方の大男が俺に語りかけた。漆黒の身体は筋肉が盛り上がり、頭には歪な二本の角、口からは黒く輝く牙を覗かせ、背中には禍々しい翼が生えている。
―――魔王ディストラクト。コイツを倒せば全ての魔物が消滅し、俺たちの戦いは終わる。
「……さっそくお前との戦いを始めたいところだが、その前に邪魔者には退場してもらおうか」
そう言いながら魔王が不気味な笑みをこぼした。
その瞬間、物陰から三体の最上位悪魔が俺たちを襲う。
いや、正確には俺以外の三人、オリア、メイ、プリエスにそれぞれ飛び掛った。
「くっ!」
「きゃあっ!」
「あ……!」
三人は悪魔たちに気づくが、遅かった。このままでは最上位悪魔の不意打ちに、首を落とされていただろう。
しかし悪魔たちには誤算があった。
それは―――この場に俺がいたことだ。
俺は右手で聖剣を振るうと、プリエスに襲いかかろうとしていた最上位悪魔の胸を貫いた。最上位悪魔は断末魔をあげることなく消滅する。
同時に左手で神聖究極魔法を発動していた。左手から放たれる光の渦がメイに飛び掛る最上位悪魔を消し去る。
その一瞬後、オリアへ向かった最上位悪魔を、右目の《魔眼》に魔力を込め睨み付ける。
睨まれた最上位悪魔は動きが停止し、その間にオリアに切り捨てられた。
「タロウ様! ……ありがとうございます!」
「ご主人様! すっごーい! メイ全然気が突かなかったぁ!」
「くっ すまないタロウ! いつもお前ばかり頼りにしてしまう!」
三人がそれぞれ俺に言ってくる。しかしそれも仕方がないことだ。
「相手は最上位悪魔だ。気にするな。」
魔王は別格として、最強クラスの悪魔が同時に三体。
単体で大都市を滅ぼせる程、極めて高い力も持つ最上位悪魔。
本来、傲慢で直線的な戦術を好む奴らが完全に暗殺に力を注いだのだ。俺以外では対処できるわけがない。
「……なんだと?」
魔王が驚愕する。
「汚い真似などする必要ない。一対一が希望なら、その通りにしてやる。さぁ勝負だ! 魔王!」
俺は魔王へ剣を向けて言い放った。
魔王の顔色が変わる。
「いいだろう……だが、一瞬で終わらせてくれる!」
魔王はそう言って立ち上がり、両手を前に突き出した。そこに尋常じゃない魔力がこもる。
隣でオリアが叫んだ。
「あ、あれはまさか我が『エルフの森』を一瞬で焼き払った……!」
「そう、暗黒究極魔法だ。消し飛ぶがいい! 勇者たちよ!!」
魔王が魔力を解き放とうとする。
しかし、俺のほうが早かった。
「魔封じ」
そう一言つぶやくと、魔王の手の中から魔力が跡形もなく消滅した。
「な……!」
何が起こったかわからないのだろう。魔王は絶句し、立ち尽くす。
そんな隙をおめおめと逃すほど俺はお人よしじゃない。
一瞬で魔王の所まで距離を詰め、手に持つ聖剣で魔王を切り捨てた。
「グアアアアアアアッ!!」
魔王は断末魔をあげ、光の中へ消え去った。
「え……? タロウ様……? いったい何を?」
プリエスが聞いて来た。なに、単純な話だ。
「魔封じで魔王の技の発動を潰して、そのまま仕留めた。それだけさ」
「そ、そんな! 魔封じは初級魔法…… ある程度格下の相手の魔法でないと完全に消し去る事なんて……」
「わかってるじゃないか。つまりは、そう言う事さ」
俺はとりあえずそう言った。
「タロウ。アンタいつの間に魔法までそこまで……!」
「ご主人様! さっすがー! わかってたけど、やっぱり凄すぎるんだねー!」
オリアとメイも驚きを隠せないようだ。普段、どちらかと言うと剣で戦っていたからかな。
『流石です。勇者、小林太郎。よく魔王を倒しましたね。』
――――――聞き覚えのある声が聞こえる。この声は――――――
『お久しぶりですね太郎。私が誰だかわかりますか?』
「四年ぶりだな、女神アスタリート。何の用だ?」
女神が、魔王が座っていた玉座の数メートル上で浮いている。
『貴方の活躍を観ていましたよ。そして心が躍りました。』
ずっと観てたのか。千里眼能力とかあるのかな?
「タロウ様をこの世界に連れてきたという女神様!?」
驚くプリエス。俺も少しびっくりした。
「女神様もご主人様の活躍観てたんだねー。ね? ね? すごいでしょ? メイのご主人様」
自慢そうに語るメイ。『メイの』じゃない。『皆の』だ。
『ええ、想像以上です。そこで―――』
ほほ笑んでいる女神が一層強くほほ笑む。
『―――太郎、私の物になりなさい。この世界から出て、天界へ来るのです。』
「え……?」
プリエスが絶望した顔をのぞかせる。
「なに……?」
オリアが剣を構え臨戦体系に入る。
俺も意味が分からん。
「いまさら何を言っているんだ? 俺はこの世界の勇者タロウだ。コイツらのために、俺は今から国に帰る」
だが、『神』ってのは自分勝手なものだと相場は決まってるからなあ。
『やはりそう言いますか。そうであれば仕方がありません。多少不本意ですが、無理やり連れて行くとしましょう』
女神の頭上の空間がゆがむ。その亜空間から見える鉄の塊。あれは―――
『これに見覚えがありますね? 太郎』
……忘れるはずもない。あれは、あれは!
何てことだ。俺がこの世界に来たのは、『予想外の死によるお詫び』などではなく―――
『そう、一度貴方の生命活動を停止させた神の奥義―――』
まるで子供が人形で遊ぶかのように―――
『食らいなさい―――』
―――全て神に仕組まれたことだったのか!!
『―――異次元輸送貨物自動車ッ!!』
発射されたトラックは俺に直撃し、四年前のあの時のように、俺の意識は再び消えた。
「―――と、でも思ったか!」
おれはトラックを筋力で押しとめ、粉々に砕いた。
『なんですって!?』
「女神様、アンタが俺に与えた『成長特化』の能力。それのおかげで俺はもうとっくに神を超えた。……神は『完全』であるがゆえに『成長』はしない。おれはもう、アンタの手の平では踊らない!」
そう言って俺は、魔法で空中を走り女神の目前まで迫る。
ほほ笑みを絶やさなかった女神の顔が苦渋の色に染まる。
神々しく浮いている女神に、スパーン、とビンタした。
『……え?』
空中魔法の効果が切れ、俺は地面に降りた。
「お痛がすぎるぜ女神様よ! 俺が欲しいなら、それでもいいさ。でも、『天界』とかいう場所にはいかない。オリアやメイ、プリエスに、ここにはいないがこの世界のいろんな奴と約束したからな。戦いが終わったら結婚しようって。」
女神はゆっくりと降りてくる。頬を手で押さえながら。
「だから、『この世界で』だ。アンタは邪悪じゃあないんだろ。だったらみんなでそこに帰ろうぜ」
『……』
「やれやれ、やっぱり流石だなタロウは」
「ご主人様の結婚相手また増えたー!」
「タロウ様、優しすぎです!」
三人が次々と俺に言ってくる。今まで、大体こうしてきたからな。
『……女神まで本気にさせるなんて、罪な男。いえ、大罪人ね』
女神アスタリートは、今までの『神の笑顔』ではなく一人の人間のような表情でそう言った。
こうして、俺たちは全ての戦いを終わらせた。
この戦いは、歴史最大の出来事として俺たちの子孫の手で後世まで長く長く語り継がれていく―――