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最終話・空へ

 空が青く染まるとき、みんなまとめて死んでしまう。僕ら以外はみんな死ぬ。

 僕らがそう決めたから。みんな殺すと決めたから。


「アクセルに届く日がいつか来る。その日が来たらかっ飛ばしてみろ。窓を全開にして、空気に溶けるみてぇにさ」

 夜男はそう言って、車のドアを叩いて笑った。

「君は、これで太陽を覗いてはいけないよ。その目で、君自身で受け止めるんだ」

 一つ目はそう言って、望遠蛇を撫でて笑った。


 そんな二人は、いつかの朝に崩れて落ちる。僕らのせいで砕けて消える。



 それでも、空を選んだ。



***



 望遠塔の屋上には、涼やかな銀色の風が吹いていた。


 手すりはない。遮るものなど何もない視界、その最奥まで夜の闇が伸びる。

 僕らは五角形をした屋上の端に二人立っていた。僕の心はそわそわと落ち着きなく疼き、今にも浮かび上がりそうな身体を、白いシロと握ったこの手だけが望遠塔に繋いでいる。


 しっかりと握られた僕の右手とシロの左手との間には、まるで心棒のようにナイフがあった。一本のナイフを、二人で握り。その繋がりが、僕らを繋ぐ。

 この刃が罪を生み、可能性を開いた。それこそが今の僕らだ。


「離さないでよ」シロはそう言った。

「うん」僕はそう答えた。でも。「だけど、君も掴むんだ。離して欲しくないのなら」

「飛んでっちゃうものね?」からかうように笑う。繋いだ手をいたずらっぽく動かし、されど堅く握って離しはしない。

「それも、あるけどさ」肩にかけた鞄には空瓶がたくさん詰めてあるけれど、重さはまったく感じない。シロがいま手を離せば、僕は風船のように、上へ上へ、見えなくなるほど遠くまで、飛ばされていくのだろう。


「それだけじゃない。分かってるわ」

「……ああ。繋いでいる限り、見失わないから」夜色に溶けたシロを、僕が知覚する現実に繋ぎ止める唯一の手段。それがこの、繋いだ右手。

「いつか、見つかるのかしら。それともずっと透明なまま?」

「見つかるといいな、とは思うけど……保証はできない」

「酷ね」言いながらも、怒った様子はない。

「正直者と言ってほしいね」僕も軽くおどけてみせてから、気持ちを切り替えて続ける。「もし透明なままでも。それはそれで、いいかもしれないよ」

「見えないくせに」今度は少し険があった。


「今はそうだけど」そして僕は、また夢物語を語る。「いつか慣れて、見つけられるようになってみせるよ。透明でも、夜色でも」

「回数だけは、慣れるチャンスだけは、いくらでもあるものね」仕様がないな、といった調子で険を落としてくれる。

「世界が青空に包まれたら」僕は思わず微笑む。「何をしようか?」

「あなた以外の空から、空色を貰ってみたいわ」

 二人で軽く笑って、そして、言葉が途絶える。


 僕らは同時に向かい合って、数秒、互いの瞳を覗きこみながら息を整えた。

 そして向き直って、前へ。有限なのに無限にも思える空と、空を覆う夜と夜と夜。

 ナイフと右手と左手、そして先ほど交わした視線を心の中で確かめる。僕らはもう、一塊の存在だ。


 行こう。言葉もなくそう言って、夜空めがけて望遠塔を踏みしめる。



 そして僕らは、別れを告げて飛び立った。


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