【解決編】中編
「その犯人ての? ……なんの犯人だかしらないけど、何号まで登場するの」
マスターがため息まじりに聞いた。
「2号まで、です。仮面ラ○ダーも2号まででしょう?」
オレのギャグに彼はくすり、ともしなかった。くそ。
「2号は後まわしにして、とりあえず犯人1号です。ヤツにとって最大の山場がやってきました。問題は、オレがどのタイミングでオモチャ銃を撃つかということです。銃爪を引いてもいないのに空き瓶が砕け散ったら、元も子もないですから……。でもテーブルの下でスタンバっているヤツにはオレが見えない。いったい、ヤツはなにを『きっかけ』にするのか」
マスターはばつが悪そうだった。彼にも心あたりがあるのだろう。
「お気づきのようですね。そうです、オレが銃を撃つタイミングを調えてくれたのはマスター、あなたでした。あなたはオレに、まずこの空き瓶に狙いをつけさせ、それから安全装置の解除方法をおしえてくれましたね。ここまで限定してくれたら、あとは銃爪を引くカチッという音に耳をすませればいい。犯人1号は、その音をたよりに例の方法で空き瓶を破壊したのです」
「……石原くん、やっぱりきみは、ボクを疑っているのか」
「言ったでしょう、あなたは脅されて、嫌々協力させられたのかもしれないと。さ、どんどん行きますよ? 空き瓶の破壊という山場を越した犯人1号は、ホッとしたことでしょう。ノズルの付いたホースを足元の小窓から投げ捨て、しばし休憩です」
「じゃあ彼女が休憩しているあいだ、ボクがせっせと瓶の残骸を片づけて、当たってもいない十円玉を床から拾いあげた……と?」
「マスター」
「彼女って、なんですか。オレは犯人1号または『ヤツ』としか、言ってませんよ?」
「あ……ああああーー……」
マスターは頭をかかえて顔を歪めた。あまりイジメるとイジケちゃうかもしれないので、適当にフォローする。
「まあ、てっとり早いです。犯人1号の正体は彼女、あの可奈さんという女性です。可奈さんはそれから適当なタイミングで登場します。ただし彼女は店に入ることができません。彼女はすでに店にいたのですから」
今度オレは入り口のドアに近づいた。ここからは彼女がとった行動の再現だ。
「こんなふうに後ろ手でドアを開けます。するとこのカランコロンが鳴って、晴れて彼女は入店という運びです」
「ねえ石原くん……そのあと彼女は何者かに襲われただろう? あれだけは、誓ってボクもしらなかったんだ」
「いやいやいや」
オレは笑顔で首を振った。
「マスター、あなたにはまだ大事な仕事が残っていました。それもすぐにご説明します。……可奈さんの素性とか、はっきり言ってどうでもいいです。まあオレはしらないですし、かりに彼女が語ったとしても信じるに値するかどうか微妙です。ともかく、彼女はこの店で何者かに襲われた。結果的に彼女は勝ちましたが……」