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スモール・マウンテン  作者: 大原英一
第一話 銃のある喫茶店
8/40

【解決編】前編

「これが最初の欺瞞です」


 オレがそう言い放つと、マスターは唖然とした。

「欺瞞? どういうこと……」

「たしかに空き瓶は砕け散りました。でもそれは十円玉の弾が命中したからじゃない。べつの人間が、べつの方法で破壊したんです」

 すると彼は吹き出した。

「石原くん、面白すぎるよ。……きみ、探偵小説の読みすぎじゃないの?」

「まあ最後まで聞いてみてください、退屈はさせませんから」

「生憎、今日は朝から退屈していないよ。いや昨日からかな」

「いやいや、こっちのほうが、もっと凄いんですって」

 オレは笑顔で断言した。


「わかった、聞こう。……で、べつの人間ってのは?」

「かりに犯人1号とします。犯人1号は、オレがこの店に入ったとき、入り口から見て右手にある衝立ついたての陰に隠れていました。そしてオレがカウンター席に座ると、ヤツはこのテーブルの下に移動した。ワインの空き瓶が置かれていた、このテーブルです」

 オレは現物の近くまで行って、それを触りながら説明した。


「このとおり、カウンターからこのテーブルまでは距離がありますし、あいだにはソファとかも置いてあるので、ここにしゃがめば、カウンターにいるオレらからは見えません」

「……石原くん、口を挿んでもいいかな」

「どうぞ」

 マスターは困ったように顔をなでつつ言った。

「あのさ、きみにとってはそうかもしれないけど、きみより先にこのカウンターにいたボクからは犯人、丸見えだよ?」

「ええ、もちろん」

 オレはドヤ顔で言った。


「べつにマスターには犯人1号が見えて、いいんです。……ふたつの可能性が考えられます。ひとつは、マスターが犯人1号と共犯である可能性」

 人さし指につづき、中指を立ててピースのかたちをつくった。

「もうひとつは、マスターが犯人1号によって脅されている可能性」

「はっ、そりゃたいへんだ」

 マスターは歪んだ笑顔をみせた。

「その脅しは、犯人1号がいまここにいるか否かにかかわらず、なおつづいている可能性があります。だからオレは、あなたから本当のことを聞けるとは思ってません。ただ、あなたにオレの推論を聞いてもらいたいだけです。……その方向で話をすすめて、よろしいですか」

 その問いに、彼は神妙にうなずいた。


「話をつづけます。……これ、ちょっと変わったテーブルですよね。天板が格子状になっている。犯人1号はテーブルの下から、この格子の隙間をねらって空き瓶を破壊したんじゃないか、というのがオレの考えです」

「どうやって?」

「たとえば、格子の隙間にノズルのようなものを挿し込む。ノズルを開放すると圧縮されたガスが噴射される。ほら、コントなんかでつかう脆くて壊れやすい瓶、あるじゃないですか? あんなものをあらかじめ用意しておけば、たちまち粉々にできますよ」


 マスターから笑顔が消えた。彼は苦しそうに反論した。

「……圧縮ガスって、ボンベはどこにあるの。ホースは?」

「ボンベは店の外です。そこからこの足元にある明かり取りの小窓をとおしてホースを渡す。つまり、店の外に渡し役がいて、そいつが犯人2号です」

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