表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スモール・マウンテン  作者: 大原英一
第一話 銃のある喫茶店
7/40

殺し文句

 源次はコーヒーをひと口すすると、つづけた。

「敵が一般市民であるマスターを人質に捕るとか、ルール的にも、ありえない。だからマスターに電話して、ヘンなやつがいないか確認したんです」

「ああ、それね」

 マスターが話に割って入ってきた。

「さっきも電話で言ったけど、本当になにもなかったよ。ここには石原くんがいただけだ」

「そうみたいっすね。電話を切ったあとでアプリを確認したら、敵はもう消えていました」

 とにかく、可奈さんの存在が源次にバレなくてよかった。まあ、バレたところでヤツが可奈さんに勝てるとは思えないが。


「源ちゃん、こんなところで油売ってていいの?」

 マスターが暗に源次を追い出そうとしている。喫茶店を経営する身としては、できるかぎり厄介事は避けたいのだろう。

「マスター、キビしいなあ。……んじゃ、そろそろお(いとま)しますわ」

「源次」

 立ちあがる彼をオレは呼び留めた。

「戦闘中はずっと、そのユニフォームなのか?」

 すると源次はにやっとして言った。

「お、石原さん興味津々ですねえ」

「町なかで間違えて撃たれたら、かなわんからな」

「ですね、市民を撃ったら即失格です。戦闘員であるか否かは、基本的にこのユニフォームで判断します。だから戦闘中はかならず着用しなくちゃいけない。ゴーグルだけは任意で着脱可になっていますが」

「それを聞いて安心したよ」


 一瞬、はてな? みたいな顔をする源次。ちょっと会話がかみ合ってなかったかもしれない。

 オレは可奈さんのことでアタマがいっぱいだった。たぶん、マスターもおなじだと思う。


「石原さんにもそろそろ、お声がかかるかもしれないっすよ」

 お声とはつまり、戦闘員として招集されるということか……。たしかに、オレはマスターほどおじいちゃんではない。ってゆうか、源次より(とお)歳上なだけだ。

 可能性は充分あった。断れるのかな、これ……。

「つぎ会うときは、敵同士かもな」

「負けないっすよ」

 減らず口をたたきながら源次は店を出て行った。彼はふつうにコーヒー代を払わなかった。

 戦闘中の飲食代はすべて町内会が払うので、そちらへ請求してほしいとのことだった。あと、万が一戦闘によって店内の備品等が破損した場合も、町内会ができるかぎり弁償するらしい。でき得るかぎり、というところがミソらしい。



「ナゾは、すべて解けました」



「……え、なんだって?」

 とつぜんのオレの言葉にマスターは面食らったらしい。そりゃそうだ、オレがマスターの立場でも、そうなる。

「ある仮説を思い着いたんです。ちょっと聞いてもらっても、いいですか」

「うん……いいけど」

「それじゃあカウンターを離れて、こっちに座ってください」

 彼は不審そうな顔をしながらもオレの指示に従ってくれた。

「時間を戻しましょう」

「えっ」

「比喩的な表現です。オレが今日この店を訪れた時刻まで、さかのぼって思い出してください」

「わ、わかった」

 オレ自身、今日の出来事を意識的に思い起こしていた。

「オレが店にきたとき、『クローズド』の表札が出ていました。けどドアにカギはかかっていなかったので、店のなかに入ることができました。マスターはカウンターのなかにいました。どこか元気がありませんでした」


「まあ、それは」

「オレはカウンターのうえに銃を見つけました。はじめは本物かと思ったけど、マスターに聞いたところ、どうやらオモチャの銃だとのことでした。オレが試し撃ちをしたいと言い、マスターも許可してくれました。マスターはロックの解除だとか、銃の撃ちかたを教えてくれました。オモチャのくせに、それはまるで本物みたいでした」 

 ひと息に言ってコーヒーで口を潤した。ふう、もうじきだ。もうじき面白くなるからね。


「オレがオモチャ銃の銃爪(ひきがね)をひくと、標的であるワインの空き瓶が砕け散りました。オモチャ銃から発射された十円玉が命中して、そうなったらしいです。……ですよね、マスター?」

 この気持ち悪い日記的口調をはじめてから、最初の同意を彼に求めた。

「ああ、そうだよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ