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スモール・マウンテン  作者: 大原英一
第一話 銃のある喫茶店
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町内会の告示

「それでおまえ、そんなヘンな恰好してるのか……」

 源次は胸、肘、膝にそれぞれ白いプロテクターみたいなものを着けていた。そして極めつけは、首からさげたデカいゴーグル。さっき可奈さんが撃退した男もゴーグルをしていた。偶然の符合ではないだろう。

「まあ言ってみりゃ、これがユニフォームっすね、白組の」

「白組?」

「サバゲーだから、ほかに赤とか緑とか、何チームもあって競い合うんす」

「……なるほどね」

 と、そこでマスターが源次にコーヒーを運んできた。


「でもさ、町なかでドンパチやったら、危ないんじゃないの」

「あれっ、マスター……町内会の告示、読んでないの?」

 逆に源次が聞き、マスターはばつが悪そうに頭に手をやった。

「うん、まだ読んでない」

「わかりました、んじゃあ、説明します」

 言って源次はコーヒーをひと口すすった。

「告示します、」

「なんか、おまえエラそうだなあ」

「茶化さないでくださいよ石原さん。非戦闘員である一般市民から説明をもとめられた場合、告示内容を伝えるのがルールなんすから」

「すみません」

 そう言ってオレは黙った。



【告示】

 このたび、なまら町において、市街戦を想定した模擬戦をおこないます。

 日常生活において戦闘がはじまった場合は、戦闘を優先とし、一般市民(非戦闘員)の方がたはすみやかに退去または避難してください。

 退去は一時的なもので、かまいません。

 一般市民(非戦闘員)の方がたには大変ご迷惑をおかけしますが、何卒ご理解とご協力をお願いいたします。



 源次はだいたい、そんな内容のことを言った。マスターがため息をく。

「そうは言ってもさあ……いきなり店のなかでドンパチやられたら、たまんないよ」

「ケース・バイ・ケースですけど、ドンパチっていうほど派手なことには、ならないと思いますよ。どっちかって言うとこれ、頭脳戦だし」

「どういうこと?」

 オレが聞くと、源次はドヤ顔で銃をなでた。

「この銃ね、弾が十円玉で、当たるとマジで痛いらしいんだけど……連射が利かないんです」

「連射?」

「バン、バンみたいに、連続で撃てないんす。1発発射すると、きっちり3秒間、銃爪ひきがねにロックがかかる仕様になっていて。実際にやってみると、これがマジ、もどかしい。3秒間ってこんなに長いんだって、はじめて思いましたよ」


 その言葉でオレは瞬時に理解した。さっき可奈さんを襲った男がなぜ、2発目を撃たずにぶるぶる震えていたのかを。

 撃ちたくても銃爪が動かなかったのだ。それで可奈さんに銃をむけられ、彼はあっさり降参した。


「……ちょっと、石原さん?」

 オレが急に黙ったので、源次が不審そうな顔をした。

「あ、いや……ちょっと。さっきおまえ、電話で『敵』がどうこうとか言ってたろ?」

 オレは話題を変えた。可奈さんは源次の敵なのか、もしそうだとしたら、なぜ店の外からそれがわかったのか。この点についても気になっていた。

「あー、あれね。なんだったんだろ、アプリの誤作動かな……」

「アプリ?」

 すると源次はスマホを取り出して操作した。


「画面をお見せできないのが残念すけど、ようするに、敵味方の位置関係がわかるレーダー・アプリっす。この情報をもとに敵を追ったり、仲間と合流したり、いろいろ頭を使うことが多くて……」

「なるほど、それで頭脳戦か。……すると、さっきそのレーダーで敵を探知したってわけか、しかもこの店のなかに」

「この店でほかのお客に混じって敵が待ち伏せしているってことも、充分ありえます。でもヘンでした。『クローズド』の表札が出ていたからです」

「……どういうこと?」

 オレはとぼけたふりをして聞いた。よくわからないが、なにかしらヘンだというのは、わかる。


「店が閉まっているのに敵がいるって、おかしくないですか。マスターが敵? でもそれは、ありえない。60歳以上の人が戦闘員になれるはず、ないんです」

 そんな規定まであるのか、めんどくせーな……。

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