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スモール・マウンテン  作者: 大原英一
第五話 ボール・マジック
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後編

「正解なのに残念って、どういうことっすか……」

 源次は納得いかないようすだった。そりゃ、そうだろう。

「性格わるいと思われそうだけど、じつは、源ちゃんがいま導き出した答えはあらかじめ想定していたんだ。残念な答えとしてね」

 マスターはゆっくりと諭すように言った。

「だから、残念って何すか。正解、不正解どっち?」

「正解は正解だよ。だけど、あまりいい答えじゃない」

「どこらへんが?」

 源次は不満そうだ。ま、そりゃそうだろう。


「石原くん」

 今度、マスターはオレに話を振ってきた。困ったときの石原くん頼みだ。

「はい?」

「いまの源ちゃんの答えだけど、どこかヘンだと思わなかったかな」

「……いやべつに、おかしくないと思いますよ」

「ほら!」

 オレという賛同者を得た源次は強気な態度に出た。いや、おまえの味方をしているわけじゃないんだ源次。単に論理的な穴が見つからないというだけの話であって……。


 するとマスターが、ここぞとばかりにニヤッとした。うわー、この人マジで性格わるいかも! オレが論理的欠陥を指摘できないのを見越して、その上でオレに質問したらしいフシがある。

「ふたりとも、想像してごらんよ。もしきみたちが『ボール・ホテル』に泊まる立場だったら、と」

 言われてオレと源次は互いに顔を見合わせた。

「たったひとつしかない窓が、となりの客室と向かい合わせだったらどう思う? 見晴らしもへったくれも、あったものじゃないだろう」

「……あ、なるほど」

 単純なオレはすぐに納得した。


「そんな部屋に、わざわざお金を出して泊まりたいと思う?」

 マスターがダメ押しをした。が、源次は見苦しく抵抗した。

「ちがうんすよ、マスター。出入りできる窓はたしかに1個だけど、その反対側にワイド・ビジョン的な、見晴らし最高の、はめ殺しの窓があるんすよ」

「そんな記述が本文にあった?」

「う……」

 源次は黙るしかなかった。


「じゃあ、この場の空気が最悪になったところで、ひとつ雑談をしようじゃないか。これはヒントじゃない、あくまで雑談だよ?」

 こうなったら最高の答えを導き出すまで、マスターはオレたちを解放してくれそうにない。早いところ聞いてしまえ。

「雑談て?」

「石原くん、きみ昨日、図みたいなやつを描いていたよね」

「ええ……はい」

 つぎの瞬間、オレの背に雷のような衝撃が走った。

「ああああああ……わかった!!」


「びっくりするなあ、もう」

 となりで源次が非難するようにオレを見た。

「デッドスペースだよ源次! それがヒントで、同時にミスリードだったんだ」

「はあ?」

 わけがわからない、といった風の源次にオレは説明した。

「オレ昨日、図を描いて説明したよな? 『ボール・ホテル』が並んで建っていると、柱と柱の間がデッドスペースになるって」

「それが、どうかしたんすか」

「オレの頭のなかでは、すでにイメージできていたんだ。スペースを有効活用する方法が……そして、それが答えだった」


「ぜんぜん、わからないんすけど……」

「源次、デッドスペースをなくすには、どうしたらいいと思う?」

「……そりゃあ、『ボール・ホテル』同士をうんと離して建てれば、いいんじゃないっすか」

「でもさ、それだと一緒にキャンプしてる感がないだろう」

「それはワガママっすよ!」

 ついに源次がキレた。これだけうざい質問を浴びせられたら、そうなる気持ちもわかる。


「デッドスペースのことはあきらめて近くにいるか、土地の有効活用のために遠くへ行くか、ふたつにひとつっす。てか、これ何の話ですか」

「まあまあ源ちゃん、お団子でも食べて、気を落ち着けなよ」

 マスターがここぞとばかりに団子の串が載った皿を差し出した。

「団子ぉ? この喫茶店、団子なんか出すんすか」

「よく見ろよ、源次。それが答えだ」


 団子の刺さった串をまじまじと見つめたあと、ようやくすべてを理解したらしい源次は、深いため息を吐いて言った。

「なるほどねー。これなら、たしかに柱は1本で済む」

「そういうこと。串(柱)は1本で、そこに団子を刺すように客室(ボール)を足していくスタイルだ。でも本物の団子のように客室を寄せ合う必要はない。贅沢に距離をとってね……だって高さに制限はないから。ね、マスター?」

 マスターはうれしそうに、無言でうなずいた。


「そっかー、『どの部屋も地上20メートル以上の高さにあり』って、そうゆう意味だったのかー」

 源次がいまさら【問題編】を読み返している。

「ああ、マスターはちゃんとフェアプレイに則って問題を提示したんだ。オレたちの完敗だな」

 オレの言葉に気をよくしたマスターは、新作のミートパイを敗残者であるオレたちに只で振る舞ってくれた。

 マスターが出題する推理クイズの出来栄えは、毎回ほぼ完ぺきだ。ただ、今回のミートパイがちょっと……。

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