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スモール・マウンテン  作者: 大原英一
第一話 銃のある喫茶店
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撃ちたくない

「ミリタリー・オタクですよ。ようするに、戦争ごっこが好きな人たちが集まって、生き残りをかけたゲームをするわけです。それがサバゲー」

 オレは丁寧かつ真摯にマスターに教えたつもりだった。が、彼はいきなりキレだした。

「うちの店でやらないでよ!」

「キレるところ、そこ? ……なんでオレにキレてんすか」

「話の腰を折ってしまったね、さ、どうぞ続けて」

 マスターは可奈さんにむかって、にこやかに言った。いや、あんたでしょーよ……。


「きっかけは、この銃でした」

 彼女の話によれば3日前、いきなりこの銃が自宅に届けられたそうだ。そして彼女は得体のしれない連中に襲われるようになった。まさに、さっきみたく。

「なるほど。参加表明もしていないのに、とつぜん巻き込まれてしまったわけだね、そのサバゲーとやらに」

 マスターが腕を組みつつ言った。


「でも、なんで銃を手放すようなこと、したんですか。……失礼ですけどこれ、忘れたんじゃなく、わざとこの店に置いて行ったんですよね?」

 オレはあえて突っ込んだ質問をした。案の定、可奈さんは俯いて黙ってしまった。マスターがおい石原くん、と声を出さずにたしなめた。いやマスター、これは避けて通れない問題ですから。

「ごめんなさい……本当にごめんなさい」

 彼女はいまにも泣き出しそうだった。

「どういうことか、教えてくれないかな」

 最上級のやさしい口調でマスターが聞いた。


 やがて可奈さんは口を開いた。

 彼女は考えたそうだ。もしかして、この銃には発信機が仕掛けられているのではないか、と。それで敵に居場所がバレているのではないか、と。


「なるほどねー。銃を手放してしまえば、襲われる理由もなくなると考えたわけだ」

「でも、勝手すぎますよね。そんな危ないモノを他所よそのかたに押しつけてしまうなんて……」

 可奈さんは申し訳なさそうにそう言った。彼女はきっと苦しんだのだ。それでみずから銃を回収しにこの店へやってきた。やっぱり、いいひとだ。美人だし。

「それなら、いっそのこと、川にでも投げ捨てちゃえばよかったんじゃないですか?」

「不法投棄はよくないよ、石原くん」

 ……マスター、ちょっと黙っててもらって、いいですか。


「いえ、でも……捨てるっていうのは、ちょっと。あとでやっぱり必要になるかも、しれないですし」

 一瞬、オレとマスターは目が点になった。この可奈さんって女性、意外としたたかで利口かもしれない。


「まあ、けっきょく、可奈さんの予想は外れていたんでしょ? この銃は丸1日ここにあったけど、あなたがやってくるまで誰も襲われたりしなかった。ですよね、マスター?」

「うん……無事だった」

 すると彼女はゆっくりうなずいた。

「おっしゃるとおりです。連中は丸腰のアタシでも容赦なく襲ってきました。銃の有り無しは、関係なかったみたいです」

「それにしても、よく丸腰でいままで無事だったねえ」

 マスターが感心するように言った。と、彼はオレと目が合った。きっとおなじことを思い出していたはずだ。

 さっきの戦闘で、たしか可奈さんは一度も発砲しなかった……。


「あのう、つかぬことをお聞きしますが、あなたはこの銃で人を撃ったことなんかは……」

「まだ、ありません。できれば撃ちたくないんです」

 彼女の目には底知れぬ力強さがあった。降参しなければいつでも撃ちますよ、そう言っているようだった。

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