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スモール・マウンテン  作者: 大原英一
第四話 セクシー・バス・ストップ
37/40

後編(図解あり)

 マスターはカウンターの下からメモ用紙とサインペンを取り出すと、なにやら図のようなものを描きはじめた(下図参照)。


挿絵(By みてみん)


「なんすか、これ……グラフ?」

「なに言ってんの、これのどこがグラフか。地図だよ」

「すみません、地図に見えませーん。てか、地図ならこっちのほうが詳細で正確です」

 言ってオレはスマホを突き出した。

「ちがうんだよ石原くん、これはエッセンスなんだ。ぜい肉をいであるんだよ」

「いや削ぎすぎでしょう。……この矢印は何なんです?」


「ボクの話、ちゃんと聞いてた? ヒントはバスが右折することだって言ったでしょーよ」

「あー……はいはい。なんかこれ、わざとわかりにくくしてませんか。この微妙に3角形なかんじと英記号の配置が、幾何学的で混乱すると言いますか……」


「幾何学的とか、いいから。はい、どうこれ。これが真相だよ」

 マスターは本格的にドヤ顔だ。そしてオレは思った。彼は本格的に教師には向かない、と。

「マスター、オレ頭わるいんで、ひとつずつ教えてもらっても、いいですか。まずこのAは何ですか?」

「なーに、いつもの石原くんらしくないじゃない。話の流れからすれば『A病院入口』にきまってるじゃない」

 なるほどね、だいたいそんな気はしていたけど……。

「ま、オレもそうじゃないかなーって思ってましたけど。でもねマスター、さっきの話にBとかXなんて出てきませんでしたよね?」


「ついでに言うと、このAからXにつながる汚ったない点々が、個人的には非常に気になるんすけど!」

「はい、それ汚ったないとか言うのめる」


 図を眺めつつオレは頭をひねった。が、今回ばかりは、さっぱりだった。黒ジャンパーくんがみずから降車ブザーを押さない理由が、この図のなかにあるとは、どうしても思えない。

「マスター……ギヴ(アップ)です。このBやXがぜんぜん、わかりません」

「むつかしく考えること、ないよ。図のAは『A病院入口』だって、さっき言ったよね。そこを通過するとバスは右折する。じゃあBは何だと思う?」

「……つぎの停留所、ですか」

「正解」


 マスターはうれしそうに歯を見せた。

「つぎの停留所が、どうしたってんです?」

「はい、どうぞ」

 彼はそう言ってオレにサインペンを渡した。

「このペンでBとXをつないじゃいなよ。きみの言う『汚ったない』点々で」


 その瞬間、オレの背に雷のような衝撃が走った。

「ああああああーーー……そういうことかあ」

 言われたとおりBとXを点線で繋いでみる。オレはペンをおいて言った。

「このXは、AとBの中間地点なんすねー」

「そういうこと。これで黒ジャンパーくんの目的地がわかったろ? 彼にしてみれば『A病院入口』で降りようと、ひとつさきのB停留所で降りようと、歩く距離に大差ないんだ。料金的にも変わらないって、さっききみが言ったよね」

「マスター、天才」

 ただただ感嘆するしかなかった。


「じゃあ、そうか……ヤツにしてみたら、最悪B停留所で降りればいい。『A病院入口』で誰かが降車ブザーを押してくれたらラッキー、くらいの感覚かー」

「だね。きみが彼にチキンレースを挑んでも、けっして勝てないわけだ」



「ありがとうございますマスター、おかげでスッキリしました。……これ、お礼です」

 オレはカウンターの上に小銭をおいて言った。

「お礼じゃないでしょ、それコーヒー代でしょ」

 マスターが笑った。

「じゃあそろそろ帰ります、今日も夜勤なんで」

 席を立ってマスターにあいさつした。





「あ、石原くん」

「はい?」

 ドア付近でマスターに呼び留められた。

「忘れ物。きみの大事な帽子」

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