閑話
とある会社の喫煙所。そこでふたりの男性がタバコを吸いながら談笑していた。その会社に勤める高見と今泉である。高見のほうが今泉より、ほんのすこしだけ先輩だった。
「いつも夜勤のときさあ、バスでくるんだけど……」
高見がいきなり話しはじめたので、とりあえず今泉はええ、と相づちを打った。
「顔見知りのおっさんがいるのよ。しかもそいつ、オレとおなじ停留所で降りるの」
「へえ。そのおっさんが、どうかしたんですか」
「トールさんに似ている」
「トールさんって、あの『できるかじゃん』の?」
「そう」
高見は愉快そうに、うなずいた。「できるかじゃん」は有名な教育番組で、トールさんはそのメイン・キャストだ。背高ノッポのトールさんといえば、しらないキッズはいないだろう。
「じゃあジミー・ペイジにも似てるんだ?」
言って今泉は吹き出した。
「いや、似てない似てない」高見もつられて笑った。「本物のトールさんはジミー・ペイジに似ているけど!」
「なんだあ、トールさんの劣化版かあ」
「そう、だいぶ劣化しているな、あれは」
そして高見は、おっさんの腹が出ているだの顔が腹立つだのと、散々にこき下ろした。
「それって、もはやトールさんの面影もないじゃないっすか」
ひとしきり笑ったあとで高見が言った。
「あー、そうだね。チューリップ・ハットだけだね共通点は」
人間、どこでどんな言われかたをしているか、わかったものじゃない……。




