表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スモール・マウンテン  作者: 大原英一
第四話 セクシー・バス・ストップ
35/40

前編

「解せぬ」

 行きつけの喫茶店「スモール・マウンテン」でコーヒーを飲みながら、オレは独りつぶやいた。もちろんマスターに聞えるように。

「なに、今日はどうしたの」

 マスターがカウンターのむこうで、にやりと笑う。

「オレね、夜勤のとき、バスをつかっているんすけど、顔見知りがいるんすよ」

「ん、それって、たまたまおなじバスに乗り合わせるってこと?」

「そうそう……いや、たまたまってゆうか、かなりの頻度で会うんです」

「その相手ってまさか、女性?」

 またマスターがにやりとした。

「だと、いいんすけど。残念ながら男です。たぶん、オレとおなじ夜勤者じゃないかな。ローテーションがかなり似通っているから」


「その人がどうしたの、なにがせないの?」

「かりに黒ジャンパーと呼びましょうか。そいつ、だいたい黒いジャンパーを着ているんで、夏場はべつとして」


「その黒ジャンパーくん、オレとおなじ停留所で降りるんすよ。『A病院入口』ってところで」

「うん」

「ところがね、そいつ、ぜったいに降車ブザーを押さないんです」

「こうしゃ?」

「降車ブザーですよ。つぎ降りますってときに、赤いボタンを押すでしょう」

「あー、はいはい。……えっ、ブザーを押さない?」

「そう、きまってオレが押すんです。その黒ジャンパーくんは、オレがブザーを押すのを待っているの」

「へえ、変わった人だね」


 オレはゆっくりと、うなずいた。

「あるとき、ふと思いついて、チキンレースみたいなことを仕掛けてみたんです。バスが『A病院入口』に到着するギリギリまで、降車ブザーを押さないってゆう」


「……うん、そしたら?」

 マスターが困ったような笑顔で聞いた。オレの大人げない行動に呆れているのだろう。

「結果はオレの負けでした。とにかく黒ジャンパーくんは、いっさいブザーに手を伸ばしません。こっちの様子をうかがっているかんじすら、ないんです」

「ふーむ、ミスター他力本願かあ」

「そういうこと。でも、ヤツが『A病院入口』で降りるのは間違いないんです。どうやったら、あんなふうにブザーを他人まかせにできるのか、不思議でしょうがない」



「ん?」



 いきなりマスターがヘンな声を出した。そして彼はオレに聞いた。

「石原くん、きみとその黒ジャンパーくんが乗り合わせるバスの、路線図ってある?」

「あ、はい」

 オレはスマホを取り出して、グーグル・マップをひらいた。南が丘駅発、北岡駅行き13系統、で検索をかける。路線図の全体像が表示されたところで、画面をマスターに見せた。


「もうちょっとピンポイントで、きみたちが降りる停留所の周辺が見たい」

 リクエストにお応えして、オレは画像を拡大してあげた。

「やっぱりね」

 画面を眺めつつ、マスターは独りでうなずいた。オレには、さっぱりだった。

「石原くん、もうひとつ質問。バス料金て、たとえば降車する停留所によって、ちがったりするの?」

「いや、始発から終点まで、どこで降りても定額です」

「オッケー、完ぺきだ。謎はすべて解けたよ」


 なんか、いつもオレが言っているセリフをマスターに盗られてくやしかった。

「マジですか」

「うん、」マスターはドヤ顔だった。「ヒントはね、きみたちが降りる『A病院入口』を過ぎたあと、バスが右折するということだ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ