【解決編】後編
可奈さんがあまりにあっさり言ったので、オレは目が点になった。
「アタシのほうでも、おなじことが起きています。山元さんの番号、彼と通話した記録のいっさいが消えてしまいました」
彼女もオレとおなじ状況だとわかり、思わずホッとしたような、だがそれはそれで薄気味わるいような微妙な気持ちになった。
「え……それって、どういうこと? そんなこと、ふつう、ありえないよね」
マスターが眉根をよせて言った。
「そうですね、」と可奈さん。「夢で見たしらない人たちと現実に出会うっていうのも、そう。うちの広告を偶然見つけたっていうのも、そう」
「それ、オレのやつばっかりじゃないですか!」
彼女はふと考え込むように視線を落とした。そして、すっかり冷めてしまったコーヒーカップに手を伸ばして言った。
「おもに石原さんの身の周りで起きた、数々の不可解な事象。これらを説明するには2通りの方法があります。
ひとつ、霊の仕業。心霊現象というやつです。山元さんも、山元さんにとっての多々木所長も、若林さんも、この世には存在しない。今回たまたま運のわるかった石原さんが、彼らに呪われてしまったんですね。ついでにアタシもちょっぴり呪われたと、それですべて説明がつきます」
「……もうひとつは? ってか、可奈さんは心霊説なんて採りませんよね」
オレは思いっきり脱力しながら聞いた。きっと薄ら笑いを浮かべていたと思う。
「そうですね」
可奈さんはすごくいい笑顔で言った。
「もうひとつの可能性、それは催眠術です」
オレとマスターは一瞬、目が点になった。いやいやいや、そんなドヤ顔で言われても……。
「石原さんは彼らの夢なんか見ていない、見たと思い込まされていたんです。催眠術はすごいですよ。ばっちり効いていれば、術者の思いどおりになります。だから、石原さんもアタシもちょいちょい、山元さんに操られていたんじゃないでしょうか」
「なんか、それって……心霊説と大差ないような気がするのは、オレだけでしょうか」
「ボクも……あ、ごめんね」
「そうですか?」
だが可奈さんは、まったく明るい表情を崩そうとしない。
「これでいいと思いますよ。たぶん、山元さんはもう、あらわれないでしょうし」
「なぜ、わかるんです?」
「だって、」彼女は笑った。「山元さんは自分の携帯番号をアタシたちの履歴から消したじゃないですか。それってもう、かけてくんな、ってことでしょう」
「たしかに……でも、」オレは腑に落ちなかった。「だったら彼は、そもそもなぜオレらに絡んできたんです?」
可奈さんは無言だった。そうだ、彼女にわかるわけがない。彼女はヤマゲンじゃないんだから。
「マスター、コーヒーごちそうさまでした」
彼女はおもむろに財布を取り出した。うそーん、これで解決かよ……。
「あーっ、いいのいいの。今日のお代はいいから、また(コーヒー)飲みにいらしてください」
「ごちそうさまです」
ぺこりと頭を垂れる彼女に、マスターが聞いた。
「あの……今日ボクなにか、お役に立てたでしょうか」
「もちろんですっ」
背筋をぴんっ、と伸ばして可奈さんは言った。
「今夜、マスターの存在は必要不可欠でした」
「どうして、かな」
「アタシと石原さんだけじゃあ不安でしたから。ふたりとも、まだ術中かもしれないでしょう?」
言って彼女はふふ、と笑った。
(了)




