【解決編】中編
マスターが3人分のコーヒーをテーブル席に運んできた。そのうちの1杯は店主自身が飲む。今日はそんな特別な日だ。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
可奈さんはマスターが席に着くのを見計らって、話を切り出した。
「今晩はお時間をとっていただき、ありがとうございます。またお店を借りてしまって申し訳ありません」
「お気になさらずに。さ、冷めないうちにどうぞ」
「いただきます」
会釈して彼女はコーヒーカップに口をつけた。
「あ、おいしい」
可奈さんはゆっくりとカップを置いた。
「石原さん、マスターはどこまで事情をご存じでしょうか?」
「えっと……オレが妙な夢を見たということ、それだけだと思います」
ふと思いついてオレは彼女に聞いた。
「ってゆうか、夢の話、可奈さんにもまだ伝えていませんでしたよね」
「夢ね……なるほど」
彼女はうんうん、とうなずいた。
「とりあえず、アタシ側から事情を説明します。アタシ側と石原さん側のふたつのストーリー、それがマスターのなかでつながってくれたら、うまく説明できたことになるはずです」
「おまかせします」
オレが言うと、マスターもうなずいた。
可奈さんのストーリー、その1。
ある日、山元という男が事務所にやってきて、おかしなことを言い出した。自分はここの職員だが、雇い主である多々木さんや同僚の若林さんのすがたが見えない、と。
可奈さんは山元に説明した。ここの事務所は2年まえに代替わりしていて、当時の職員は誰も残っていない、と。
山元はどうやら、この2年間の記憶を丸々うしなっているらしかった。可奈さんは山元が立ち去る際、彼の携帯番号を聞き出した。
もし2年まえまでの職員のことでなにか情報が入ったら、かならずお伝えすると約束して。
そこまで聞いて、オレは居ても立ってもいられなくなった。山元すなわちヤマゲンの携帯番号……それがめっちゃ気になる。
だが、話の腰を折るまいとオレは我慢した。
可奈さんのストーリー、その2。
またある日、石原という男から電話があった。彼もまた2年まえの事務所および職員について質問してきた。
可奈さんは山元に話したように、事務所は2年まえに代替わりしている旨を石原にも伝えた。
電話で石原は、先代の所長のほかにヤマゲン、若林という名前を口にしていた。先日訪ねてきた山元も、たしか若林という名を口に……。
そこで可奈さんは、ふと気づいたそうだ。石原の言うヤマゲンとは山元のことじゃないか、と。
山元のときと同様に、なにかわかったら連絡すると石原に伝え、可奈さんは電話を切った。
そして彼女は即、山元に連絡を取った。石原という男がヤマゲンや若林を捜しているが、ヤマゲンとは山元のことじゃないか、と。
可奈さんは山元に、石原の携帯番号を教えた。
オレはハラハラしながら彼女の話を聞いていたが、とりあえず、ここまでは居酒屋でヤマゲンから聞いた内容とおなじだった。
だから、このあと可奈さんから伝えられた事実に、死ぬほど驚いた。




