【解決編】前編
ミーティング当日。オレは、なまら駅まで彼女を迎えに出た。自称探偵の多々木可奈さんを。
自称とか付けちゃってホントごめんなさい、べつに疑っているわけじゃあないんです。ただ、ここのところ人間不信ってゆうか、いろいろあったもので……。
脳内でゴニョゴニョとやっているうちにスマホに着信があった。
「もしもし石原です」
「あ、多々木です。いま着きました」
すると、改札口から思わず2度見するほどの美人がスマホを耳にあてながら出てきた。
「石原さん、どこですか。アタシいま手を振っています」
その声がオレを失望させた。改札から出てきた美人さんは手を振っていなかったからだ。
オレはぐるりと辺りを見回した。そして後方5メートルくらいの横断歩道を挟んだむこうに、小っさな女性が手を振っているのを見つけた。
「はじめまして、石原です」
「こちらこそ、はじめまして」
言うなり彼女は名刺を差し出した。
【多々木探偵事務所 所長 多々木可奈】と書かれてあった。
名刺などただの紙キレだ。でも、きちんとそれを渡す彼女は律儀な女性だと思った。
可奈さんは小っさくて可愛らしいかただった。大島U子をちょっと、ぽっちゃりさせたような感じだ。失礼だな、大島U子の数年後といった感じか。それもまた失礼だな。
「てっきり、電車でいらっしゃるのかと」
「別件があってクルマで移動していたものですから。遠くぅのパーキングに停めて、ここまで歩いてきました」
「お手数かけまして、すみません」オレは頭を下げた。「立会人のいる喫茶店は、すぐそこですから」
「あ、立会人とかそんなっ」
彼女は大げさに手を振ってみせた。
「アタシ自身、ちょっと自信がないもので」
「……?」
ぽかんとするオレに、彼女は説明なしだった。
喫茶「スモール・マウンテン」まで可奈さんを案内すると、オレはさっそくマスターに彼女を紹介した。くそ、できることなら探偵さんじゃなくガールフレンドがよかったぜ。
マスターはド緊張とそれを隠そうとするヘンな微笑みで、えも言われぬ表情をしていた。人は陪審員役を無理くり押しつけられるときっと、こんな面持ちになるのだろう。
可奈さんはマスターにも律儀に名刺を渡しながら言った。
「あのう、先ほども石原さんにはお伝えしたのですが……あまり緊張なさらないでください。アタシはべつに、誰かを告発しにきたわけじゃないんですから」
「え、そうなの? ……ボクはまた、石原くんがシャレにならないことでも、やらかしたのかと」
「なんでそう、なるんすか。むしろ被害者ですよオレ」
「あはっ……ごめん。冗談だよ、プリティ・ギャグ」
はい出ました、マスターの親父ギャグ。プリティ・ギャルとギャグをかけているのである。
ところが可奈さんには大ウケだった。うふっ、うふふ……ふははははと、ついには大爆笑ですよ。よかったねーマスター。
「マスター、コーヒーを1杯いただけます?」
涙を拭いながら彼女は注文した。そんなにおかしかったんかい!
「いま、とびきりおいしいのを淹れているからね。石原くんも」
マスターがカウンターに入って、やっとオレらは席に着くことができた。




