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スモール・マウンテン  作者: 大原英一
第三話 レイニーレイニー……レイニーブルー
31/40

【解決編】前編

 ミーティング当日。オレは、なまら駅まで彼女を迎えに出た。自称探偵の多々木可奈さんを。

 自称とか付けちゃってホントごめんなさい、べつに疑っているわけじゃあないんです。ただ、ここのところ人間不信ってゆうか、いろいろあったもので……。

 脳内でゴニョゴニョとやっているうちにスマホに着信があった。

「もしもし石原です」

「あ、多々木です。いま着きました」

 すると、改札口から思わず2度見するほどの美人がスマホを耳にあてながら出てきた。


「石原さん、どこですか。アタシいま手を振っています」

 その声がオレを失望させた。改札から出てきた美人さんは手を振っていなかったからだ。

 オレはぐるりと辺りを見回した。そして後方5メートルくらいの横断歩道を挟んだむこうに、小っさな女性が手を振っているのを見つけた。


「はじめまして、石原です」

「こちらこそ、はじめまして」

 言うなり彼女は名刺を差し出した。

【多々木探偵事務所 所長 多々木可奈】と書かれてあった。

 名刺などただの紙キレだ。でも、きちんとそれを渡す彼女は律儀な女性ひとだと思った。

 可奈さんは小っさくて可愛らしいかただった。大島U子をちょっと、ぽっちゃりさせたような感じだ。失礼だな、大島U子の数年後といった感じか。それもまた失礼だな。

「てっきり、電車でいらっしゃるのかと」

「別件があってクルマで移動していたものですから。とおくぅのパーキングに停めて、ここまで歩いてきました」


「お手数かけまして、すみません」オレは頭を下げた。「立会人のいる喫茶店は、すぐそこですから」

「あ、立会人とかそんなっ」

 彼女は大げさに手を振ってみせた。

「アタシ自身、ちょっと自信がないもので」

「……?」

 ぽかんとするオレに、彼女は説明なしだった。



 喫茶「スモール・マウンテン」まで可奈さんを案内すると、オレはさっそくマスターに彼女を紹介した。くそ、できることなら探偵さんじゃなくガールフレンドがよかったぜ。

 マスターはド緊張とそれを隠そうとするヘンな微笑みで、えも言われぬ表情をしていた。人は陪審員役を無理くり押しつけられるときっと、こんな面持ちになるのだろう。

 可奈さんはマスターにも律儀に名刺を渡しながら言った。

「あのう、先ほども石原さんにはお伝えしたのですが……あまり緊張なさらないでください。アタシはべつに、誰かを告発しにきたわけじゃないんですから」


「え、そうなの? ……ボクはまた、石原くんがシャレにならないことでも、やらかしたのかと」

「なんでそう、なるんすか。むしろ被害者ですよオレ」

「あはっ……ごめん。冗談だよ、プリティ・ギャグ」


 はい出ました、マスターの親父ギャグ。プリティ・ギャルとギャグをかけているのである。

 ところが可奈さんには大ウケだった。うふっ、うふふ……ふははははと、ついには大爆笑ですよ。よかったねーマスター。

「マスター、コーヒーを1杯いただけます?」

 涙を拭いながら彼女は注文した。そんなにおかしかったんかい!

「いま、とびきりおいしいのを淹れているからね。石原くんも」

 マスターがカウンターに入って、やっとオレらは席に着くことができた。

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