裏7
【多々木探偵事務所 090-XXXX-XXXX】
この広告チラシを目にするのはこれで2度目だ。たった2日のあいだに、またおなじチラシが投函されていた。
どんだけ営業熱心なんだよ!
……ふと違和感をおぼえた。あれ、ここの番号ってたしか「050」からはじまってなかったっけ?
つぎの瞬間、背筋がぞわりとした。この番号……「090」からのそれに見おぼえがあった。
とりあえず大量のチラシを廃棄ボックスに突っ込み、探偵事務所のそれだけを持って、アパートの自室へと駆け込んだ。
「マジかよ……」
部屋に入るなりスマホを取り出して通話履歴をしらべた。そこに表示された番号と広告チラシの番号を照合し、思わず、くずおれた。
どちらもヤマゲンの携帯番号だったのだ。
通話履歴にその番号があるのはヘンじゃない。オレが直近に通話したのはヤマゲンなんだから。
だが、おなじ番号が探偵事務所の広告チラシに載っているのは、めちゃめちゃヘンだ。彼はもうそこの職員じゃない。
ふと思い出して、通話履歴を見直した。オレが2日まえにかけた「050」からの番号をさがそうと。
見つからなかった、最悪だ。
しらないうちに履歴から削除してしまったのか。いや、それはないでしょう……。目眩がしてきた。
考えるまでもなく異常事態だった。ただの思いちがいなら、まだ救いがある。だが、これはあきらかに記憶ちがいだ。
この2日のうちに、オレはふたりの人間と通話している。少なくともそう記憶している。だが番号はひとつしかない。
えらいこっちゃ、で。
意をけっしてリダイヤルした。これで、はっきりする。存在しないのはヤマゲンか、それとも探偵か。
数回のコールで電話がつながった。心臓がバクバクしていた。
「もしもし」
電話の声は女性だった。時刻は22時半を指していた。
「夜分にすみません。石原ですが」
「どうかされました」
「あの、多々木可奈さんですよね?」
「……やっぱり」
その「やっぱり」は、意味はわかんなかったけど、オレにとってとても心強く響いた。思わず泣きそうになった。
「あの可奈さん……オレ、えらいことになっ」
「石原さん」
彼女はオレに、皆まで言わせなかった。
数日後、オレは探偵の多々木可奈さんと会うことになった。場所はオレの行きつけの喫茶店「スモール・マウンテン」である。
オレと会う際、信頼できる第三者に立ち会ってほしい、との彼女の要望だった。それで申し訳ないけど、マスターに頼み込んで閉店後にちょっとだけ、店をつかわせてもらえることになった。
マスターにとっちゃいい迷惑だが、オレのあまりの必死さに、ついに首をたてにふってくれた。
彼も、オレが夢の話をしたあたりから、なんかおかしいと気づいていたらしい。さすがマスター。




