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スモール・マウンテン  作者: 大原英一
第一話 銃のある喫茶店
3/40

ヒロイン

「タダギ……カナさん?」

 マスターはまさに老眼全開といった様子で、彼女が渡した運転免許証を遠くにかざして読みあげた。

「たたき、です」

「あー、そう。めずらしい苗字だね」

「よく言われます。発音もしづらいので、可奈でけっこうです」

「可奈」

「って、呼び捨てかよ!」

 おいしいとこ、いただいちゃいました。可奈さんが笑ってくれた。このマスターは本当に気がきくのだ。オレのつたないツッコミで場を和ませる効果ももちろんあったが、オレ自身、自己紹介がしやすい状況になる。


「あ、はじめまして。この店の常連で石原といいます」

「小山です。ここの店長をしてます。……こちら、お返ししますね」

 そう言ってマスターは彼女に免許証を手渡した。

 可奈さんは会釈しながら受け取ると、それをまたバッグのなかにしまった。

 ここまではよかった。ここまでは、よかったのだ……。


 とつぜん背後でドアを開けるカランコロン音が鳴った。おいおい冗談じゃないぜ、これ以上関係者を増やしたくない。

 そう思いつつ来店者の顔をたしかめようとした矢先だった。

 そいつはオレらに銃を向けてきた。咄嗟のことで相手が男か女か判別できなかった。いやちがう、そいつはゴーグルをしていたのだ。

 すべてが一瞬のできごとで、わけがわからなかった。

 可奈さんの動きだけが断片的に見えた。とても人間業とは思えなかった。彼女はイナバウアーのように上体を思いっきり反らせ、また元の位置にもどす動きをした。

 いつのまに彼女は席を立ったのか。いつのまに彼女は、カウンターの上にあった銃をかすめ取ったのか……。


 音に気づいたのは、どのタイミングだったか。びしっ、という音。そのあとで十円玉がカウンターの近くを転がった。

 襲撃者の様子がおかしかった。銃を可奈さんに向けたまま、ぶるぶると震えている。

 可奈さんは銃を握っていた。彼女自身の忘れ物だ。その威力をオレらはよくしっている。


「ひっ……ヒット!」

 いきなり襲撃者が言って、彼は手をあげた。かなりうわずっていたが男の声だった。そして彼は降参したらしい。

 襲撃者はそのまま肩をおとして店を出て行った。ドアが閉まり彼がすがたを消すまで、可奈さんは銃をかまえたままだった。

「……ちょっと、なんだったの、いまの」

 震える声でマスターが可奈さんに聞いた。

「マスター……アタシにもコーヒーをいただけますか。のど、渇いちゃって」



 マスターの判断により、店のドアは内側からカギがかけられた。どうも今日は「クローズド」の表札が見えない人たちが多いらしい。オレもそのひとりなんだけど。

 可奈さんはコーヒーを、オレとマスターは説明を欲しがった。

 そこはレディ・ファーストっていうことで、とりあえず、彼女がこの店の特製スペシャル・ブレンドで喉を潤すのを待つことにした。

 特製とスペシャルって意味がかぶっていませんか、とオレが指摘したら、特製オリジナルだよ、と逆にマスターにダメだしされた。ごめんなさい。


「なんか……サバゲーの一種みたいです」

 可奈さんは唐突に話しはじめた。

「サバゲー?」

「サバイバル・ゲーム。ミリオタの人たちなんかがやる、あれですよ」

 ちんぷんかんぷんといった様子のマスターにオレが補足した。

「ミリオタ?」

 うわ、めんどくせ。このおっさん、めんどくせ。

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