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スモール・マウンテン  作者: 大原英一
第三話 レイニーレイニー……レイニーブルー
29/40

裏6

「じゃあ、夢で見た多々木さんや、若林さんの顔はおぼえてないんですね?」

 ゆっくりと紫煙を吐いたあとでヤマゲンが聞いた。

「ええ、残念ながら。……あ、若林さんという女性のヘア・スタイルだけは、おぼえています。けっこうきついパーマをあてていたような」

 オレがそう言うと、彼はバッグからごそごそとなにかを取り出した。彼がオレに見せてくれたのは、1枚の写真だった。


 そこには男性ふたりと女性ひとりが写っていた。

 片方の男性はヤマゲンだったので、もう片方が先代の所長……多々木のおっさんだろう。そして紅一点となる女性が若林さんにちがいない。

 若林さんはけっこうな美人で、そのちりっちりのパーマが特徴的だった。

「まさに予知夢ですね、すごい」

 彼はオレを尊敬の眼差しですら見ている。ちょっと、反応よすぎだよヤマゲンさん!

 ぶっちゃけ、そんなん言われてもどうしたらいいか、わからなかった。

「あまり期待しないでくださいね。あなたがたの夢を見たのは2、3度で、それきりなんですから」

「また見られると、いいですね」

 ヤマゲンは素でうれしそうだった。彼はいったい、なにを期待しているのか……。



 さて、我ながら恥ずかしい話になるが、その後の記憶が覚束ない。

 とくに飲みすぎたというわけでもない、なのに、あれからヤマゲンとなにを話してどう言って別れたか、おぼえていないのだ。

 気がつくと吉祥寺駅で渋谷行きの発車待ちをしていた。スマホで時刻を見ると21時半をすぎていた。彼と2時間ちょっと飲んでいたらしい。

 なんだか狐につままれたような気分だった。まさか、いままでのこと、ぜんぶ幻だったとかいうオチはやめてくれよ?

 不安になってスマホの通話履歴を調べた。よかった、ちゃんとヤマゲンの番号がのこっている。


 それにしても。

 記憶障害とは彼もどえらい目に遭ったものだ。そしてオレの、なんちゃって予知夢……。

 いや、なんちゃってじゃない。彼の手前大騒ぎはしなかったが、これは充分自慢できるレベルだと思う。

 なんたってオレ、若林さんのちりちりパーマを言い当てちゃったからね。明日マスターにさり気なく自慢してやろう。

 ほくそ笑みながらオレは帰途についた。


 だが残酷な神さまは、オレをいい気分のまま眠らせてはくれなかった。

 自宅アパートに帰り着いたオレは、ふと郵便受けが気になった。いや、まさかね……ありえへんって。気になりだしたら、もう止まらない。オレは郵便受けを開けた。



 ばささああーーっっ



 あふれ出した大量の広告チラシをまえに、オレは目が点になった。危惧していたことが現実になった。

 考えられない。2日まえにそれまで溜まっていた、約ひと月分のチラシを廃棄したばかりだ。

 たった2日でこんなに溜まるわけがない……。

 オレはため息を吐きつつ足元のチラシをかき集めた。宅配ピザ、寿司、たこやき、ハンバーガー……よくもまあ、飽きもせずにおなじようなラインナップで攻めてくるものだ。

 そして1枚の広告チラシが目に留まり、思わず心臓が凍りそうになった。

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