表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スモール・マウンテン  作者: 大原英一
第三話 レイニーレイニー……レイニーブルー
28/40

裏5

 オレはヤマゲンにことわってタバコに火を点けた。

「山元さんは(タバコ)吸われないんですか」

「以前は吸っていたみたい、なんですけどね。その習慣ともども忘れてしまったようで……」

 そう言って彼は寂しそうに笑った。

 オレは大きく煙を吐き出した。そして彼に聞いた。

「その空白の2年間は、どうやって過ごされていたんです?」

「派遣社員として働いていたようです。アパートの更新もしていたようですし、つまり、生活自体は成り立っていたんです」

「なるほど、」とオレ。「ただ2年間の記憶のみが、最近になってすっぽり抜け落ちてしまったと」

 ヤマゲンは無言でうなずくと、ビール・ジョッキに口をつけた。


 さーて、どうするべえよ、この状況……。

 ヤマゲンがウソを言っているようには思えない。いや、そもそもそんなウソをついて、彼になんのメリットがあろう。

 彼はオレに会いたいと言った。その真意を聞くべきだ。


「山元さん、あなたが今日オレに会いたいと言った、その理由は何なのです?」

「可奈さんが教えてくれました。ヤマゲンという男性をさがしている人がいるが、山元あなたがそのヤマゲンではないか、と」

 思わずオレはうなった。

「ナイス読みですね、さすが探偵さんだ」

「ええ、さらにその人は若林という女性もさがしていると、可奈さんはおっしゃった。オレは飛びつきましたよ。ヤマゲンと若林、そのふたりをしっているとすれば、その人は2年まえの探偵事務所をしっているかただ。それが石原さん、あなただったというわけです」


 オレはすっかり冷めてしまった焼き鳥の串を取り、しばし黙った。考えた挙句、ついにアレを出すことにきめた。

 切り札というやつを。


「あの山元さん……オレも、気持ちのわるい話をしても、いいですか」

「どうぞ。愛の告白以外なら」

 彼はそう言って笑った。彼自身の重い話を終えたからか、心なしか余裕があるようにみえた。

「じつはオレ、先代の所長も若林さんも、山元さんあなたのことも、なにもしらないんです」

「えっ、」

 ヤマゲンはぽかんとした。まあ、そうなるだろう。しらない人たちをさがしていた石原オレは何者だって話になる。

「夢を見ました。あなたがた3人の夢を」

 オレは正直に彼に話した。夢の内容と、そしてたまたま多々木探偵事務所の広告チラシを見つけたことを。


 ヤマゲンはしばらく呆然としていた。彼が怒り出すんじゃないかとオレは心配にすらなった。

「……マジっすか!」

 とつぜん彼が大っきな声で言った。怒っているかんじではなく、素直に驚いているようだ。


「うっわー……そんなことって、あるんですねえ」

 いやいやいや、なんかオレだけ不思議ちゃんみたいな空気になっているけど、あんたもかなり深刻な状況だからね? ヤマゲンさん。

「なので、たぶん、あなたのご期待には沿えないかと」

 言ってオレは彼に頭を下げた。

「いや、とんでもない。頭を上げてください。……あの石原さん、タバコ1本もらっても?」

「どうぞどうぞ」

 ヤマゲンは吸わなかったはずのタバコに火を点けた。まあ、気持ちはわからんでもなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ