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スモール・マウンテン  作者: 大原英一
第三話 レイニーレイニー……レイニーブルー
26/40

裏3

 スマホを握る手が汗ばむ。オレは腹をきめて電話の女性に聞いた。

「あの、そちらの職員のかたで若林さんという女性、もしくはヤマゲンさんという男性は、いらっしゃらないでしょうか」

「……おりませんが」

 すこしの沈黙があった。やがて彼女は言った。

「私が叔父から引き継いだのは事務所だけで、職員とそれから顧客についても、叔父がやっていた当時からの連続性はないんです。申し訳ありませんが」

「そうですか……」

 オレは額に手をあてた。 若林とヤマゲンという2発の残弾も不発に終わった。お手上げだった。


「お電話でいきなりヘンなことを尋ねまして、こちらこそすみません。ありがとうございました」

 彼女に礼を言ってオレは電話を切ろうとした。

「あ、あのっ」

 すると彼女に引き留められた。

「なにか?」

「えっと、石原さん……でしたよね」


 はい、とオレは答えた。すでに名乗ったことを忘れていたので、ちょっとビックリした。さすが探偵さんである。

「さっきおっしゃった2名のことで、なにかわかりましたら、お伝えしましょうか?」

「あっ、それは助かります」

 思わずガッツポーズした。これはまだ、一縷の望みがあるかもしれない。

「いまお電話いただいている、この番号でよろしいですか?」

「はい大丈夫です」

「申しおくれました、私、ここの所長をしております多々木可奈です」

 じゃあまたよろしくお願いします、そう言ってオレは電話を切った。



 それから30分もしないうちに電話がかかってきた。早っ。だがスマホに表示された番号は、さっきオレがかけた探偵事務所の番号ではなかった。とりあえず「通話」をタッチした。

「もしもし」

「石原さんの携帯電話でお間違いないでしょうか。山元と申します」

「ヤマモト、さん」

 山元と名乗ったその男性に、オレはまったく心当たりがなかった。

「多々木探偵事務所のかたから石原さんの番号を聞きまして、お電話しました。突然すみません」


「いいえ……それで、あなたは」

「単刀直入にいきます。オレがヤマゲンです。山元やまもとの『元』が元気のゲンで、そう呼ばれていました」


 オレはフライパンで頭をぶん殴られたような衝撃をうけた。こんなことって、あるのか。信じられなかった。

「……そうですか、あなたが。はじめまして石原です」

 なんか微妙なあいさつだと我ながら思った。だが、ほかになんて言えばいい。

「こちらこそ、はじめまして。……多々木所長からあなたの話を伺いました、あ、女性のほうです多々木可奈さん」

「ええ、」とオレ。「その可奈さんの叔父御が、たしか先代の所長だったとか」

 それがつまり夢に出てくる多々木のおっさん、というわけだ。夢とかぜったい言えないけど。

「そう、オレと若林さんがお世話になっていた人です。……若林さんのことも、ご存じですよね?」


「え……ええ、まあ」

 ご存じってほどのことも、ないですけど……。やばい、このヤマゲンという男にどこまで話が伝わっているか、オレには把握できない。

 探偵はいったい、彼にどんな伝えかたをしたのか。

「石原さん、ぜひ1度、お会いしたいんですが」

「かまいませんよ、でも今日はムリです。これから夜勤ですので」

 オレはうわずった声でそう答えた。

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