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【ルールを理解している人】【計画性のある人】【勘のいい人】【運のいい人】
「そうか、そういうことか」
言いながら多々木さんはきゅっきゅっ、と名刺の裏にマジックペンでなにかを書きはじめた。
「このなかで最強のカードはどれだと思う?」
彼はお手製の4枚のカードを開示した。それが上記の【○○の人】である。
「そりゃ【運のいい人】でしょ」
オレは即答した。
「ほう、どうして」
「どうして、って……ふつう、そうじゃないですか」
「そうかね」と多々木さん。「じゃあ、今度は芽衣子くんに聞いてみよう」
そして彼はおなじように4枚のカードを若林さんに見せ、おなじ質問をした。
「うーん……【ルールを理解している人】ですかねえ」
「えーっ、マジっすか!」
オレはかなり大げさに驚いてみせた。彼女がわざと外しているような気がしたからだ。
「どう考えても【運のいい人】でしょう。宝くじだって、きっと当てちゃいますよ?」
すると多々木さんがニヤリとして言った。
「病気や事故に遭ったけど九死に一生を得た、なんてのも【運のいい人】かもね」
「なんでマイナス発進なんですか」オレは反発した。
「そういうのって、」若林さんが言った。「あまり現実的じゃないと思います。トランプのジョーカーとおなじで、たしかに、うまく機能すれば最強かもしれないけど、そもそもジョーカーの使用をみとめないルールもあるわけで。そう考えると、やっぱルールありきじゃないですか」
オレは口をパクパクさせた。たまに、この若林さんという女性が恐ろしくなる。なんて冷静で理性的な判断をするのだろう。いつもは天然なのに……。
「いやいやいや、」
だが今日のオレはゆずらなかった。
「ルールありきなのは、わかりますよ? そのうえで【運のいい人】が最強だって言っているんです」
「旅先で賊に身ぐるみ剥がされ、でも命だけは助かった人っていうのも、【運のいい人】かもね」
「だから、なんでマイナス発進やねん」思わず関西弁が出た。
見ると、いままで多々木さんが座っていた位置にマスターがいた。
「ボクはこの【計画性のある人】っての、好きだなあ」
いやマスター、好きとかじゃないから。どれが最強かを論じているのであって……。
「オレは、やっぱ【勘のいい人】っすね。カッコイイもん」
いや源次、おまえには聞いてない。あと理由が小学生か。
「石原さん、【運のいい人】なんて存在しないのよ。幸も不幸もある一定の確率でしか起こらない。それもごく僅かな確率。ジョーカーをひく確率とおなじくらいかな、でも、ジョーカーの使用をみとめないルールもまたあって……」
「あの若林さん、オレ、ヤマゲンさんじゃないの?」
「石原さん」
そこで目が覚めた。また寝汗びっしょりだった。
まあ今日のは強烈でしたわ。夢のなかに現実のメンバーまで入り乱れて、もうすごいことになってましたわ。
夢が侵食されはじめている、と直感的に思った。だがこれは侵食じゃなくて終焉だった。
これ以後、もう彼らの夢を見ることはなくなった。