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スモール・マウンテン  作者: 大原英一
第三話 レイニーレイニー……レイニーブルー
23/40

2

 お昼に多々木さんが急に立ち上がって言った。

「今日はボクがお弁当をご馳走しよう。好きなものを言いたまえ」

「アタシ、しょうが焼き」

「オレは唐揚げで」

 彼はうなずくと事務所のドアを開けて出て行った。階下のほか弁まではものの10秒だ。

 オレは3人分のお茶を淹れた。今日はオレが当番だった。

 すぐに多々木さんがお弁当を持って帰ってきた。彼はそれぞれ注文したものを配った。


「所長、いただきまーす」

「いただきます。……それ、なんです?」

 オレの問いに彼は勝ち誇って言った。

「ふふふ、のり弁だよ」

 3人で黙々とお弁当を食べた。ちくわの磯辺揚げが入っているから、のり弁なのか。どんだけちくわにこだわってんだよ!


「タイムスリップってのは、はたして可能だろうか」

 また唐突に多々木さんが言った。

「現代の科学では、無理なんじゃないですかね」

 今度は振られるまえにオレが答えた。お弁当を食べたあとの午後は、なんでもいいから喋っていないと眠くてかなわない。

「べつに現代の科学にこだわる必要はないさ。未来から誰かがやってきて、ボクらにそのノウハウを教えてくれれば、いい」

「あー、それ、このあいだテレビで見ましたよ」

 また若林さんが口を挿んできた。彼女も眠いのだろうか。

「過去へタイムスリップするのは無理みたいですね。いまだに誰も未来人と遭遇していないのが、その証拠だってテレビで」


「ふーん、過去へは無理か」

 多々木さんは腕を組んだ。

「じゃあ、未来へタイムスリップできる可能性は、まだ残されているんだな?」


「未来にタイムスリップできても、帰ってこられないんじゃあ、ほとんど死後の世界に旅立つのと変わらないですね」

 オレがそう言うと彼は笑った。

「たしかに。でも1週間くらいのスパンなら面白いかもね」

「どういうことです?」

「たとえばヤマゲンくんが、いまから1週間後の未来へ旅立つとする。いまこの世界からきみは消えるわけだ」

「そうですね」

「きみという惜しい人材をうしなった我われだが、なんと、1週間後にまたきみに会えるじゃないか」


 オレは思わず吹き出した。

「それってオレが1週間旅行に出かけたのと、おなじじゃないですか」

「我われにとっては、そう。でもきみには事情が異なる。世のなかで起こった1週間分のニュースを、きみはまったくしらないわけだから」

「なんだか浦島太郎みたいですね」若林さんが笑った。


「浦島さんてのは、あれ、そうとう立場がわるいね。……たとえば留守中に彼の家で殺人事件が起きていたら、なんて言い訳するつもりだろう」

 また多々木さんが突拍子もないことを言い出した。

「そりゃあ、ちょっと竜宮城に行ってましたって……あ、」

「竜宮城の存在を証明できればね。かなり、むずかしいだろうな」

 頭をかきつつオレは言った。

「……彼にはアリバイがないわけですね」

「彼ってゆうか、きみだけどね」





 まだその話つづいてたんかいっ……1週間旅行のやつ!

 そこで目が覚めた。また寝汗びっしょりだった。彼らの夢を見たのはこれで2度目だ。

 わかったことが、ふたつある。

 ひとつ。夢のなかでオレはヤマゲンと呼ばれているが、感情や思考は石原(オレ)そのものだということ……まあ、あたりまえか。オレの脳内だし。

 もうひとつ。親愛なるヤマゲンくんは、新入社員なのかもしらんが? ほとんど情報を持っていないということ。多々木という所長と若林という女性の名前くらいしか、彼はしらない。

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