裏1
行きつけの喫茶店「スモール・マウンテン」で朝のコーヒーにありつくと、やっと人心地がついた。
「マスター……どうしよう、オレ、ヘンな夢見ちゃった」
「美女軍団にモテモテの夢っすか」
常連仲間の源次がとなりで茶化した。
「中学生か。あと軍団て。……ちがうよ」
オレは今朝がた見た奇妙な夢のことをマスターと源次に話した。夢のなかで、オレは石原じゃなかった。ヤマゲンという男になっていた。
「そんなの、オレだってよく見ますよ。仮面ラ○ダーになっている夢とか」
「小学生か。それはアレだろ、源次が変身してるだけだろ?」
「いや、本郷た○し」
「もうええわ。あと伏せ字やめろ」
オレらばかコンビのやりとりを、マスターがにやにやしながら見ている。
「きみたち、本当に仲がいいね」
「マスター、どう思います? ……オレ、精神的にまいっているのかなあ」
「ボクは専門家じゃないからねえ。でも、たとえば、映画の断片が夢のなかで再構成されたとか、ってことはないかな」
「まあ、ありえなくは、ないですけど。それにしちゃ地味で妙にリアルなんですよねー」
言ってオレはコーヒーカップに口をつけた。
「石原さん、それ、誰かの呪いじゃないっすか」
この源次くんは、オレがもっとも恐れている可能性のひとつを、さらっと言っちゃってくれる。
「源次、おまえのうしろにお化けが」
「小学生か。……マジな話、その夢に出てくる人たちって、石原さんに助けてもらいたいんじゃないっすか?」
オレは苦い顔になった。コーヒーが苦かったわけじゃ、けっしてない。
「そんな雰囲気でもなかったけどなー」
わかってないなー、と源次は首をふった。腹立つわ。
「助けておくれ、とか恨めしやとか、そんなストレートな言いかた、するわけないっしょ? 昔話じゃないんだから。どこかに隠されているんじゃないっすか、彼らのメッセージが」
「……怖いこと言うなよ」
マスターがはっは、と笑った。
「まあ、ネガティブな要素ばかりじゃないかもよ? 夢のお告げってね。たとえば出会いとか、ね」
「幽霊との出会い、とかね」
「だから……おまえはなんで彼らを殺そう、殺そうとするんだよ」
まあ石原くん、とオレをなだめつつマスターが聞いた。
「その、夢に出てくる彼らって、どんな人たちなの? いや会社みたいなところで3人で会話してるっていうのは、さっき聞いたけれども」
オレはため息を吐いた。
「タタキっていうおっさんと、ワカバヤシっていう女性と、あとオレ扮するヤマゲンって男性の3人です。顔はおぼえていません、名前しかわからない」
「タタキにヤマゲン……変わった名前の人たちだね」
「タタキはそうとして、ヤマゲンのほうはあだ名っぽい感じですね。略称ってゆうの? 小山源次さんとか、そんな名前だったりして」
「ちょっと、オレらの名前使わないでくださいよ。……なんか、あらためて聞くとちょっと気味わるいっすね」
いまごろ気づいたか、源次よ。




