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スモール・マウンテン  作者: 大原英一
第三話 レイニーレイニー……レイニーブルー
21/40

1

「ちくわの穴ってのは、あれ、なんで開いているのかねえ」


 唐突に多々木さんが言った。

「さー、なんででしょうね」若林さんは軽く受け流した。

「なんでだと思う? ヤマゲンくん」

 ときどき思うのだ。オレがこの事務所に採用されたのは、若林さんによって迫害された多々木さんの魂を救済するためではないか、と。

「それは、まあ、穴が開いていなかったらただの蒲鉾かまぼこじゃないですか」

 オレは相手をしてあげた。ヒマだったのだ。

「そうだね、じゃあ、なんで蒲鉾とは違うちくわなんてものが、わざわざ出来たんだろう」

「……」

 そう言われても。ちょっと面倒くさくなってきた。


「あれですよ、きっと」急に若林さんが話に乗ってきた。「ちくわの穴は、そこにチーズとかきゅうりを詰めるためです。オードブル用に開発されたんじゃ、ないですか」

「いや、それはあくまで二次的なものだ」

 多々木さんは否定した。人に意見を求めておいて……まったく、タチが悪い。

「思うに、ちくわの穴ってのは、食感を軽くするためのものじゃないかな。ヤマゲンくん、きりたんぽ状の蒲鉾なんて、食べる気がする?」

「たしかに、ちょっと重いですね」

「だろう。発想としてはエア・イン・チョコや、アイスクリームにあえて氷の粒を混ぜるのに近いかもしれないね」


 見ると彼女は膨れっ面をしていた。だから釣られちゃダメですって若林さん……。

「最初の発想はたしかに、そうかもしれません。でもいまは、所長の言う二次的なもののほうに価値があると思います」

「オードブル用ってこと?」

「視覚的に、って意味です。ちくわにチーズが詰めてあったら、めっちゃオシャレじゃないですか。蒲鉾をスライスするより、ちくわの輪切りのほうが可愛いじゃないですかコスモスの花みたいで。それに、」

 若林さんは勝ち誇って言った。

「食感を軽くするだけなら、なにも、ちくわである必要はありません。笹カマってのが、あるでしょう?」


「うっ」

「論破されましたね」

 オレが言うと、多々木さんは顔を真っ赤にしてこっちを睨んだ。

「ちがうちがうちがう! 笹カマはおでんに入れないだろう? ……味が染み込みやすいように、ちくわには穴が開いているんだっ」

 なんかもう、ダダっ子みたいになってるし……。

「えーっ、じゃあゲソ巻きやゴボウ巻きはどうなんです。中身が詰まっていても味染みてますけど?」

 若林さんもムキになって反論する。なんだこれ。





 そこで目が覚めた。胸のあたりにびっしょり寝汗をかいている。なんだこれ……いやいやいや、それオレのセリフだから。

 ヘンな夢だった。この10年以内に見たなかで、まちがいなくワースト・ワンだ。5年いや3年まえの夢もおぼえてないけど。

 オレがオレでなかった。夢のなかで、オレがオレじゃなかったのだ。ヤマゲン……そうオレは呼ばれていた。

 あたりまえだがオレはヤマゲンではない。石原鉄也だ、てっちゃんだ。本当にそうだろうか……不安になってきたぞ?

 コーヒー飲み行こ。

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