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スモール・マウンテン  作者: 大原英一
第二話 ユリが咲いた
19/40

【解決編】後編

 開演20分まえ。レイモンド鈴木が都合(身内の急病)のため、公演を中止するとのアナウンスが入った。それと探偵が恵一くんのすがたを見つけたのが、ほぼ同時だった。

 恵一くんは母親らしき女性となにか話して、そのあと出店のほうに走って行った。探偵は母親らしき女性のほうにターゲットをかえた。

 母親らしき女性は、ライヴが行なわれるはずだったステージまえへと近づいて行った。人だかりに紛れて探偵は女性のあとを追った。


「お父さん、残念だったわね」

「お袋」


 探偵はそんな会話を耳にした。少年の母親は、どうやら青年の母親でもあるようだった。兄弟にしては歳が離れすぎじゃね? と探偵は思ったそうだ。それと母親、若すぎじゃね? とも。

 そのあと、石原という男性と小山という初老の男性が、青年の母親にあいさつと自己紹介をした。いや、さきに母親が彼らにこう言ったのだ。

 はじめまして。いつも息子がお世話になっています、と。


 探偵は、しりたかったそうだ。なぜ恵一くんがニセの爆弾をつくって、脅迫してまでレイモンド鈴木の公演をやめさせようとしたのか。

 探偵のほうから恵一くんに近づくことは、できない。恵一くんが探偵に近づいてくることは、もうなさそうだ。じゃあ誰に聞けばいい、このモヤモヤを。

 恵一くんの家族に聞くことはもちろん、できない。わざわざ少年の犯罪を暴くようなことは断じて。

 レイモンド鈴木にしたって、たぶん少年をかばったのだ。それであのベテラン歌手は警察に通報するのを思い止まった。ちゃちなオモチャ爆弾が警察の手に渡れば、誰がそれをこしらえたかなど、たちまち調べあげられてしまうだろう。



「そこで探偵はマスター、あなたに白羽の矢を立てたわけですね?」

 マスターの長い説明が終わったところで、ようやくオレは彼に聞いた。

「そういうことらしい」

「探偵はあなたに、なにを尋ねたんです? 恵一くんの犯行の動機ですか」


 すると彼は力なく答えた。

「いちおう、形式的にね。でもボクに聞いたところで見込みがないことは、探偵もわかっていたようだ」

「まあ、そうでしょうね。オレにも動機が見当たらない。……探偵はほかに、なにを?」

「源ちゃんたち家族の事情だよ。これもまあ、源ちゃんと恵一くんの歳が離れていることや百合子さんがずいぶん若いことなどから、ある程度予想はついたみたいだけど」

「源太郎さん、百合子さん、恵一くんの3人がライヴに特別出演する予定だったことを、探偵はしっていましたか?」

「あ、」

 とマスターは小さく声を漏らした。

「それはボクの口からは言ってない。……恵一くんが探偵事務所を訪ねたとき、あるいは話しているかもしれない。想像でしかないけど」

「そうですか」

 オレは頭をかいた。お手上げだった。


「しいて動機を挙げるなら、恵一くんもステージに立ちたくなかったのかもしれないですね。うん、お兄ちゃんの源次抜きでステージに上がるなんて、ありえなかったのかも」

「なるほどね」

 ため息を吐きながらマスターがうなずく。

「お兄ちゃん思いのいい弟だよ恵一くんは。爆弾で人を脅したのは、けっして褒められたことじゃないが」


(了)

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