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スモール・マウンテン  作者: 大原英一
第二話 ユリが咲いた
17/40

【解決編】前編

 後日。オレは喫茶「スモール・マウンテン」でコーヒーを飲んでいた。いつものカウンターの指定席で……それはそうなのだが、ちょっと様子がちがった。

 今日は貸し切りだった。時刻は20時をまわっていて、すでに閉店している。がらんとした店内にオレと彼だけだった。

 マスターが超深刻そうな顔をしている。

「話ってなんですか。まさか……本当にまさかですけど、愛の告白とかやめてくださいよ?」

「そんなんじゃない」

 それを聞いて安心した。いや、本当にどんな可能性もあるから。


「探偵が訪ねてきたんだ。納涼祭の翌日、閉店間際に」

 マスターはいきなり話しはじめた。そして1枚の名刺をオレに差し出した。

【多々木探偵事務所 調査員 多々木可奈】

 名刺にはそう書かれていた。


 オレはへえ、と気のないフリをしながらも身を乗り出した。探偵とかミステリとか大好物なんである。

「石原くん、ボクはね、きみとちがって話が上手じゃない。ひどく混乱もしている。支離滅裂な話になったら遠慮なく言ってほしい」

「まかせてくださいっ」

 そう言いながらも、オレはこんがらがった話を紐解いていくのが大好きだ。得意でもある。オレのことは、どうでもいい。

「先日の納涼祭だけど……」

「マスター」

 いきなり話の腰を折ってしまった。彼にはわるいと思ったが、ここはオレの流儀に合わせてもらおう。


「ごめんなさいマスター、さきに質問させてください。探偵はなぜこの店をしっていたんですか。あなたがたは知り合いですか」

「いいや」

「じゃあ探偵は、誰かの依頼でここに?」

「いいや」

「探偵みずからの意思ですか」


 うん、と彼はうなずいた。オレは思わずニヤリとする。

「いたんですね? 納涼祭に、探偵が」

「うん」

「あー、あのときか」

 わざと勿体つけるようにオレは言った。

「納涼祭でオレら、百合子さんに自己紹介しましたよね? あのときマスター、あなたはこう言ったんです。『小山です。喫茶店の店長をしています』、と。それを探偵が傍で聞いていたんだ」

「……うん」

「探偵はなんらかの理由で、その小山さんに会いたがった。じゃあ小山さんがやっている喫茶店は? この商店街でそれをさがすのは超簡単です。だってここ、『スモール・マウンテン』ですから」


「あいかわらず好調だね、きみ」

 マスターがあきれたように言った。だがオレの舌は止まらない。

「探偵がマークしていたのは田代一家か、レイモンド鈴木。いや両方かもしれない。ちがいますか」

「勘弁してよ……なんで、わかるの?」


「簡単ですよ。あの納涼祭の目玉はレイモンド鈴木の特別ライヴでした。それがなければ、ただのお祭りです。まあ、けっきょくただのお祭りになっちゃいましたけど。……そして、レイモンド鈴木を誘致したのは田代一家だ」

 渋い顔で頭をかくマスター。

「なんか、やりづらいなあ」

「オレにはもう、だいたい見当がついているんです。レイモンド鈴木がライヴを辞退した理由。あれ、身内が急病だなんてウソでしょう?」

「ウソかどうかは、わからない。だがウソっぽいと探偵も言っていた」

「探偵の見立ては?」

 オレが聞くとマスターは深いため息を吐いた。

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