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スモール・マウンテン  作者: 大原英一
第二話 ユリが咲いた
16/40

特別ライヴ

 納涼祭当日がやってきた。

 けっきょく、マスターに潤んだチワワのような目で懇願されたオレは、この祭りに参加することを承諾した。

 参加といっても別段なにをするわけでもない。ただ、メイン・イベントを突っ立って観るだけだ。マスターと、そして源次と一緒に。

 メイン・イベントとは言わずもがな、フォークの大御所レイモンド鈴木によるライヴである。

 名曲『ユリが咲いた』をふくめ5、6曲歌うらしい。そして、この1曲のみスペシャル・ゲストが登場する。そば源の大将源太郎さん率いる田代さん一家だ。誰がしってんねん!


 ステージにあがるのは源太郎さん、奥さんの百合子さん、そして息子の恵一くんの3人で、長男の源次は観客にまわる、という構図は前回マスターから聞いたとおりだ。

 源次にとっては、ちょっとお寒い空気かもしれない。だがそれも1曲数分間の辛抱だ。がんばれ源次! 負けるな源次!

 ……とまあ、その源次を後方支援するのがおっさんふたり、オレとマスターというわけだ。


 19時開演ということで、その30分まえにはライヴ会場に人が集まりはじめていた。

 ライヴ会場は大袈裟か。公民館の駐車場に設けられた小っさなステージである。べつにバック・バンドがいるわけでもなく、基本的にはレイモンド鈴木の弾き語りだそうだ。最低限のPA(音響設備)があればいい。


「石原さんも、どうすか。うちの家族と一緒にステージで歌ったら?」

「歌うかっ」

 缶ビール片手の源次は思いのほか上機嫌だった。こいつは、ひとの気もしらんと……。

「それにしてもさ、」

 こちらも缶ビールを握ったマスターが口を挿む。

「恵一くん、あんな古い歌、歌えるの?」

「大丈夫じゃないっすか……あいつ、もとから趣味がおっさんくさいですし」

 そう言って源次はケラケラ笑った。なんか、こいつぜんぜん心配なさそうですよマスター。


 と、そのときひとりの男性がステージにあがり、マイクをごそごそとやりはじめた。残念ながらそれはレイモンド鈴木ではなく、そば源の大将だった。

「親父……」

 源次が呆然とした顔で父親を見ていた。


「えー、皆様、本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。ここで皆様に残念なお報せをしなくてはなりません。本日これから、レイモンド鈴木氏の特別ライヴを予定していましたが、氏のお身内が急病との報せが入ったため、ご本人は急ぎ帰られました。よってライヴは中止とせざるをえません。たいへん申し訳ありません」


 なんとも、あっけない幕切れだった。今日にいたるまでの異様なテンションはいったい、なんだったんだ。

 けっきょくオレは見ることすらなかった、レイモンド鈴木……。

「お父さん、残念だったわね」

「お袋」

 いつのまにか源次のそばに女性が立っていた。彼女はオレらに会釈して言った。

「はじめまして。いつも息子がお世話になっています」

 そうか、このひとが百合子さんか……若っ。そして可愛っ。

「あ、はじめまして石原です」

「小山です。喫茶店の店長をしております」

 なに、さりげなく喫茶店にいらしてくださいアピールしてんすかマスター。

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