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スモール・マウンテン  作者: 大原英一
第二話 ユリが咲いた
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納涼祭

 後日。いきなりオレのスマホに電話がかかってきた。マスターからだった。

 そのときオレは夜勤明けで爆睡していた。着信音で起こされたのだ。スマホの「通話」をタッチするまえに画面上の時刻を見ると20時をまわっていた。

「もしもし……」

「あ、石原くん。小山です……ごめん、寝てた?」

 オレはベッドから起きながら、大丈夫です、と彼に伝えた。とりあえずタバコが吸いたい。


「今晩いてる? いまから、飲みに行かないかい」

「……え、まあ、いいですけど」

 タバコに火を着けながらあれ、そういやヘンだなと思った。


 これまで、飲み会のお誘いはいつだってメールだったのだ。

 マスターもオレの仕事をしっていて、こんなふうにオレが夜勤明けであることも考慮してくれて。

「あれ、もしかして、なんか大事な話ですか」

「そうなんだよ。……あのね、できれば、いやぜったいに源ちゃんと鉢合わせしたくないんだ」

「どういうことです?」

「わけは会ったときに話すから。わるいけど、本なまら駅まで出てきてくれないかな」

「……わかりました」


 オレは電話を切ると身支度をはじめた。夜勤明けだが充分寝たのでフルパワーだった。

 いつもとちがうシチュエーションなので、ちょっとワクワクした。いつもはオレとマスター、そして源次の3人でつるんで飲むことが多い。だが今日は源次抜きだという。


 最寄り駅であるなまら駅の、ひとつとなりが本なまら駅だ。

 オレはマスターと落ち合うと、適当にチェーン店の居酒屋を見つけてそこに腰を落ち着けた。

「いったい今日はどうしたんすか? 『ひじ』じゃダメだったんすか」

 店員さんが持ってきてくれたおしぼりで手を拭いながら、オレはマスターに聞いた。

「『ひじ』はマズいよー。源ちゃんがふらっと入ってくる可能性大だろう?」

 ひじ、というのはオレら3人のたまり場みたいな居酒屋のことである。なまら駅商店街にあって、マスターの喫茶店からは目と鼻の先だ。


「おなじ理由でうちの店もダメ。源ちゃんは閉店後でもお構いなしに入ってくるからね。石原くんも、だけど」

 オレは苦笑しながら聞いた。

「とにかく、なにがなんでも、オレらが密会しているのを源次にしられたくないんですね?」


 マスターがうなずいた。そこで最初のビール・ジョッキが運ばれてきた。

「とりあえず乾杯だ……ふたりだけの夜に」

「ちょっと、気色のわるいこと言わないでくださいよ」

 ジョッキを合わせると彼はその中身を呷った。かなりテンションが、おかしなことになっている。

「……で、話ってなんです?」

 さっそくオレは本題に入った。マスターがジョッキをテーブルに置く。

「納涼祭だよ、商店街の」


 納涼祭、通称「なまら祭」は商店街において、1年で最大のイベントだった。

 納涼なのに秋めいてくる9月下旬に毎年行なわれる。どうもここの住民は納涼の意味を取り違えているらしい。

 暑い日々も、もうお納めですね? みたいに解釈しているようだ。



のうりょう【納涼】:炎暑の候に暑さを避けること。〈涼み〉ともいう。



 ミニ情報でした。

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