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スモール・マウンテン  作者: 大原英一
第二話 ユリが咲いた
12/40

化石

「レイモンド鈴木? しらねー……」

 源次が投げやりにそう言った。

「レイモンド鈴木、……はいはい」

 オレはしったような、しらないような微妙なリアクションをした。俳優としてならその男の名前は聞いたことがある。

 が、『ユリが咲いた』をレイモンド鈴木が歌っていたのは確実にしらなかった。

「石原くん、よくこんな古い歌しってるねえ。世代じゃないでしょ?」

 そう言いつつもマスターはちょっとうれしそうだ。

「ええ……じつは、子どものころに強烈な印象が残っていて」

 そのエピソードをふたりに話すことにした。つかみはバッチリだった。


 これはあくまで印象であって記録に残っているものではない。じつは記憶もそうとうあいまいだったりする。

 オレが小学校低学年のころの話だ。たしかPTAの行事かなにかだったと思う。はっきりしなくて申し訳ないが、とにかく学校で親と一緒に歌を歌う機会があった。


 その歌も、前もって練習したとかじゃなく、その場のノリで適当に歌うような感じだった。レクリエーションってやつ?

 当然オレはその曲をしらなかった。だがうちのオカンはしっていた。それが『ユリが咲いた』だった。

「わかるかな……自分のとなりで、オカンがマジ・モードで歌うのを聞かされる感じ」

「なるほどねー」源次が笑いをこらえつつ言った。「なんか、ウハーってなるよね」

「そうそう、ウハー……って感じ」

 当時の感覚がよみがえり、オレは本当に恥ずかしくなってきた。


「いい話じゃないの」

 マスターが微笑ましそうに言った。

「そのときの印象はとにかく強烈でした。……それから何年もたって、懐メロのTV番組かなんかであらためてこの曲をしって、ああ、こんな曲だったんだって思いましたね」


「曲のタイトル、しらなかったの?」

「しらなかった……歌詞もなにもかも、いまのいままで完全に忘れていましたよ。びっくりです」

「CDに焼いてあげようか?」

「いえ……それは、いいですけど」

「いいのかよっ」

 源次が的確なツッコミをいれる。オレは笑ってごまかした。

「なんでしょうね、あの感覚……。曲をとおして、オカンの青春時代が垣間見えちゃうのが小っ恥ずかしいのかな。オカンがずっと若いころに歌っていたであろう歌、ですからね」


「オレなんかはべつに、母親の若いころの音楽とか聴いても、なんとも思わないっすけどね」

「えっ……そうなの」

 源次の言葉にオレは興味をひかれた。だから彼に聞いた。

「たとえば、どんな曲?」

「そうっすね……ナムロアミエの『セレブレーション』、とか」


 一瞬、オレとマスターは目が点になった。

「若っ」

「若っ!」

 およそ0.5秒遅れくらいで、オレたちはおなじ言葉を吐いていた。

「……おまえのオカン、歳いくつよ?」

「45」

 源次はつまらなそうに、ぽつりと言った。そうだった、彼はこの話題があまり好きじゃない。まあ、それはいといて……。


 思わずため息が出た。そうか、『セレブレーション』からもうじき20年とか経つのか。するとこの曲も、そろそろ懐メロといっていいのかもしれない。

 じゃあ『ユリが咲いた』はどうなる。化石?

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