【解決編】後編
オレは追及の手を緩めなかった。
「茶番です。あれは仕組まれたお芝居だった。可奈さんを襲った男もグルです、ってゆうか犯人2号です」
マスターはうな垂れ、黙ったままだった。
「可奈さんの身のこなし、あの柔軟さには舌を巻きました。思わず見惚れてしまいます。そしてマスター、あなたの出番です。あなたはカウンターのなかで、アンダースローで思いきり十円玉を投げましたね? それがカウンターの内側にぶち当たって、あのとき、びしっという音がした。投げた十円玉は跳ね返って、たぶんカウンター内の段ボール箱のなかにでも落ちたのでしょう。さあ、最後の仕上げです。マスター……あなたはカウンターのむこう、可奈さんが華麗なイナバウアーを披露している足元へと、そっとあたらしい十円玉を放ったのです」
「いったい、なぜ、ボクがそんなことを……」
マスターは声を絞るようにして言った。
「ぜんぶ、ありもしない銃をでっち上げるために、です。あれはただのオモチャです。十円玉を発射することもなく、まして、目に当たれば失明し、膝の皿に当たれば割れて大怪我するような威力も持ちえない。
可奈さんが華麗に避けてみせたのは、想像上の弾丸だった」
「だから……なんでそんな演技が要る」
オレはすっかり冷めきったコーヒーを飲み干してから答えた。
「この気持ちわるい世界を創るためにですよ。最後に源次が登場しましたね……そうだ、あいつが犯人3号だ。3号はいないんで、V3ってことで」
やはりマスターは笑ってくれなかった。くそ。
「源次が店に電話してきたタイミングも絶妙でしたね? 犯人2号が降参して店を出て、しばらくしてからです。彼らは……可奈さんも含めて、すべてグルなんですよ」
「ボクも、だろう?」
マスターがか細い声で聞いた。オレは小さくため息を吐く。
「ま、どっちでもいいです。あなたが共犯だったにせよ、脅迫されていたにせよ、結果はおなじです」
「石原くん、ひとつ、重要なことを言っていいかな」
「なんです?」
「きみの言う、気持ちわるい世界。それが実在するかしないかは、そこのドアを開けて外に出てみれば、わかるんじゃないの?」
「ええ、そのつもりですが」
「きみがいくら論理で否定しようと、町なかで人がドンパチやってたら、そりゃあもう、どうしようもないじゃない」
オレは笑顔で否定した。
「ないですって。……もしオレがまちがっていて世界のほうが正しかったら、すぐここにもどってマスターに土下座します」
ドアノブをまわしつつ、オレは彼に言った。
「それじゃマスター、コーヒーごちそうさま」
「石原くん……お代」
(了)




