出会い
「……!」
どこからか聞こえる声。
しかし、何を言っているのか、はっきりとは分からない。
「……ぇ!」
……え?
……なんだって……?
よく、聞こえない……。
「……ねえ!」
……。
……待てよ?
……前にもこんなのなかったっけ。
「ねえってば! 聞こえてんの!? 起きなさい!」
「うわあああまたオカマ!?」
「誰がオカマよ!」
「ひいいいいいもうオカマはいやだあああ!!」
慌てて逃走を図るも、襟を掴まれてしまう。
「勘弁! それだけは勘弁!」
「だからねえ! あたしはオカマじゃないって言ってるでしょ!」
「掘られるのだけは……え?」
まさかと思い、振り返る。
そこには……。
「お、お、おおおオカマじゃない! 何故だ!?」
「あなたいったい何があったのよ……」
憐みの視線を送られてきた。
それもそうだ。
俺を起こしに来るのなんてオカマだけだったのだ。
トラウマにもなるわ。
ましてやあんな……記憶ってどうやったら消せるんだろうか。
「お前がオカマじゃないのはかろうじて理解した。んで、何の用だ?」
「あなたが自殺するのを止めただけよ」
自殺? 火があるじゃないか。
魔物は寄って来ないはずだろう。
「ここ、オーガの住む洞窟なのよ? そこで寝るなんて、自殺志願者にしか見えないわよ」
「え、オーガ? ……マジ?」
「マジよ」
俺は前までオーガのいるとこで寝てたのか!?
オーガは、火を恐れないランク1の魔物として有名だ。
このあたりには生息していないはずなのだが……。
それにしても、なんで生きてたんだ……。
俺すげえ。
「オーガはあたしが倒しておいたわ。感謝しなさい。あなた、オーガに襲われかけてたのよ?」
よく見ると、まだ灰になっていないオーガがそこらにちらほらいる。
マジだったのか……。
こいつの手にも魔石が握られている。
ゴブリンのとは大きさが違うようだ。
話通り、オーガのものなのだろう。
「おうサンキュー……死ぬとこだったよ」
「あなた、今まで良く生きてたわね? びっくりだわ」
「あはは……俺もびっくりだよ」
何度命を危険に晒したのだろう……。
オーガといい、オカマといい。
いや、オーガよりオカマの方が怖い。
間違いない。
オカマに会うのは嫌だが、この際仕方ない。
野宿が危険な以上、宿に泊まるしかない。
「助けてくれてありがとう。……じゃあ、俺は街に戻るから」
背を向け、立ち去ろうとした途端、再び襟を掴まれる。
「ぐえっ」
「あなたねえ、命の恩人に何もせずに帰るなんて、そんなわけないわよね?」
凄みのある表情で睨まれ、思わず顔が硬直する。
「ま、まさかそんなわけ……ないじゃん?」
◇
夜であったこともあり、俺たちは宿に来ていた。
彼女が泊まっている宿だという。
ボロい宿ではなく、普通の一般的な宿だ。
名は【運命の再会】。
宿屋の主人が奥さんと再会を果たした場だかららしい。
もうオカマはいないだろう。
……多分。
「もしもーし、誰かいるー?」
戸をくぐり、彼女が声をかけた。
すると、すぐに元気な声が帰って来た。
「はあーい♡、すぐ行くわねー」
「待て待て待て待て待て!! 嫌な予感しかしないぞ!?」
「うるさいわね、少し黙ってなさい」
いやいや!
オカマ多すぎんだろこの街!
歩いてる分には会わないのになんで宿行くとオカマしかいなんだよ!
「お待たせー♡」
俺の目から、一筋の涙がこぼれた。
「オカマは……もういやなんじゃあああああ!!!」
◇
オカマと運命の再会(初対面である)を果たしてから数分後。
俺は一人窓の外を見つめながら、涙を流していた。
「ね、ねえ、あの人はいい人よ? あなたが思っているほど悪い人じゃないわ。……オカマだけど」
「オカマなら意味ないんだよおおおお!!」
「確かにこの辺の宿、オカマばっかりだものね……」
俺の当面の目標はオカマのいない宿を探すこととなりそうだ。
……世界は残酷である。
鬱になりそうだからオカマを考えるのはやめる。
まずは、こいつと話すのが先だ。
「それで、俺は何をすればいいんだ?」
「そうね。あなたには、あたしとパーティを組んでもらうわ」
「パーティ? なんでだ?」
「パーティを組まないと、ランク2の昇格クエストを受けさせて貰えないからよ」
そういえば、ランク2の昇格クエストはパーティ必須だった。
ランク1の人がソロで挑む難易度ではないのだ。
また、そのクエストを通じて、パーティでの戦闘の仕方を学ぶという目的もあるようだ。
「なるほど、分かった。俺はソウジだ。宜しく頼む」
「あたしはアスカ・カノーヴァ。宜しくね」
俺たちは握手を交わした。
それは、これからお互いを信頼するという証でもあった。
「じゃあ、俺寝るよ……疲れたし」
「ソウジ、あんたは床で寝なさい」
「え? いやベッドは2人分のサイズあるし……」
「床で寝なさい」
「……分かった」
仕方なく、床で横になる。
……やはりかたい。
「明日の朝またオカマに起こされたりは……いや、あんな恐怖体験二度としたくねえ。アスカもいるし、大丈夫だよな……」
この出会いが、ソウジに大きな変化をもたらすことを、彼はまだ知らなかった。
彼の頭は、そんなことよりオカマのことでいっぱいいっぱいであった。
無事、ヒロインと三人目のオカマを両方出すことが出来ました。
やったね!
主人公は果たしてオカマの呪縛から逃げられるのか……!?