目覚め
「……ソ…………」
誰かが俺を……呼んでいる?
闇に向かって手を伸ばす。
しかし、その手は届かない。
「……ウ……ジ……!」
もう一度、闇に手を伸ばす。
……!
何かに触れた感触。
もう少しで届きそうだ。
「ソウジ……ゃん!」
手を、力強く伸ばす。
手に触れた何かを離さないように、しっかりと掴む。
「あらやだソウジちゃんったら♡ だ・い・た・ん♡」
「うぉうぇっ!? 何!? なんでオカマが俺の部屋に!?」
手になにやら柔らかい感触。
そのまま揉む。
「あんっ♡ ソウジちゃん……朝から元気ね♡」
「はへ?」
手に視線を向ける。
俺の手は――オカマの股間を握っていた。
「うわああああああ!!!???」
慌てて飛び起き、部屋の外に脱出し、そのまま壁をぶち破って外に出た。
勿論下に床などあるはずもなく……俺は転落した。道の真ん中に。
お、おおおお俺は何を!?
夢で俺を呼んでいた美少女は……。
考えたくもない。
恐らくオカマが俺を起こしに来たのだろう。
起こしに来た……のであろう。
襲いに来たのかも……いや、考えまい。
「ソウジちゃーん、朝ご飯出来てるわよぉ~」
「オカマさん食べていいですよー!?」
一刻も早く逃げ出したかった。
ギルドに向かって全力で走る。
トラウマになりそうだ。
今度こそボロイ宿には泊まるものか。
心に固く誓ったソウジであった。
◇
「せいっ! はあっ!」
硬直し、動かなくなったゴブリンを前に、俺は安堵の息を吐いた。
「ふう……ゴブリンも大分簡単に倒せるようになったな」
ゴブリンの魔石を拾おうと、身を屈める。
魔石のそばには、ゴブリンの錆びた剣が転がっていた。
「お、ドロップアイテム。ラッキー」
ドロップアイテム。
倒れた魔物はそれを稀に落とす。
ドロップアイテムの使い道は多種多様だ。
武器に加工されたり、防具の一部となったり、或いは薬に調合されたり。
高位の魔物のドロップアイテムは非常に貴重で、国が動くことさえあるという。
「ゴブリンの剣かー。錆びてるし、売るくらいしか使い道なさそ……」
ゴブリンのドロップアイテムは、この剣と牙である。
剣は特に価値はないが、牙は短剣に加工もできる。
「どうせなら牙が良かったなあ」
そう言いながらも、ゴブリンの剣を腰に差す。
錆びてはいるが、短剣よりリーチは長い。
使えないことはなさそうだ。
次の獲物を探すため、あたりを見回す。
すると、視界の端に一匹の魔物が入った。
コボルトだ。
コボルトは、四足歩行の魔物で、犬の巨大版みたいなやつである。
当然危険度は段違いだが、さして脅威のある魔物ではない。
……と、マリーさんに読まされたモンスターの本で知った。
ところで、モンスターテイムという技術がある。
これは、魔物を手なずけ、自分のペット、というか一緒に戦ってくれる仲間にするものである。
コボルトは犬のようではあるが、醜悪な顔をして、人をも襲う魔物である。
あれが本当に手なずけられるのだろうか……。
犬のようにワンと鳴くのだろうか……。
甚だ疑問だ。
なるべく足音を立てずにコボルトの背後に回る。
後ろから襲うのが、一番早く終わるはずだ。
背後から短剣で切りつける。
コボルトはゴブリンよりも柔らかい。
故に、俺の力でも大きな傷を与えられるのだ。
手負いのコボルトにとどめの一撃を与える。
コボルトも、ゴブリンと同じく弱い部類に入る。
だから、弱い俺でもなんとか倒せるのだ。
……もっと強くなれないと心が折れそうだ。
ドロップした魔石を袋にしまい、今日の狩りを切り上げる。
もうオカマには会いたくない。
今日は岩穴ででも野宿するか……。
いつもの岩穴へ、ソウジは足を進めた。
◇
火を起こし、壁にもたれる。
低ランクの魔物は火を恐れる。
この辺りなら、火を起こすだけで安全なのだ。
当然、遠くから来た中、高ランクの魔物に見つかったら一巻の終わりではあるが。
そんなことが起きないよう、ギルドは常に周囲を探知し、万が一があればすぐ警報をならして伝えるようにしている。
ギルドのおかげで、俺たちの命は守られているのだ。
ギルド様々である。
……オカマの宿は紹介しないで欲しかったが。
一日の疲れで、俺はすぐ眠りに落ちた。
眠る直前に聞こえた、かすかな足音は、俺の眠りを妨げることはなかった。
「あら、誰かしら? こんなところで寝ている命知らずは」
ようやくヒロインの登場か……はたまた三人目のオカマか。
次回もよろしくお願いします。