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25 私の勝負②

 黒々とした暗雲と雷鳴が響き渡るなんてアニメ的展開はなくそれなりの雲が青空に浮かぶ普通の日に、中間試験はひっそりと始まった。


 1教科目の数学。

 簡単そうに見えて難しい問題、難しそうに見えて簡単な問題が立ち並ぶ。


 ボスや中ボスが雑魚キャラに交じって体育館で屯っているようだ。

 その中から撃墜可能な、つまり解けそうな問題だけを攻略していく。

 刀で人参を切るように、さくっと解いていく。


 斬りこむように図を描き、ころころと食べやすいサイズに切るように数式を書いていく。

 人参、玉ねぎ、じゃがいも、牛肉。

 さっくり切って解いていく。


「あ」


 一穂は苦い顔をした。

 これは中ボス。

 応用しないと解けないアボカド野郎……。


 さっくり解けるかと思いきや、中央に硬い硬い核がある。

 しかも食べられない。

 これがゲームであれば、反撃されて装備不足の主人公が殴られ甚振られてボロ雑巾のように捨てられただろう。


 しかし、怖がる必要はない。

 だって彼らは例外なく体育座りしていて、反撃してこないから。


 一番厄介な解けそうで解けない、賞味期限ぎりぎりのケーキのように扱いに困る問題は後回しだ。デザートだけに。

 この後も、肉を叩いて柔らかくするように数字を書き殴り、スープを作るようにじっくり時間をかけて確実に解き進めていく。


 灰汁を掬って捨てるようにミスを探して直していく。

 甘い誘惑を振りまくケーキみたいな問題は幻想だ。


 秀才しか味わえない問題なんて捨てておけばいい。

 残った中でぎりぎり解けそうな問題をがりがりとカレールーを溶かすように挑戦する。


 そして、制限時間いっぱい使って米なしカレーが完成した。

 白米も福神漬けもデザートもない答案用紙。

 これが、今できる精一杯だ。


 ◇


 2教科目の英語。

 久々に登場した鉛筆軍団に丸投げである。

 5分で終了した。

 そして、寝た。


 1日目最後となる3教科目は社会。

 これは銃撃ゲームだ。

 弱点を知っていれば的確に銃殺できる。


 様々な姿形をした魑魅魍魎を打って、撃って、討ちまくる。

 ゆらり。


 パッと見で答え掴めそうで掴めない幽霊野郎は黙って見逃す。

 前回は見逃す事ができなくて時間をとられたが、成長したのだ。

 2丁の拳銃と背中に背負った数々の武器で颯爽と駆け早撃ちで敵を消し去るガンマンだ。

 残り時間30分にして、残存兵5。


 ゆっくり記憶を辿りながら標準を合わせ、思い出せたところで引き金を手前に動かす。

 残存兵4。


 社会にある応用問題。

 暗記した知識を組み合わせ、思考する事でしか答えが浮き彫りにならない闇に潜む防弾装備のボス。

 多くの生徒は必要な知識が複数あるせいで解けないであろう正統派の難問。


 しかし、一穂は暗視ゴーグルで索敵し、毒ガス爆弾であっさり殺す。

 知識の組み合わせ技で残り3問。


 暗記していても細かい解釈次第で正否が分かれる難問が最後の3つ。

 一穂にとっては正統派のボスより厄介な問題だ。

 砂漠で1発しかない銃弾で幻影に紛れる本物を打たなきゃいけない。


 撃った後も正解だったか不明なままだ。

 意を決して解答し、作戦終了。

 残り時間は20分だった。


 ◇


 2日目の最初の試験は理科。

 曇り空で肌寒い。

 暗記と反復演習さえしていれば8割は確実である試験で一穂は大苦戦していた。

 手はぶるぶる震え、動悸が激しい。


 辛うじて埋まった解答用紙は全体の半分だ。

 残り時間は20分しかない。

 一穂は知らなかった、こんなに理科が凶悪だったなんて。


「く、苦しい……」

 涼しい気温にも関わらず、一穂の額からは汗が滴り落ちていた。

 血走った眼で問題を1文字ずつ耐えるように読み、口を押えて食いしばる。


 文字が脳の記憶を刺激して、担任の中山が連想される。

 中山と猿先生が頭の中で様々な実験でぼろぼろになっていく様が鮮明に想像されてしまい、いつ笑い声を教室に響かせてしまうか壮絶に心配だ。

 急いで読めば、横隔膜と腹筋に強い負荷がかかり非常に自尊心が危ない。

 しかし、腹の耐久値を気にしていては試験で点数が稼げない。


「ふごっ!」

 はぁ、はぁ。

 シャーペンを机に放り投げ、親指と人差し指で太ももをつねる。

 肉を掴んでいる感覚はあるけれど、麻痺しているようだ。

 痛みは、ない。


「く……」

 がたんっ。

 頭が机にぶつかった、

 身体が痙攣する。

 はぁ、はぁ。


「きつすぎる」


 笑ってはいけないって制限があるとつまらない事でも笑ってしまう。

 それが面白い事だと絶望的である。

 涎が垂れて零れ落ちそうになる。

 ポケットからタオルハンカチを取り出いて、口元を拭く。


「ハンカチ忘れなくてよかっ……」

 一穂はタオルハンカチを口に押し込んだ。

 試験問題を読み、荒い鼻息のまま震える手で文字を書き進めた。


 必死に。

 ただひたすら必死に。

 終わりの音が鳴り響くまで。


 最後は国語。

 休み時間の間に随分落ち着いた。

 まずはさらっと漢字を瞬殺した。


 1番の問題、それはノートを丸暗記しただけで応用力がない事だ。

 つまり、全国学力テストのような長文の題材が授業でやったものと別の場合には殆ど得点が見込めないという事だ。

 深呼吸する。

 心配だった試験問題の長文を確認して、肩を落とす。


 教科書通りだった。

 脳に記憶したノートの内容をそのまま書き写す。

 笑いも涙もない戦いだ。


 知識外のものは想像で補った。


 ……


 そして、中間試験は幕を閉じた。


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