プロローグ 『始まりと終わりの色』
ここからは、第二部となります。
プロローグということで、かなり短いです。
「誰も彼もが、自分だけは大丈夫だって、ずっと思い込んでいる。今日、親が死ぬ かもしれない。明日、友人が死ぬかもしれない。明後日、自分が死ぬかもしれない。そんな可能性を微塵も考慮せずに、日々安穏と、何も考えずにダラダラと流されるまま、風の向くまま、悲劇の可能性にも気付かずに、無為に生きてる」
酷くしゃがれた声だった。
世界に絶望し、全てに諦観した、そんな声だ。
包帯から覗く赤と黒の瞳は、どす黒い希望で塗りつぶされている。
「ある日突然、龍に襲われるかもしれない。通り魔に殺されるかもしれない。流れ弾を喰らうかもしれない。病気に掛かるかもしれない。――魔神が世界を壊すかもしれない。この世には失わなければ大切だと気付けない物で溢れてる。それは悲劇だ。絶望だ。だからこそ己は、世界に絶望を撒き散らす。絶望を知ってこそ、希望を知ることが出来る。それが己が出来る、唯一の施しだ」
早口に、まくし立てるように。
その男はペラペラと言葉を重ねていく。
「うん、わかるよ」
その言葉に賛同する者がいた。
「施し、素晴らしいですね。ええ、貴方の考えは素晴らしい。絶望、悲劇、そう痛み。痛みこそわたし達が世界へ与えられる祝福。だから傷付けて、刺して、斬って、突いて、傷を開いてあげなきゃね。傷をえぐって、ぐじゅぐじゅと痛みを与えることこそ、素晴らしい祝福なのだからっ!!」
否。
それは賛同などではない。
紡がれた言葉は男の言葉とは徹底的に噛み合わない。
自分の世界に浸り、ただ無為に羅列しているだけだ。
「はぁ、キンキン声で喚かないでくれる? 耳が痛いんだけど? うん、一つ提案なんだけど、目の前にいるこの僕様が眠そうにしてるのが見えないんだったら、世界云々の前にその役立たずな目をえぐったらどうかな」
彼らの言葉に、また気怠げに返す言葉があった。
あくびをし、心底興味なさそうに、憂鬱な声色が言葉を紡ぐ。
「あぁ、すいません。だけど目。 良いね! そうしよう、そうしよう、そうしましょうっ! 是非是非是非是非! わたしの、目をっ!」
グチュリ、と何かが潰れる音がする。
続いてぼたぼたと、液体が床を打つ。
部屋に漂うのは、濃厚な鉄の臭い。
「あぁぁ……痛いっ! す・ば・ら・し・い!」
自身の瞳をえぐり、ケタケタと異常者が笑う。
「気持ち悪っ。眠気覚ましにもならないから、もう死んでいいよ」
それを見て、心底面倒くさそうに溜息を吐く少年。
異常だった。
どうしようもなく、異常な空間。
会話は噛み合わず、誰一人として興味を持たない。
そんな中へ、一人の女性が現れる。
異常な空間に、とろけるような笑みを浮かべて入ってくる。
そして、全てを受け入れるように手を広げ、こう言った。
「さぁ――『正義』を始めましょう」
――世界の闇で、『黒』が犇めく。
新章です。
第一話は明日、更新しますが、二話以降はしばらく隔日更新とさせていただきます
申し訳ありません。
――CM――
ブレードオンラインの三巻が本日発売となります。
イラストレーターは雫月ユカ様に担当して頂いております。
書籍版と色々変わっておりますので、興味のある方は是非。
それでは嫌われ剣士の新章をよろしくお願いします。




