第二話 『ガールズトーク』
感想で読みたいという人が何人かいたので、ガールズトーク書いてみました。
「……それでお二方も、先輩をお買い物に誘ったと」
麗らかな午後の日差しの中。
女子寮の近くにある庭園で、四人の女性が話し合っていた。
「その口ぶりからすると、私達の後を付けていたんですね」
「わ、私は反対したんだ。だがヤシロがこそこそしてたから……」
「えぇ、テレスさんだって興味津々だったじゃないですか!」
「いやまあ……」
キョウがウルグとデートをした翌日。
ヤシロとテレスもウルグを王都へ連れ出し、それぞれ買い物をした。
それを聞きつけたキョウが、二人に事情を聞いたのだ。
「あぁ……先輩が時折周囲を気にしてたのはそのせいだったのか……。全然気付かなかった……」
「何だと……。まさかウルグの奴、気付いていたのか!?」
「完璧な尾行だった筈なのですが……不覚!」
「お兄さん、人気だなぁ」
ウルグが気付いていた事に、二人は気付いていなかったらしい。
驚愕する二人に、キョウがため息を吐き、メイは苦笑している。
「もう……先輩が気になるのは分かりますけど」
「そういえばキョウ。どうしてウルグだけを先輩と呼んでいるんだ?」
「何となく……先輩って感じがするからです」
「違うよー。キョウちゃんは、ウルグさんって名前を呼ぶのが恥ずかしいだけなんだよねー?」
「姉さんッ!!」
アルナード領で起きた事件の後、四人は順調に? 仲を深めていた。
これには元から仲の良かったヤシロの存在や、メイとキョウに命を救われた事でテレスが心を開いているという事、メイの朗らかさ、そして人見知りのキョウがテレスの実力を尊敬している、などという色々な要素が 関係している。
勿論、ウルグの存在も大きいが。
ウルグの事でギスギスしないのは、メイを除いた三人に腹を割って話せる友人が少ないのが原因だろう。
「ま、まあ何はともあれ……尾行したのはすまなかった。我が身の不徳を恥じるばかりだ」
「そうですよテレスさん。もっと反省してください」
「お前も謝れ! 一番がっついてウルグの後を付けてたのはお前だろう!」
「お兄さんがいないと、ヤシロちゃんもテレスちゃんもテンション高いなあ……」
自分を棚に上げるヤシロに、テレスが顔を赤くして怒る。
その様子に微笑ましい物を見るようにメイが呟き、キョウはまたため息を吐く。
「いいですけど……因みに二人は、先輩とどんな事をしたんですか?」
睨み合いから落ち着いた二人が、キョウの質問に答える。
「私は……ウルグ様と二人で王都で食べ歩きしてました。お肉料理が美味しいお店で、ドラゴンのステーキを食べたんですが、美味しかったですよ」
「私は、あれだ。一緒に王都の外へ出て、遅くまで二人で剣を振っていた。森の中で、二人で修行していた頃を思い出したな。楽しかったぞ」
二人とも、それぞれウルグと楽しんできたらしい。
テレスとヤシロはキョウよりも付き合いが長い。
そのことにキョウは少しモヤモヤした。
「テレスさんテレスさん。それってデートなんですか。ただの修行じゃないんですか」
「ふ、甘いなヤシロ。デートの形は人それぞれだぞ。私とウルグがデートだと思ったら、それはもうデートなのだ」
「む……。確かに……それは一理あるかもしれません」
「だろう」
それから、テレスが持ってきた美味しいお茶を飲みながら、しばらく語り合う。
それは剣についてだったり、冒険者業についてだったり、ウルグについてだったりする。
その中で、テレスとヤシロ、どちらがウルグの相棒に相応しいか、という話になった。
「私はウルグ様の影ですからね。それは勿論私でしょう。二人は一心同体、以心伝心、もう同一人物と言っても過言ではありません」
「いや過言でしかない。まぁ、ヤシロがウルグと通じ合っているのは認めよう。だがしかし、それとこれはまた別だ。以前、傭兵団にウルグが襲われてピンチだった時に、駆け付けた事があったな。上手く言えないが、こう、なんか相棒っぽいだろう」
「ふわふわしてて分からないです。確かにあの時は不意を突かれ、力及ばす捕らえられ、ウルグ様にご迷惑を掛けてしまいました。しかし! アルナード領に駆け付けた時のウルグ様と私のコンボ! あれを相棒のやり取りと言わずして何と言うのでしょうか!」
「落ち着いてください。先輩はお二人共相棒みたいだ、って言ってましたよ」
「キョウちゃんキョウちゃん。ヤシロちゃん達は相棒の立場を争ってるみたいだし、キョウちゃんはお兄さんの恋人とか狙ったらどぉ?」
「こ、こ恋人なんて! そんな、それはその、先輩がどうしてもっていうなら、考えてあげなくも無かったり、するかもしれませんが……」
などというやり取りが、それから三十分近く続いた。
ヤシロとテレスはよく言い争いをしているが、本気の部分はあれど、二人とも互いに認め合っている。
こういうやり取りも、仲がいいから出来るのだろうと、キョウは思った。
「そういえば、お兄さんは今日、どこに行ってるんですか?」
「ウルグ様は図書館へ調べ物に行っているそうです。使徒や魔神について調べているそうです。
「あぁ、なるほど。ヤシロちゃんはお兄さんに付いていかなくて良かったの?」
「お伴しようと思ったのですが……図書館の本の匂いがどうも苦手で……ウルグ様が『無理に付いてこなくて大丈夫だ』と言ってくださったので……ここにいます」
「ヤシロはあそこへ行く度に腹痛を起こしてトイレに駆け込んでいるからな」
「し、仕方ないじゃないですか……! どうしても行きたくなるんですから! ウルグ様だって仕方ないって言ってくださいましたし!」
トイレへ行くことに羞恥心はあるようで、ヤシロは赤くなってテレスに言い返すした。
ウルグもトイレへ行くヤシロを気の毒に思って、同伴を断ったのだろう。
「そ、そういえばテレスさん。前にアルナード領で『ウルグ・メヴィウス・フォン・アルナード』とか言ってましたけど、あれはどういう事ですか」
「あれは……将来ウルグは《剣聖》になる男だから……父上に色々説明していてだな」
「ウルグ様が《剣聖》になるということには異存ありませんが、それだとメヴィウスとアルナードが余分だと思います。邪魔です。ウルグ・フォンの方が格好いいです」
「邪魔とか言うな! 確かにウルグ・フォンも格好良いが、メヴィウスとアルナードの響きも合っていると思うぞ」
「先輩が《剣聖》に……。確かもう何年か後に選抜がありましたね。確かその時には先輩も成人して参加資格がありますから、そこで出るんでしょうか」
「そうですね。その選抜でウルグ様が華々しく現在の《剣聖》を打ち倒し、世界にその場を轟かすのです」
「ほぇ。お兄さん格好いい」
「険しい道になるだろうがな……。ウルグが《剣聖》にまで上り詰めれば、黒髪への偏見も少しは和らぐだろう」
そんなウルグの将来に思いを馳せる四人。
こうして緩やかに午後は過ぎていった。
そして、後で四人がガールズトークをしていた事を知り、「仲間外れ……か。俺だけ男だし、仕方ないけど……」とウルグがこっそり拗ねる事になったのだった。




