第七話 『テレスのお願い』
――夢を見ていた。
高校時代、剣道部で使っていた道場に立っている。
ちょうど練習が終わったところで、外はすっかり暗くなっていた。
「あー、やっと終わった」
「今日もきつかったですね」
疲労の色を見せながらも、どこか満足気な面々。
先輩後輩関係なく、和気あいあいとした雰囲気で、皆が着替えるために部室の中へ入っていく。
――その中に、俺の姿はない。
ゆっくりと、その後ろを付いて行く。
「☓☓は後で入れよ」
部室に入ろうとすると、同級生の一人に遮られた。
「お前が入ると窮屈になるから」
たしかに部室はそれほど広くない。
男子部員が全員で入るといっぱいになってしまう程度のスペースだ。
「……だったら後輩を外に出せばいいだろ」
後輩が先に入って、先輩の俺が待たされるのは間違っている。
同級生の言葉をバッサリと斬って、中に入ろうとした。
「おい!」
それが気に食わなかったのだろう。同級生が怒鳴りながら突き飛ばしてきた。
「いいから外にいろよ」
「……うるせぇな。弱ぇくせに」
「ッ」
同じように同級生の胸を突き飛ばし、俺は強引に部室の中に入った。
その同級生は歯を食いしばって睨み付けてくるが、結局何も言わなかった。
この時点で、俺はこの同級生よりも圧倒的に強かった。一度も負けたことはない。
だから、俺の言葉に反発できなかったのだろう。
「――――」
部室の中は剣呑な雰囲気が漂っていた。誰もが俺に敵意の篭った視線を向けてくる。
どうして、そんな目で見られないといけないんだ。
俺は何も、間違ったことなんて言ってないのに。
どうして誰も、俺を認めてくれないんだ。
俺より弱い奴がチヤホヤされて、おかしいじゃないか。
「……弱いくせに」
きっと、まだ足りないんだ。もっと、もっと強くなれば。
最強になれば、皆だって俺を認めてくれるはずだ。
もっと強く、強くならなければ。
「誰か、俺を――」
―
深海の底から、急速に引き上げられるような感覚があった。
散っていた意識が、意識を取り戻していく。
「……っ」
嫌な夢を見た。最近はすっかり忘れていた、前世の出来事。
思い出すと、酷く憂鬱な気分になる。
「ん……」
それを振り払おうと頭を動かして、自分の頭が何か柔らかい物の上に乗っていることに気が付いた。家の枕とは違う、弾力のある柔らかさだ。それに少し温かい。
どうやら俺は、何かの上で寝転がっているようだった。
ぼんやりとした頭で、眠る前のことを思い出す。
そうだ。俺は《黒犬》に噛まれて――。
目を開けると、碧い双眸が俺を覗きこんでいた。
「テレス……?」
目があった瞬間、テレスの顔がボンと赤く染まる。
「お……起きたなら、さっさと降りろ!」
「うお」
テレスが裏返った声でそう叫ぶと、勢い良く立ち上がった。
俺は枕から転げ落ち、地面に落下する。
ひでぇ……。
「……膝枕、してくれてたのか」
「違うな、気のせいだ」
気のせいではないだろ。
周囲を見ればまだ薄暗い森の中だ。
テレスはあの後移動することなく森の中に俺と留まったらしい。
魔物がまた襲ってきたらどうするつもりだったんだ……。
……いや、テレスの腕力では俺を外に運ぶことができなかったのだろう。
確か俺は、あの《黒犬》に噛まれて傷を負ったんだ。俺がいたせいでテレスは移動できなかったのか。
「……あ、れ」
そういえば、噛まれたはずの腕に痛みがない。
傷口を見れば、服は破けていたものの、傷はほとんど塞がっていた。
「……《治癒》を使ったんだ」
《治癒》とは、対象の傷を癒やす効果がある魔術だ。
一応は水属性魔術に分類されているが、基本的には『治癒魔術』というくくりで見られている。
どうやらテレスは風だけでなく、治癒魔術も使えるらしい。
俺が言うのもおかしな話だが、この歳でこれだけ魔術が使えるのは、凄いことなんじゃないだろうか。
もしかしたら本当に、テレスは天才なのかもしれない。
「そうか……テレスが治してくれたんだな」
「ち、違うな、気のせいだ」
「どっちだ」
《治癒》で治りきっていない傷もあるが、そのほとんどがただの擦り傷だ。ヒリヒリとする程度でしかない。
知識としては知っていたが、治療系の魔術は凄いな。
使用できるかできないかで、戦いの結果が大きく変わってしまうくらいの効果を持っている。
……俺は使えないが。
「ありがとな。テレス」
「ん……」
「よっと」
服を払いながら、立ち上がる。
地面で寝ていたせいで服が土まみれだ。
手で払うが、なかなか綺麗にならない。帰ったら洗わないといけないな。
……また無茶をしてしまった。
セシルが知ったら怒るだろうな。また、泣かせてしまうかもしれない。
心配させないと誓ったのに、またこれか。情けないな。
「テレスの服も、かなり汚れちゃったな」
特に膝の部分は土で茶色になってしまっている。
「膝枕ん時のか。こっちこい」
「違う……気のせいだ」
「どっちかってと土のせいだな」
引き寄せて、服に付いた汚れを払い落としてやる。
テレスは俯いて、どこか気まずそうにしている。
「帰ったらちゃんと洗っとけよ。……できれば、森の中にいたことは内緒にして欲しい。修業ができなくなると、困るからな」
「あ、ああ」
頷くも、テレスの意識はどこか他にあるようだった。
もしかしたら、魔物に襲われてまだ怯えているのかもしれない。
やはり、あの時に無理にでも逃がしておくべきだったか。
「な、なぁ、ウルグ」
不安そうに、テレスが顔を覗き込んできた。
「どうした?」
「怒って、いるか……?」
怒っている……?
「私のせいで、怪我をさせてしまった……。ごめんなさい」
次の言葉で、ようやく意味が分かった。
どうやら、俺が怪我を負ったことを気にしているようだった。
「別に、怒ってないよ」
「で、でも……」
「あれは、俺が油断していたのが悪かったんだ。テレスが気に病む必要なんてない」
たしかに、テレスが出てこなければああはならなかっただろう。
だが、今回の件は俺がもっとちゃんとしていれば、防げた事故だった。
まだまだ、俺の視野は狭い。戦いに集中し過ぎて、テレスのことを忘れてしまっていた。
だから、己の実力不足を悔いても、テレスを責めることはない。
「今日はもう、帰ろうか」
服も汚れてしまったし、何より疲れたからな。帰ってしっかりと休みたい。
テレスにも、休息は必要だろう。
出口に向かって歩こうとして、テレスに裾を引っ張られた。
「どうした?」
「また……一緒に修業してくれるか?」
「……ああ。俺はいつもここで修業してるからな。テレスが来たいなら、好きにするといい」
「ああ……!」
「ただし、今度同じことがあったらちゃんと逃げろよ」
「……はい」
しゅんとするテレスに、思わず頬が緩む。
それを見たテレスが「笑うな!」とムキになるのに苦笑しながら、森を後にした。
テレスと別れた帰り道。
すれ違う人達が、異様な目でこちらを見てくる。
最初は汚れているからかと思ったが、すぐに気が付いた。
「……帽子がない」
《黒犬》との戦いの間に、落としてしまったらしい。
手で髪を隠して、慌てて家へ走る。
「あれ……?」
だとしたら、テレスは俺の黒髪を見ていたことになるんじゃないか?
―
あれから三日が経過した。
今日も森で剣を振って修業をしている。いつ魔物が出てきてもいいように、周囲に気を配ることを忘れない。
三日前のあれは二度と繰り返してはいけない失態だ。相手が最下級の魔物だったから良かったものの、下手をすれば死んでいた。
テレスに敗北したことも、《黒犬》から怪我を負わされたことも、すべて気の緩みから起こったことだ。意識を改め、修業をしなければならない。
「――――」
《魔力武装》を発動しながら、《黒犬》との戦闘を思い出す。
俺と相対する十匹の《黒犬》。奴らの動きを思い出しながら、そのイメージに向かって剣を振る。
「はっ――!!」
突進を回避し、横を通り抜ける瞬間に斬り付ける。
同時に飛びかかってくる《黒犬》を躱す。
殺すのに的確な魔力量に調節して剣を振る。
上段、正眼、下段、八相の構え。いろいろな構えで《黒犬》のイメージを斬り殺していく。
ただ単純に体を鍛えているだけでは、剣の腕は上達しない。
剣速や威力は上昇していくだろうが、それだけではとても《剣聖》には届かないだろう。
俺が身に付けたいのは腕っ節じゃない。剣の腕だ。
そのために、前世の剣道で培った知識や、上達するためのコツを余すことなく利用する。
イメージトレーニングの中で自分が打った手は合理的か否か。合理的ならばより良くする方法を考え、非合理ならばどうすれば良かったのかを考える。
《黒犬》との戦いが終わってからは、合理的な次の一手を考える修業に力を入れていた。
「来たぞ! 私だ!」
そんなふうに考えながら、修業している時だった。
いつもの調子で、テレスがやってきた。
「勝負だ!」
やってくるや否や、テレスは俺に指を突きつけてそう叫ぶ。もはや恒例になっているやり取りだ。
「…………」
《黒犬》との戦いの後も、テレスとは何度も会っているが、特に変わった様子はない。俺の黒髪を見たはずなのに、だ。
もしかしたら気が動転していて気付いていなかった、という可能性もあるが……。
正直に言って、怖かった。
テレスから「黒髪は気持ち悪い」と言われたらと思うと、体が震える。
いつの間にかテレスは、嫌われたくない相手になっていた。
「ウルグ! ぼーっとするな! 行くぞ!」
考えていると、テレスに怒られてしまった。
「あ……ああ」
頷き、身構える。
すぐに、模擬戦が始まった。
「《風刃》」
いつものように、テレスが魔術を放ってきた。
その場から動かず、俺は一刀で風の刃を両断する。
「はぁ――!」
間髪入れず、テレスが《旋風》を撃ってきた。
《風刃》と同じように斬り裂いていると、その間にテレスは後ろに下がっていく。
おお。距離を取ったか。
後ろに下がりながらも、テレスは魔術の手を止めない。
連続して《旋風》を撃ってくる。以前より、一撃一撃の威力が上がっていた。
テレスの成長速度には、目を瞠るものがあるな。
だが――。
「ふッ!」
威力が上がっていても、やることは同じだ。
《旋風》をすべて斬り落とし、テレスへ肉薄した。
そうして、さらに距離を取ろうとしたところに刃を突き付け、戦いは終了した。
「……次は負けない」
悔しそうに負けを認めながら、闘志を燃やすテレス。
《黒犬》の一件以来、テレスの成長速度が加速したような気がする。
前は単調に魔術を撃ってくるだけだったが、今は俺から距離を取り、攻撃のタイミングを計っている。
そして、単発でしか撃てなかった《旋風》を連続で撃ってくるようになった。
最初は一発撃つだけで精一杯だったのに、短期間で連発できるまでになったのだ。
素直に凄いと思う。
セシルに魔術について聞いたが、やはり一朝一夕で身に付くようなものではないらしい。
詠唱破棄や中級魔術は魔力のコントロールに工夫がいるため、かなりの特訓が必要なのだとか。
テレスが家で何をしているかは分からないが、もしかしたら必死に修業しているのかもしれない。
「やはり、《風刃》と《旋風》だけじゃウルグに勝つのは難しいか……」
「そもそも、魔術師が剣士と近距離で戦おうとするのが間違ってると思うぞ。普通は遠距離から大きな魔術を使って一撃で仕留めるか、前衛の人と協力して戦うもんだ」
「前衛って?」
「んー……簡単にいえば前の方で敵と戦う人だな」
「前衛……。後ろで戦う魔術師は後衛ってことか?」
「その通り」
俺と同じぐらいの歳なのに、飲み込みも早い。
あのイジメっ子達のことを考えると、頭も良さそうだ。
何かしらの教育を受けているのだろうか? それとも俺と同じように本を読んで勉強しているのか?
「だから魔術師のお前が、あの距離で俺と戦って負けるのは普通だと思うぞ」
「むぅ……」
テレスは目を瞑って何かを考え始めてしまった。
かなり悩んでいるようで、金色の眉がピクピクと動いている。
やはり地毛と同じ色になるんだなぁ、他の毛もそうなんだろうか。
なんて考えていると、テレスは何かを決断したらしい。
カッと目を見開いた。
「私は剣が嫌いだ!」
「あ、ああ」
そういえば、前も剣が嫌いとか言っていたな。
テレスは険しい表情のまま、言葉を続けた。
「だが、ウルグに勝つには今のままじゃ駄目だ。それは悔しい。だから、私も剣を覚える。剣を教えてくれ、ウルグ」
テレスは凄く嫌そうな顔をしながらも、俺の片手剣を指さしてそう言った。
教えてくれって言われてもな……。
「教えるって言っても、俺は特にどこの流派にも入ってないぞ? やってる修業だって、全部我流だ」
「それでもいい。ウルグのやっていることを教えてくれ!」
どうしたものか……。
そういえば、前世で剣道の先生が、
『誰かに剣道を教えるということは、自分の勉強にもなります。相手に言ったことを自分ができているかを確認できますし、説明することで新しい発見があります。ですから、先生も皆さんに剣道を教えることで勉強をしているのです』
なんて言っていたな。
先生の言っていたように、テレスに剣を教えれば俺も勉強になるかもしれない。
「……分かった。ただし、俺も自分の修業がしたいから、そんなに長い間は教えられないぞ」
「それでもいい!」
こうして、俺は未熟な身でありながら、テレスに剣を教えることになった。
―
それから数日が経過した。
討伐隊の倉庫から盗んできた片手剣のもう一本を貸して、剣の構え方や素振りの仕方、打ち込みなどをテレスに教えている。
そこで、あることが発覚した。
テレスは《魔力武装》が使えなかったのだ。無属性魔術への適性がなかったらしい。
俺は《魔力武装》なしでもすでに剣を扱えるが、テレスの細い腕では難しい。
何度か止めるかと聞いたが、テレスは頑なに剣の修業を続けることを選んだ。
だから、片手剣ではなく、家の倉庫にあった木刀を貸して、それで修業をさせることにした。
今は、剣を振る上での基本的なことを教えている。
「そんなに重心を崩していたら駄目だ。それじゃあ連続して剣を振れないぞ」
人に剣を教えるというのは、思いの外難しかった。
悪い部分は分かるのだが、その直し方が上手く言葉で表現できないのだ。
何とか言葉を探し、お手本を見せているが、正しくできているのかは正直不安だ。
しかし、収穫はあった。
テレスの悪いところを指摘しているうちに、自分の悪い所も見えてきたのだ。
例えば、俺は相手に深く斬り込もうとする一瞬、わずかに重心を崩してしまっていた。
重心を崩すということはつまり、隙ができるということだ。
それは良くない。
気付いてからは、重心を崩さないことを極端なほど強く意識して斬り込みを行っている。
これも剣道の先生の言葉だが、欠点は極端なほどに意識して直そうとしなければ直らない。
テレスにも、先生の言葉を借りてそう教えている。
テレスも俺も、意識することで少しずつ、駄目な部分が直ってきていた。
「行くぞ!」
修業をつけた後、いつものように木刀で模擬戦を始める。
威勢よくそう言うと、先に動いたのはテレスだった。
勢い良く間合いを詰めてきて、右上段から打ち込んでくる。
正眼に構えている俺は、それを軽く弾いた。
「はぁあ!」
テレスは剣が弾かれると同時に横に飛びながら、再度斬り掛かってくる。
教えた通りに、剣を振ってからすぐに次の攻撃に移れるように、重心を崩さないことを意識しているようだ。
だが、如何せん隙が多過ぎる。剣が大振り過ぎるのだ。
剣を振る瞬間に、胴体ががら空きになってしまっている。
これでは打ち込んでくださいと言っているようなものだ。
「《旋風》」
「!」
テレスは剣が俺に通用しないと分かると、魔術を使用した。
クルクルと回転する風を生み出したかと思うと、それを木刀に絡ませる。
「はぁ!」
風を纏わせた効果か、剣を振り下ろす速度が速くなった。
魔術を使った戦い方は教えていないから、自分で思いついたのだろう。
《魔力武装》で武器に魔力を纏わせられない分、風の魔術でカバーしている。
こういうふうに自分で考えて戦い方を思いつくあたり、やはりテレスは頭がいい。
「……甘い!」
しかし、剣の軌道が見え見えだ。
軽く横に跳ぶだけで、テレスの木刀はいとも容易く空振る。
勢い余った木刀が地面にぶつかり、土を飛ばす。
そこへ俺は木刀を突きつけた。
戦いの後は、反省会だ。
どこが悪かったのかを、テレスに教える。
「前も言ったけど、剣が大振り過ぎる。あれじゃ胴体に打ち込まれて終わりだ」
「どうしたらいいんだ……」
「まず基礎的な筋力が足りてないからな。きちんと素振りとかをして筋力や体力を付けないといけないな」
「はい……」
毎回のことだが、テレスは悪かったところを教えると落ち込む。たまに泣きそうになることもある。
とはいえ、小学生の頃に剣道をやっていた同級生には練習のキツさに泣いて、辞めていく奴も多かった。
やめると言わないあたり、テレスには気合があるな。
「だけど、重心を崩さないように意識してたのは良かったよ。後、《旋風》を利用してたのも良いと思う」
「ほ、ほんとか?」
「ああ」
「ふ、ふん……」
無愛想な感じに、テレスが鼻を鳴らす。
口元が緩んでるぞ。
修業を付けてから模擬戦をし、反省会をして終了。
反省会が終わると、テレスは何か用事でもあるのかすぐに帰っていく。
「…………」
しかし、今日のテレスは違った。
なぜかモジモジしながら、何かを言いたげに木刀の手入れをしながらチラチラこちらを見てくる。
「何か言いたいことがあるのか?」
もどかしいので俺から聞いてみると、テレスはビクッと体を震わせた後、意を決したように勢い良く口を開いた。
「こ、今度ウルグの家に私を連れて行って欲しい!」
家にはアリネアやドッセルがいるから、俺が勝手に家に人を入れたら良い顔はしないだろう。
後で嫌味を言われるのが目に見えている。下手すればテレスごと外に追い出されるかもしれない。
「……なんでだ?」
「い、いいだろ!! この前私が勝負で勝ったのだから!」
「そう言われてもな……。今度っていつだ?」
「三日後だ」
「三日後?」
やけに具体的だな。
そう考えて、あることに思い至った。
三日後はこの森に、討伐隊がやってくる日だ。
戦える村の大人達は武器を持って森に入り、その妻はそれをサポートするために集会場に集まって料理を作る。
確か、ドッセルとアリネアもその日は家を出て討伐隊に参加するんだったな。
何日か前に、この村を領地としている貴族――アルナード家の人間が討伐隊に加わる、みたいなことをドッセルとアリネアが話していたのを覚えている。
「……駄目か?」
両親がいない日なら、テレスを呼んでも大丈夫だろう。
ただひとつ、問題がある。
セシルの存在だ。あの姉がテレスと会った時、何をしでかすか分からない。
「……分かった。ひとまず、家族にテレスを呼んでいいか聞いてみるよ」
「本当か!?」
「ああ。姉が良いって言ったら、大丈夫だと思う」
しばらく考えた結果、セシルに許可を得てから決めることにした。
彼女が許可をくれるなら、大丈夫だろう。
その晩、セシルに聞いたところ、「大歓迎よ」と静かに笑っていた。
彼女の許可が出たことで、三日後、我が家へテレスが来訪することが決まったのだった。
……本当に大丈夫か?