表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌われ剣士の異世界転生記  作者: 夜之兎/羽咲うさぎ
第二章 紫影の盟約
26/141

閑話 『人狼少女の歩み』

 牙の一族以外の人狼種ライカンスロープは、大陸北部にある人種からは『亜人山』と呼ばれる大きな山の中で生息している。同族や他の亜人と衝突が起こらぬよう、部族事に住む場所を決め、必要以上の接触はしない事になっていた。

 部族の中の一つに、自身の生涯をただ一人に捧げることを喜びとしてきた一族が存在する。

 その名前を影の一族。

 他の人狼種からは他種に媚びへつらう腑抜けと馬鹿にされている。


 私、ヤシロ・ウルフレードはその一族に生を受けた。




 影の一族に生まれた子供は、文字や言葉と平行して、聴力や嗅覚を利用した狩りの仕方を教えられる。自分に合った武器を使い、魔物や動物を狩っていくのだ。

 他の子供達が順調に狩りをしていく中で、私は落ちこぼれていた。

 理由は簡単で、生まれつき耳と鼻の機能が弱かったからだ。他の子と同じように獲物を見つける事が出来ず、親からは失望され、同年代の子達からは馬鹿にされた。


 私の弟は優秀で、いつも私は弟と比べられていた。それが悔しくて、辛かった。

 弟は私に懐いていたが、比べられる原因となる弟が無邪気に甘えてくるのは複雑だった。

 遊べる友達もおらず、私はいつも本を読むようになった。その中にあったダジャレという、不思議な言葉遊びの本にハマって、私は一人でダジャレを考えたりしていた。



 狩りが出来ないならば、魔術を使えるようになろう。

 私はそう思い、必死に影の一族に伝わる«影»の魔術とそれを使った体術を練習した。

 その過程で、この一族に伝わる『影の盟い』のやり方も覚えた。


 魔神戦争以来、影の一族は山に篭って外へ行かなくなった。それ故、『影の盟い』をすることも少なくなっている。同じ山に住む他の亜人に盟いをしたという話はよく聞くが、私は他人に自分の人生を費やすなんて、馬鹿だと思った。身近な人が誰も盟いをしていないのも、そう思った理由の一つだと思う。


 必死に努力した結果、私は同年代のどの子よりも強くなった。年上でも私に勝てる人は多くない。

 相変わらず、獲物を見つけるのは得意では無かったけど、強さのお陰で馬鹿にされる事は無くなった。

 親は私を褒めてくれて、他の子達も技を教えて欲しいと、近づいてくるようになった。


 最初は嬉しかった。

 やっと自分が認められたのだと、そう思った。

 だけど。

 結局、誰も私を見てなんかいなかった。皆が私に近付いてくるのは、私の力を利用したいからだ。

 そう気付いてから、私に媚を売ってくる親達が気持ち悪く見えて仕方なかった。唯一、弟は私に対する態度を変えなかったけど。

 

 もう、この村にはいたくない。

 前から、外の世界に興味があった。

 だから私は必要な荷物をまとめ、誰にも気付かれないように山を降りた。

 その時に、『ウルフレード』の姓は捨てた。



 人間は人狼種に厳しいと聞いていたから、私はフードを被って耳を隠すことにした。窮屈だったが、仕方がない事だと我慢した。

 持ってきた食べ物はすぐに無くなり、私は空腹に倒れそうになった。そんな時、私は近くの村の人に拾われた。その人達は私に親切に食べ物を分けてくれ、村にある宿にただで泊めてくれたりした。

 なんだ、人間にも優しい人がいるじゃないか。

 そう思った。


 だけど、優しいのは人間に対してだけだった。

 ある日、私はうっかり村人の前でフードを取ってしまった。皆の優しさに、気が緩んでいたのだと思う。

 大きな騒ぎになった。私の耳を見た人が「よくも騙したな」と詰め寄ってきて、私に手を上げようとした。反射的に躱すと、その人はバランスを崩して地面に倒れた。

 それを見た他の人が、人狼種が村人を襲ったと周りに伝え、武器を持った村人の人達が私に襲いかかってきた。


 必死の思いで逃げた。

 どうして、人狼種というだけでここまでされなければいけないのか、分からなかった。

 あんなに親切にしてくれたのに、どうして種族が違うというだけで、態度を変えてしまうのだろう。

 分からなかった。

 怖かった。



 村から逃げた私は、人狼種の走りで二日ほど掛かる『迷宮都市』という場所へやってきていた。

 そこで冒険者になり、生活するお金を稼ごうと思ったのだ。


 受付の人には怪しまれたが、顔を隠して出来るだけ喋らないようにし、何とか冒険者登録を済ませた。

 最初の内は良かった。

 人と接しなくても住むような、魔物退治の仕事をしてその日のお金を稼いで生活していた。

 だけどある日、私は二人組の冒険者に正体を知られてしまった。

 二人が「少し話をしないか? いい儲け話があるんだ」と話し掛けてきて、私が断ってその場から離れようとした時だった。フードを剥がされ、耳を見られてしまったのだ。

 二人は驚かなかった。「やっぱりな」と言っていた事から、最初から私の正体に気が付いていたのだと思う。


「正体をバラされたくなかったら、俺達に従いな」


 その日から、私はセルドールとジーナスという男の言いなりになった。 


 私が稼いでお金の半分以上を毎日二人に渡した。

 魔物と戦う時、私は囮にさせられた。

 体をベタベタと触られた。


 幸いな事に、私が子供だったせいで、えっちぃ事をされる事は無かった。

 逃げ出そうかと思った。だけど、他に行く宛も無く、ここから出ても餓えて死ぬだけだろう。

 山に戻る事も考えた。だけど、今更戻っても辛い思いをするだけだろう。


 どうして良いかも分からず、数ヶ月が過ぎた。

 そして私は出会った。


 黒髪の少年に。



 

 最初に彼を見たのは、彼が冒険者登録をしにギルドに来ている時だった。

 セルドール達が彼の黒髪を馬鹿にして、絡みに行くのを私は近くで見ていてた。

 何を言われても、彼は何とも思っていなかった。ただ冷めた目で二人を見て、どうでも良さそうに受け流しているだけだ。

 あんな風に悪口を言われて、怒らないなんて凄い人だな、と思った。



 それから何度も都市の中で見かけた。

 彼は良く冒険者の方に目を付けられて絡まれていたが、それも全く気にしていなかった。

 彼はいつも詰まらなさそうな顔をしているから、もしかしたら冷たい人なんじゃないかと思っていた。


 それが違うと分かったのは、男の人に絡まれて泣いている女の子を、私が助けようとした時だ。他の人達が見てみぬ振りをしている中で、怒鳴る男の人に彼は私と同時に声を掛けた。

 近くで見る彼は目付きが悪く、鋭い雰囲気を出していた。


 女の子の食べ物が服に付いてしまったみたいで、男の人は怒っているようだった。大声で怒鳴り散らし、小さな女の子は完全に萎縮して震えていた。

 いくら服が汚れたからといって、そんな事でここまで怒鳴るなんて酷すぎる。

 私が文句を言おうとすると、彼は静かにそれを遮り、男の人に銀貨を渡し始めた。

 男の人はそれで満足したようで、銀貨をポケットにしまって去っていった。


 あんな人にお金を渡すなんて、あり得ない。

 あの男の人にも苛立ったし、お金で解決しようとした彼にもムカついた。思わずキツい言い方で、何故お金を渡したかと聞いてしまった。


「確かにあの人は乱暴な事を言っていたが、服を汚されたのは事実だからな。この子が汚しちゃったのは仕方ないと思うけど、まあ今回はこの子が先に悪いことをしたんだよ。だから適当に金を握らせとけばあいつも満足するよ」

 

 彼は冷静にそう言った。

 そう言われて、確かに正しいなと思った。だけど女の子を泣かせたあの人が得をしたのが許せなくて、少し棘々しい態度を取ってしまった。

 それでも彼は涼しい顔をして、それを受け流していた。


「次からは何か食べ物を持ちながら歩く時は、気を付けて歩かないと駄目だぞ。ああやって服に付いたら怒る人がいるからな」


 彼はどことなく引き攣った、無理のある笑みを浮かべながら、女の子の頭を優しく撫でていた。

 いつもの詰まらなさそうな表情とは違う表情。

 拙いが、出来る限り優しく振る舞おうとする彼の姿は、彼の目付きの悪さと相まって面白かった。

 こんな顔も出来るんだと、その時、私は明確に興味をもったのだと思う。


 少女と別れた後、私達は向かう方向が同じな為、しばらく一緒に歩いた。

 途中、遠くから漂ってきたお肉の匂いに、最近自分があまり食べ物を食べていない事を思い出してしまい、大きなお腹の音を鳴らしてしまった。

 走って逃げ出したくなるほど、恥ずかしかった。

 彼はきょとんとした表情で、「お腹が空いているのか」と聞いてきた。途中でボロを出して少し危なかったが、何とか正体は誤魔化す事が出来た。


 露店の前を通った時、彼もお腹が空いていたのか串肉を買っていた。私も欲しかったけど、残念な事に財布にお金が殆ど無くて、買う余裕は無い。

 肉が憎い。

 そんな私に、彼は呆れた顔をしながらも、串肉をくれた。

 餌をお預けされた犬、という表現は面白かった。狼だけど。


「……この鶏肉、取りにくい」

「ブフォッ!」


 串肉を食べ終わって、お腹を擦っていると、彼が唐突にそんな事を言ってきた。面白すぎて盛大に吹いてしまう。何で急にこんな面白い事を言ってきたんだろう。

 

 いつもは詰まらなさそうな顔をしているけど、本当は優しい所もあって、面白い事も言える人なんだと、思った。

 ……餌づけされたみたいだけど。



 そして。

 くだらないと思っていた、『影の盟い』をしたいと思ったのは、迷宮での一件があってからだ。

 

 ある日、迷宮に魔物が大量発生した。

 私はすぐに逃げた方が良いと二人に言ったが、「魔物をいっぱい狩って儲けるチャンスだろうが」と話を聞いてくれなかった。

 案の定、すぐに対処しきれなくなった。

 その挙句に、彼らは私を囮にして逃げていった。

 電撃の魔術を喰らってしまい、体が痺れて動けなくなってしまったのだ。

 その間にも、魔物は私に向かってくる。一匹の《影斧》が私に向かって斧を振り下ろそうとするのが見えた。

 

 ここで、死ぬんだ。


 一体、何のために私は生まれてきたのだろう。

 能力、種族。 

 私を私として見てくれる人は誰も居なかった。

 努力も、家出も、我慢も、全て無意味だったのだろうか。


 私はどうして――。



 斧が振り下ろされる瞬間だった。

 ふんわりと、とても落ち着く匂いがした。


 黒髪で目付きの悪い少年が、目の前にいた。


 私を抱えて、彼は走る。


「大丈夫か」


 そう静かに言う彼は、どこか苛立っている様だった。

 体の痺れが取れて、自分で動けるようになってすぐに、私はまた失敗した。耳を隠していたフードが捲れて、彼に耳を見られてしまった。


「――人狼種」


 彼は目を見開き、小さく呟いた。

 もう、終わりだと思った。折角助けてくれた人にも、私は見捨てられるんだと、そう思った。

 だけどそうならなかった。

 彼は少し驚いていたが、すぐに表情を切り替え、私の耳の事を無視して進み出した。あまりに何でも無い彼の反応に、思わず私はどうも思わないかと聞いてしまっう。


「全く気にならないと言ったら嘘になるけど、今はそんな場合じゃないだろ。後、俺は人狼種だろうが妖精種エルフだろうが、あいつらみたいにいきなり切り捨てたりはしねぇよ」


 彼は当たり前のようにそう言った。

 何を当然の事を、という感じだ。


「俺は、人を外見だけで判断して、敵視したり、馬鹿にしたりするような奴にはなりたくないから、な」


 と。

 その時の私は間抜けな表情をしていたと思う。

 こんな風に言う人が居るなんて、と。



「あ、あと俺は黒髪だから。外見だけで見られることが少なくないから、まあそういうあれだ」


 そんな私の反応に、彼は顔を赤くして言い訳するようにそう言った。

 その時の姿が可愛くて、そして私は理解した。



 ――私は、この人の影になるために生まれてきたんだ。


 そして、その時、私は初めて彼の名前を知った。


 ――ウルグ。

 私はこの名前を、決して忘れないだろう。






 その後、彼は自分の身を省みず、何人もの人を助けた。

 もう助けようの無い程に追い詰められていた女性を見捨てる事無く、彼は自分が囮になると言い出したりもした。

 止めようとしてもウルグ様は聞かず、魔物を自分だけで魔物を引き付け、私達を逃がそうとしてくれる。


 まるで物語の英雄の様な人だと、思った。


 女性を助けた後、私はすぐにウルグ様の所へ向かった。死なせてたまるものかと、道を阻む魔物を切り捨て、全速力で向かった。

 そして、ギリギリの所で間に合えた。もう少し遅れていたと思うと、背筋が凍る思いだ。


 ウルグ様はたった一人で《百目百足》の多くの目を潰していた。

 弱い魔物じゃなく、迷宮主相手に一人でだ。その外見からは想像も付かないほどの実力の持ち主だと、改めて理解した。

 同時に、やはり仕えるならこの人しかないとも思った。


 そして、苦闘の末、私達は《百目百足》を討伐することに成功する。

 たった二人でだ。

 奇跡と言っていいかもしれない。


 ウルグ様は既に満身創痍で、顔を土気色にしていた。

 死なせてなるものかと、私はウルグ様に駆け寄ろうとして、そこでまた、私はウルグ様に助けられてしまった。

 最後の力を足掻きを見せた《百目百足》の攻撃から、ウルグ様は自分の身を犠牲にして助けてくれたのだ。

 体を抱きかかえられ、ふんわりと甘い血の匂いに包まれた。また助けられてしまったのだと、私は自分の不甲斐なさが悔しかった。


 それからすぐに救助が来て、私達は助かった。



 今度は助けられるのでなく、私がウルグ様を助けたいと思った。

 影の盟いの事を、目覚めたウルグ様に言おうとしたが、言えなかった。人狼種の自分がそんな事を言ったら、迷惑になるのではないかと思ったからだ。

 もう迷惑は掛けたくない。そう思った。


 だけど、すぐに迷惑を掛けてしまうことになる。

 私の無事を知ったセルドールとジーナスが脅しを掛けてきた。

 人狼種という事を他の人にバラされたら。でもウルグ様に仕えたい。

 どうしたらいいのか分からなくなって、私は『ウルグさんと一緒に行動する』と、許可も取っていないのに言ってしまった。

 そのせいで、ウルグ様はセルドールとジーナスと決闘をする事になってしまった。


 ……私、死んだ方がいいんじゃないかな。


 と落ち込んだが、ウルグ様は気にするなと優しく言ってくれた。



 決闘自体はすぐに片がついた。

 やはり、あの二人程度ではウルグ様には勝てなかったのだ。

 安心したのも束の間、セルドール達は私が人狼種だという事を、決闘の見学に来ていた冒険者達にバラしてしまった。

 大勢の視線、ざわめき声。村を追い出された時の事を思い出して、私は立っていられなくなった。


 足がガタガタと震えて、呼吸が荒くなって、心臓が気持ち悪い鼓動を打って、嫌な汗が出て。


 その時、ウルグ様は皆に向かって「ヤシロは人狼種だ」と言った。

 ウルグ様にも見捨てられるのではないか、という不安は一瞬で消えた。


「大丈夫だ」


 彼はそう言って一瞬だけ笑うと、



 「だけどそんな事で、こいつを変な目で見るのはおかしいだろ。

俺はヤシロとそんなに長い間一緒にいた訳じゃない。ヤシロの事を、そんなに知ってる訳じゃない。だけど、俺は皆が見て見ぬふりをする中で、ヤシロがチンピラに絡まれてる女の子に手を差し伸べられる奴だって事は知ってる。魔物が溢れていた迷宮の中に、俺を助けに来てくれる奴って事は知ってる。

 人狼種だとか、亜人だとか、そんな事は関係無しに、俺はヤシロが良い奴だと信じてる。だから俺はヤシロが人狼種だと知っても何とも思わない。

 お前らはヤシロの事を何か知ってるのかよ。

 こいつが優しい奴って事を、何も知らないだろ。

 知りもしないで、勝手にヤシロを決めんじゃねえ!

 だから、俺はヤシロの事を何にも知らないで、人狼種ってだけで馬鹿にする奴は許せない。外見だけで、種族だけでヤシロを判断して、馬鹿にする奴は絶対に許さない!

 これを聞いてもまだ、ヤシロを種族だけで判断して、差別する奴は俺の所に来い! 俺がそれを全部否定して、ぶちのめしてやる!」


 大勢の冒険者の前で、彼はそう叫んだ。

 

 その瞬間、私は何が起きても、ウルグ様の為に死のうと、そう誓った。

 同時に、ウルグ様に対して、よく分からない感情を抱いてしまった。


 ウルグ様を見ると、胸がドキドキするようになりました。

 何だろう、これは。



 後日、ウルグ様に影の盟いをしたいと話すと、やはり彼は困惑していた。当然だろう。急にこんな事を言われたら、私だって困る。

 だけど諦める事は出来なかった。

 ウルグ様じゃないと、駄目なんだ。ウルグ様が良い。


 ウルグ様は何故か、私の言葉に泣いてしまった。

 何か癇に障ることを言ったのかと、不安になったが、ウルグ様は「こんな俺でいいのか?」と聞いてきた。

 当然だと答える私に、ウルグ様は、


「分かった。……よろしくお願いします」


 

 その日、私はウルグ様の影になりました。




「……寝てしまいましたか」


 ベッドの上で小さく寝息を立てるウルグ様に、私は毛布を掛けた。

 ウルグ様の今後の事の話を終えてすぐに眠ってしまった。

 ウルグ様が私よりも年下と聞いた時は驚いたが、このあどけない寝顔は歳相応の物に見えた。可愛い。


「……それにしても……獣臭い……ですか」


 自分で自分の匂いを嗅いでみるけど、特に臭いとは感じない。ただいつもの自分の匂いがするだけだ。

 でも、確かにお風呂には入っていないし、食べる物もお肉ばかりだ。……本当に獣臭いのだろう。明日からちゃんとお風呂に入って、お肉も控えよう。


「……」


 眠っているウルグ様のほっぺたをゆっくりと触れる。ふにふにしていて気持ちが良い。

 失礼だとは思いながらも、私は衝動を抑えきれずに眠っているウルグ様の体に触れてしまった。

 ふにふにのほっぺに、引き締まっている体、良く手入れがされているサラサラの黒髪。ドキドキする。

 

「……いい匂い」


 ウルグ様に顔を近付けて息を吸う。いい匂いがする。

 少し甘くて、優しい落ち着く匂い。ずっと嗅いでいたい。


「……ん」


 ウルグ様が小さく声を漏らしながら、身動ぎした。慌ててウルグ様から離れるけど、どうやら起きた訳ではないらしい。

 もう少し、ウルグ様の匂いを嗅いでいたかったけど、起こしてしまってはいけない。

 私は灯りを消して、自分の部屋に戻ることにした。


「おやすみなさい――ウルグ様」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ