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嫌われ剣士の異世界転生記  作者: 夜之兎/羽咲うさぎ
第八章 白緑の霧鐘
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第三話 『次の目的地』

僅かに更新


 バドルフの店から宿へ向かう道中、俺は上の空だったと思う。

 ヤシロがあれこれと話しかけてくれたが、上手く言葉を返せなかった。


 結局、使徒って何なんだ?

 魔神を蘇らせるために集まった連中らしいが、それは本当なのか?

 セシルが、悪い魔神を蘇らせようとするとは考えられない。


 王都で会った使徒達の反応を見ると、セシルは途中で奴らを裏切ったのだろう。

 だが、それならどうしてセシルは使徒になったんだ。

 衝動に襲われて悪人を殺していたというが、衝動って一体何なんだ?


 俺の体に宿っている力と何か関係があるのだろうか。

 恐らく、この力はセシルが原因だと思う。

 どういう意図があって、セシルは俺に力を与えたのだろう。


 そして、セシルの生い立ちもよく分からない。

 どうして、セシルはヴィザールの家に養子として引き取られたのだろう。 

 どこの孤児院出身だったのか、バドルフは知らないと言っていた。

 ヴィザールのあの二人なら知っているかもしれないが、答えてもらえるとは思えない。

 聞いたところでどうなるんだ、とも思う。


 分からないことばかりだ。


 あぁ。

 もう一度、セシルと会いたい。



 ぼーっとしたまま宿へ行き、夕食を取り、部屋に戻った。

 答えの出ない思考を中断して我に帰る。

 

 部屋にはベッドが二つあった。

 片方にヤシロが座って、毛繕いをしている。

 二人部屋にしたんだったか……。

 

「ずっと寮で過ごしていたから、こうして宿に泊まるのは随分懐かしく感じますね」


 視線に気付いたヤシロが、しみじみとした口調で言った。

 

「ああ。こっちで冒険者をやっていた時のことを思い出すよ」

「そうですね。あと、こうして毛繕いをしていると、あの時のことを思い出します」

「あの時のこと?」


 立ち上がって俺に背中を向け、ヤシロはいたずらっぽい笑みを浮かべながら振り返る。


「ウルグ様にお願いされて、尻尾をお見せした時のことです」

「うっ」


 あの時、ヤシロはズボンを下げて尻尾を見せてきたんだった。

 色々見えてしまったのを思い出して、思わずヤシロから目を逸らす。


「それから……獣臭いって言われたりしましたね。とっても懐かしいです」

「悪かった! あの時はデリカシーが足りなさ過ぎたんだ!」

「いえいえ。お風呂に入らずにお肉ばっかり食べていた私が悪いんです」

「今は、その、あれだ。良い匂いだから、気にしなくて良い……」

「ふへへ。ありがとうございます」


 ニンマリと笑みを浮かべるヤシロ。

 やられっぱなしだ。

 今の俺だったら、もう少しデリカシーのある言い方ができるはずだ。

 例えば、運動して汗かいたから、風邪を引かないようにお風呂に入って来なさい、みたいな。

 ……駄目か。

 

「……あの時のヤシロはこんなに攻めてこなかった気がする」

「ふふ。テレスさんのお陰で鍛えられましたから」

「それ、テレスに聞かれたら怒られるぞ……」


 怒っているテレスを想像して、二人で小さく笑う。

 それから、ヤシロは俺の隣までやってきた。


「気分は、よくなりましたか?」

「……ああ、少し良くなった」


 上の空の俺のために、ヤシロはわざとからかうように話を振ってきてくれたのだろう。


「……少し、弱音を聞いてくれないか?」

「はい」

「……姉様が悪い人じゃないってことは俺が一番知ってる。使徒だったって聞いても、姉様は姉様だ。何も変わらない。だから、困惑はしたけど、姉様が使徒だったことはそれほどショックじゃない」


 ヤシロは何も言わず、黙って聞いてくれている。


「ただ、不安なんだ。使徒が何なのか、魔神を復活させて何がしたいのか。分からないと不安になる。取り返しのつかないことになる気がして……怖いんだ」


 分からなければ、どうすることもできない。

 知っていれば、もしかしたらセシルを助けられたかもしれない。

 失わずに、済んだのかもしれない。


「バドルフの話を聞いて、セシルが死んだ時のことを思い出した。……失うのが怖いんだ。もう誰にも死んで欲しくない。大切なものを守りたい。ずっとそればっかだ。……それで、どれだけ強くなっても、不安がなくなることはないんだろうなって、思った。はは……キリがないな」


「では、強くなる意味はないと思いますか?」


 首を横に振る。


「不安はなくならなくても、俺は剣を振り続けるよ。どんな敵が相手でも勝つことのできる最強になるって、自分で決めたんだ。だから、止まらない」


「だったら、それで良いと思います。どんなに強い人でも、取り零してしまう物はあります。悲しいけど、それは仕方がないことなんです。でも、強くなれば取り零す量は絶対に減ります。だから……ウルグ様のやってることは無駄でも、間違いでもありません」


「……うん」


 すべてを守ることはできない。

 どんなに強くても、その場にいなければ守ることはできない。

 距離が遠ければ、手が届かないこともある。


 だから、


「その時に『自分がもっと強ければ』って後悔をしなくて良いように頑張るよ」


「――はい」


「それに、俺は一人じゃない。ヤシロやテレス、メイやキョウ、ジークさんやシスイさんもいる。だから、うん。きっと大丈夫だ」


「その通りです。私にお任せください」


 嬉しそうに微笑み、ヤシロは頷いた。

 

「ごめんな、情けなくて。俺はいつも、同じことで悩んでばっかだ」


「ウルグ様はそれで良いんです。そんなウルグ様を、私達は好きなんですから」


 それから、ポツポツとヤシロと話した。

 お互いに眠くなってきた頃。


「セシルさんは、普段ウルグ様にどんなことをされていたんですか?」

「どんなことって?」

「例えば……膝枕とか」

「ああ……。たくさんしてもらったよ」

「でしたら」


 ポンポン、とヤシロは自分の膝を叩いた。


「ど……どうぞ」

「それは、どういう……」

「私はセシルさんの代わりにはなれません。ですが……セシルさんと同じことをしたら、少しでもウルグ様の心を安らげるのではないか……と」


 色々な考えが頭をよぎった。

 でも、それを全部置いておいて、


「うん。頼む」


 ヤシロの膝に、頭を乗せた。

 セシルのよりも、ヤシロの膝は小さかった。

 ただ、温かい。


「どうですか……?」


 緊張した風に聞いてくるヤシロ。


「すごく落ち着く」

「ふふ、良かったです」


 ゆっくりと、ヤシロが頭を撫でてくれた。

 本当に、子供みたいだ。

 でも、すごく落ち着いた。

 

「ヤシロ」

「はい」

「ありがとう」


 間もなく、俺は眠りについた。



 翌日、俺達は墓地に来ていた。

 迷宮都市の隅にある、共同墓地だ。

 死んだ冒険者の遺体の多くが、ここに埋葬されている。

 当然、全員ではない。

 死体が残らなかったものや、墓を作ってもらえなかった者も多くいる。


 そんな中で、レオル達のパーティの墓はしっかりと作られていた。

 レオル達の遺体は、ほとんど残っていなかったらしい。

 剣や鎧などの一部が転がっていたのみと聞いた。

 特にレオルの遺物は、何一つとして残っていなかった。


 それでも、レオル達全員分の墓がここにある。

 それだけ、彼らが多くの人に慕われていたということだ。

 

 花を供え、頭を下げる。

 俺が«幻剣»を使えるようになったのは、レオルのお陰だ。

 それに、彼らは俺とヤシロを差別することなく、親切に接してくれた。

 

 来るのが遅くなって申し訳ありません。

 ありがとうございました。


 数分後。

 顔を上げ、墓地を後にする。


 次の目的地は、迷宮都市からしばらく離れた場所にある都市だ。

 活気が溢れており、商業も盛んらしい。

 そこへ、話を聞きに行くのだ。


「行こうか、ヤシロ」

「はい」


 セシルのことを、知っているという人物。

 俺の持つ『鳴哭』を造ったという、高名な鍛冶師。

 コントラ・ゼンファーの下へ。

 




 


 

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