第二話 『初依頼』
『迷宮都市』は大きく四つの区画に分けられている。
冒険者用の武具などの店が揃っていて、冒険者ギルドが建っている、都市東部の第一区画。
冒険者が寝泊まりする宿や飲食店が多く揃っている、都市南部の第二区画。
冒険者の息抜きの為の娼館などが揃っている、都市北部の第三区画。
そして迷宮への入口が存在している、都市西部の第四区画だ。
こうして見ると、本当に冒険者の為の都市だ。
第一区画などと呼ぶのが面倒になった人からは、簡単に第一区画はギルド区、第二区画は繁華街区、第三区画は歓楽街区、第四区画は迷宮区などとも呼ばれている。俺もこちらの呼び方の方が分かりやすい。
冒険者登録を済ませた俺は、まずギルド街に数多く存在する武具店を見て回っていた。
存在する店の殆どはギルドと提携しており、冒険者に対しては割引が働くらしい。まあ武具の値段は割引を前提しているので、得をすると言うよりは損をしないといった感じだ。
見た中でも最も大きかったのは『バドルフ武具店』だ。大きな店の中には所狭しと数多くの武具が並べられており、そのどれもが一級品。一つ一つに目の飛び出る様な値段設定がされている。ここで装備を揃えようと思ったら、セシルが貯めてくれた金が吹っ飛ぶ。
剣は持っているので、取り敢えず俺は鎧を見繕った。
西洋の騎士が身に付けていそうなガチガチのフルアーマーから、魔術で強化されており、鎧と同様の強度を誇る魔術服など、色々が存在していた。
通り過ぎる人の装備を見ると、フルアーマーよりも魔術服の人の方が多かった。
なので俺はフルアーマーよりも魔術服を選ぶことにした。店に入ると冷やかしだと思われて追い出されそうになるので、かなり苦労したが。
取り敢えず、店ごとにめぼしい物の値段をメモっておいて、手持ちの金と相談し、一番コストパフォーマンスが高そうな魔術服を一式揃えた。黒いコートと黒いズボンというか、全身黒づくめな格好だ。
俺に装備出来るサイズの物が少なくて、選ぶのにかなり苦労した。
それにしても「ガキは帰りな」と追い出そうとして来た店員に金貨の入った袋を見せた時の手のひら返しは凄かった。追いだそうとしていたのに、途端に俺をお客様扱いし始めたのは、切り替えが早いと褒めるべきだろうか。
「こんな所かな」
装備は万全とは言いがたいが、手持ちの金の事を考えてやめておいた。まだ余裕はあるが、収入が安定してから買った方が良いだろう。
魔術服をリュックの中に仕舞い、それから俺は繁華街区へ向かった。
今泊まっている宿は繁華街区にあるが、まだ宿には戻らず、しばらく繁華街区をうろつく事にした。
繁華街区にある宿を見て回り、その設備と宿泊費などをメモっていく。その結果、俺はそれなりに良い宿に泊まっている事に気付いた。小さいとは言え風呂付きで、少し金を出せば朝食と夕食を出して貰える。なのに値段は普通の宿より少し高い程度に収まっている。他の風呂付き宿はもっと高い。
ということで、しばらくの間はあの宿でお世話になる事にしよう。
次に見て回ったのは食べ物を取り扱っている店だ。魔力を込めると冷気を放出する«氷石»を使って、生の食べ物も悪くない品質で売られている。俺は品揃えや値段を店ごとにメモっておいた。店員に他の店のスパイと間違われて怒鳴られたので、林檎を一つ買っておいた。
意外な事に、売られている商品のほとんどが元の世界の食べ物と同じだった。時おり、元の世界には無かった名前の食べ物もあったが。
露天ではお祭りの屋台の様に色々な食べ物が売られていた。焼き林檎や串肉、変わったのだとハニートーストとかがあった。焼いたトーストに蜂蜜を塗りつけた物だ。
「……セシルが、好きそうだな」
以前、セシルにフレンチトーストを作ってあげたことがある。あの時のセシルの喜びっぷりは、尋常じゃ無かったな。
もう一度、食べさせてやりたかった。
「……よし、めぼしい店は幾つか見つけたな」
ある程度、繁華街区を回り終えたので、宿に戻る事にした。荷物やお金の整理もしたいしな。
家から持ってきた服は寝間着用にして、買ってきた魔術服を普段着にする事にしよう。
白いシャツの上に、安っぽい黒いコートを羽織り、下には同じく安っぽい黒いズボンを履く。
チープな外見ではあるが、魔術を使って作られているため、普通の服の何倍も頑丈に作られている筈だ。普通の服よりは若干の重量がある。試しに破ろうとしてみたが、魔力を使ってもまるで破れない。鎧に劣らない硬度を持っているというのは本当の様だ。
残念ながら«魔術刻印»付きの服は買う余裕がなかった。一個付いているだけで馬鹿みたいな値段がしやがる。
「取り敢えず必要な物は揃ったかな」
また何かが必要になったら適宜揃えていくとしよう。
部屋についている窓から、茜色の光が差し込んで来た。もう日が暮れ始めている。
時間に余裕があればもう少し外を回ってみようかと思ったが、やめた方がいいかもしれない。
夜の『荒くれ者の街』に俺みたいな子供が魔術服と剣を背負って歩いていたら、身ぐるみを剥がそうと襲ってくる奴がいそうだ。
「今日は剣を振れなかったな……」
ベッドに転がって染みのある天井を見上げながら、小さく呟いた。
ギルドにはトレーニングジムや訓練場があるから、時間が合ったら依頼を見るついでに行ってみようと思っていたが、今日は行っている時間が無かった。
二日間走り続けた疲れもまだ微妙に残っているし、今日は早い所夕食を食べて、シャワーを浴びて寝よう。
追加料金を払うことで、朝食と夕食を店主に作って貰う事が出来る。
朝食はパンとスープ、夕食はパンとスープと肉。日毎によってパンやスープの種類は変わってくる。
俺はモサモサしたパンを味の薄いスープでふやかして食べ、固い肉を噛みながら思った。
栄養が足りない、と。
明日、野菜や果物などを追加で買ってこよう。このメニューでは栄養のバランスが崩れる。
後、出来ればササミの様な高タンパクで低カロリーな物も仕入れておきたい。
筋肉を作るのにタンパク質は重要だからな。
考えれば考えるほど、夕食に追加したいメニューが出てくる。少しは我慢するべきだろうか。
いや、体が資本だ。成長期の今、食事を疎かにしては将来に差し支える。赤字が出ない程度に必要な食べ物を買っておこう。
夕食を食べ終え、シャワーを浴びて部屋に戻った。
寝間着に着替えて、ベッドに横たわる。
「……やっぱり珍しいんだな」
今日一日、出歩いて分かった。やはりこの世界では黒目黒髪は珍しい。今日、すれ違った人の中に黒髪は一人も居なかった。ピンク色とか緑色とか派手な髪の人は結構見かけたんだが。
通り過ぎる人はチラチラと俺の頭を見てくるのだ。中には露骨に嫌そうにする人もいた。
今生きている人は『魔神戦争』時代に居なかったんだから、直接魔神に迷惑を掛けられた事なんてないだろうに、何でそんなに黒目黒髪を嫌うんだろうな。
その後、今日使った金と残額をメモってから寝た。
―
翌日、俺は冒険者ギルドに来ていた。
内部の大きな掲示板には、依頼用紙がランクごとに分けて貼られている。
どんな依頼があるのかを物色しながら、俺が出来そうな依頼を吟味する。
今の俺が受けられる依頼はEランクとDランクの依頼だ。だが、昨日あのお婆さんが最初は荷物運びでもしろと言っていたし、今回はそういう依頼を受けておいた方が反感を買わなくていいかもしれない。……反感という意味ではもう遅いかもしれないが。
取り敢えず、Eランクの依頼を見た。
荷物運び、皿洗い、店番、呼び込み、ペット探し。
どれもこれも想像していた冒険者の仕事とは違う。これじゃあどちらかというと何でも屋さんじゃないか。
確かに冒険者は何でも屋さんとも言い換えられるけどさ。
中には魔物退治の仕事もあるにはあるが、どれも最下級であるEランク魔物に関する依頼しか無かった。それも指定してある個体数も非常に少ない。多くて三匹くらいだ。
Dランクの依頼を見てみると、こちらは冒険者っぽい依頼がそれなりにあった。
《豚鬼》の討伐。
《犬鬼》の牙の採取。
《小鬼》の耳の採取。
と言った、魔物関連の依頼が多い。
こっちの依頼を受けてみたい気持ちになったが、また受付嬢と揉めるのも嫌だしな。
「取り敢えず、最初はこれにしておくか」
ちょうど今さっき貼られたばかりの、Eランクの依頼を受ける事にした。
ギルド区にある武具店から、冒険者の訓練用に新しい鎧や剣などを大量に仕入れたので、それを冒険者ギルドの訓練施設にまで運んで欲しいという依頼だ。これは冒険者ギルドが出している依頼で、他の依頼よりも僅かだが報酬金額が高い。
さっそくこれを掲示板から剥がして、受付に持っていった。
「んー、荷物運びの依頼かぁ。鎧とか剣とかを持ってこないといけないけど、君大丈夫? 結構重いよ?」
昨日と同じ受付嬢に依頼の受注をお願いしに言った所、案の定渋られた。
「皿洗いとか店番の方がいいんじゃない?」という彼女の提案を断って、やや強引に依頼を受注した。
彼女は困った子供を見るような顔で「わかったけど、ちゃんと荷物が運べなかったら最初に払ったお金は返ってこないからね?」と念を押された。
依頼の受注をギルドカードに記して貰い、早速その店へ向かった。
ギルドから三十分程離れたところにある、それなりに大きな武具屋だ。この都市で最も大きい『バドルフ武具店』には及ばないものの、店は大きくて鎧や剣の種類も多い。
カウンターに立っていた三十代後半くらいのおっさんに荷物運びの依頼を受けたとギルドカードを見せた。
「あぁ!? おめぇが荷物運びだーあ!? そんな小さな体でどうやって剣や鎧を持ってくってんだよ! 三日以内に持ってってくれれば良いとは言ったが、おめぇに任せたら一月経っても運び終わらねえよ! しかもなんだその髪、気味が悪いったらありゃしねぇ!」
ギルドカードを見たおっさんは、額に青筋を浮かべてそう怒鳴った。
運んでいかなければならない荷物はそれなりに大きな木箱に詰められていた。木箱の数は十を越える。
まあ確かに、八歳のガキにこんな荷物運びは無理だと、普通は考えるだろうな。
「あ、こら、おめぇ!」
おっかない顔をして睨み付けてくるおっさんを無視し、俺は置いてあった木箱の一つに近付いた。両手で持ち上げようと力を入れるが、なるほど、流石に持ち上がらない。剣で鍛えていると言っても、八歳の体では武器が入ったこの木箱を持ち上げるのは無理だろう。
「ほぅら、言わんこっちゃねぇ!」
そういうおっさんを一瞥した後、今度は«魔力武装»しながら両手に力を込める。今度はすんなりと持ち上がった。さっきとは違ってかなり軽く感じる。
「ぼ、坊主! おめぇ、魔術が使えんのか!?」
余裕が合ったので、木箱の上にもう一つ木箱を重ねて持ち上げた。まだ重量的には余裕があるが、俺の手の大きさでは木箱二つが限界だ。
「«魔力武装»が使えるので、このくらいの荷物なら余裕ですよ」
「おぉーう。すげぇなあ。俺が魔術を使えるようになったのは二十近くの頃だったからなぁ。しかも全然才能がなくてなぁ。……まあそういう事なら任せるぜ。あれこれ言ってすまなかったな」
俺が荷物を運べる事に安心したのか、おっさんは何も言わなくなった。
木箱を手に持ったまま、店から出て冒険者ギルドに向かって走り始める。荷物を持っているのと、人が多くいるのとで想像よりギルドまで時間が掛かる。まあこれも修行になるだろう。
通り過ぎる人達は木箱を手に、トコトコ走って行く俺を見て目を剥いていたな。
冒険者ギルドのすぐ隣にある訓練施設の中に入り、指定された部屋に木箱を置く。ギルドの職員が自分の姿が隠れる程の大きさの木箱を運んでくる俺を見て「ファッ!?」と驚きの声を漏らしていた。
木箱を置いたらすぐに武具店へ戻り、また木箱を二つ抱えてギルドへ戻る。
人にぶつからないように注意を払いながら、出来る限り早く走る。回避能力を上げるいい修行になりそうだ。
それから三時間程して、俺は全ての荷物を運び終えた。
「まさかたった一人であの荷物を運んじまうとはなぁ。しかもこんなガキが一日でと来た」
運び終えてすっかり何もなくなった部屋を見て、おっさんは呆然とした様に呟いた。
おっさんや他の人の反応を見る限り、俺の年齢で魔術を使いこなすのは、やはりおどろかれるんだな。貴族の子供など、しっかりとした教育を受けられる者なら魔術が使えてもおかしくはないが、普通の子供は早くて大体十三から十六ぐらいの間から、魔術を使いはじめる。遅ければさっきのおっさんのように二十近くなることもあるし、才能がなかったり、師に恵まれなかったりすると一生魔術が使えない事もありえる。
そう考えると、やはりテレスには本当に才能があったんだな。二属性の魔術を使えてたし。
……あいつ、今頃どこで何をしてるんだろう。
「お疲れさん。疑って悪かったな。ほれ、報酬だ。最初に騒いじまったから、少しだがおまけしておいた」
テレスの事を思い出していると、おっさんが報酬を手渡してきた。銅貨九十枚だ。報酬金は銅貨七十枚となっていたので、銅貨二十枚を足してくれたことになる。
この世界の金は大まかに別けると、青銅貨、銅貨、銀貨、金貨となる。単位はリード。
時勢によって金の価値は変わるが、簡単に言うと、青銅貨十枚で銅貨一枚、銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚といった感じになる。
青銅貨一枚で一リード、銅貨一枚で十リード……と言った数え方だな。
まだ細かいお金とかがあるのだが、面倒なのでそこは省く。商売をやる訳ではないので、帳簿を付けられるレベルで知っておけば大丈夫だろう。
「どうもです」
銅貨を受け取り、財布代わりの袋の中へ仕舞う。
この報酬額は、Eランクの依頼の中ではかなり高い部類に入る。他の依頼では報酬金は大体銅貨五十枚くらいだった。低ければ銅貨二十枚の依頼もある。
「先は長いなあ」
セシルから受け取ったのは、金貨八枚と銀貨八十枚。かなりの大金だ。
一つの場所に固めておくのは危険なので、幾つかに分けて厳重に保存してある。
しかし、これだけの大金があっても、学園への入学金へは届かない。必要なのは金貨十五枚だ。それ以外にも制服だとか教材なんかを合わせると、金貨十六枚は集めておきたい。
驚いたことに、入学金はこの金額でも昔と比べるとかなり安くなっているらしい。
《四英雄》の一人が作ったと言われるこの学園は、魔物や迷宮に対向するための優秀な冒険者や魔術師、騎士などの育成機関だ。だから高かった入学金や学費はかなり国が負担しているらしい。
それでも必要な金貨が十六枚っていうのは多すぎるけどな。平民じゃ入るのはキツイだろう。
報酬金を受け取った後、ギルドカードに依頼達成の印を押してもらい、俺は冒険者ギルドに戻った。
―
俺が依頼を終えたと知った時の受付嬢の顔は見ものだった。
誰かに手伝ってもらったのかと聞かれたが、一人でも余裕でしたよと返して最初に払った金を返してもらう。
それから俺は似たような運びの依頼を受注した後、ギルドの中にある売店でサンドイッチを食べ、少し休憩してから依頼に向かった。
今度は繁華街区での仕事だ。果物や野菜などの商品を仕入先から店まで運ぶ仕事だった。箱にギッシリ詰まった果物と野菜を見せられ、「坊主には無理だろ、帰んな」と言われたが«魔力武装»で持ち上げて黙らせて、せっせと運んだ。途中でゴロツキっぽいのに「面白い髪だな。お、いいもんもってんじゃねえか」と絡まれたが、即効で走って逃げた。
大体二時間位で全て運び終え、報酬金を貰った。銅貨六十枚だ。
ギルドに戻って依頼の達成を伝えた頃には夕方になっていた。今日はこれくらいにしておくか。
それから俺は宿には戻らず、冒険者ギルドの隣にある訓練施設へ行った。
ギルドに登録していれば、無料で利用する事が出来る。
内部にはダンベルやバーベルなどが揃えてあるトレーニングルーム、武器や防具を借りて素振りや模擬戦などが行える訓練場、そして負傷した冒険者に応急処置を行う医務室などが存在していた。
最初の依頼で武器を運び込んだのが見られていたのか、ギルドの職員からは変な視線を向けられているのを感じる。それを無視して受付でギルドカードを提出し、俺は施設の中に入った。
まず最初に見たのはトレーニングルームだ。
ダンベルやバーベルを持ち上げている人や、マットの敷かれた床で腹筋や腕立て伏せをしている人がいる。その殆どが男だが、中には数名女性も混ざっていた。
皆、日本人と比べるとかなりガタイがいい。運動量と食文化が違うからだろうか。
流石にトレーニングマシーンや、ランニングマシーンといった近代的な器具はなかった。
「筋トレはまだいいかな」
俺の年齢で筋トレを始めるのは成長を阻害する恐れがある。正しいトレーナーなんかの指示の元でやれば大丈夫なんだろうが、見る限りここにはトレーナーはいなさそうだ。もう少し体が成長してから来るとしよう。
それから俺は訓練場に向かった。
訓練場はそれなりの広さがあり、結構な人数が修行を行っている。
訓練場をグルリと囲むように設置されているのは、かなり頑丈に作られた壁だ。魔術がぶつかっても外に飛び出ないように設置されている。
素振りをしている人、魔術を使用している人、木刀で模擬戦を行っている人、色々な人が修行を行っている。それらの人の動きをジッと観察していると、中に«魔力武装»を使って仲間と模擬戦をしている男を見つけた。魔術を使わず、ただ«魔力武装»と剣だけで戦っている。面白い«魔力武装»の使い方をしているのを見て、俺はほくそ笑んだ。
ここはいい場所だ。他の人の技術を盗み見れるからな。
しばらくの間、素振りをしながら男達の模擬戦の様子を観察し、外が暗くなる前に訓練施設を後にした。
宿へ戻る途中で、『フェフィの実』と『タルトンの実』という元の世界に無かった果物を見つけたので、今日の夕食用に買っておいた。
『フェフィの実』は水分の多いぶどうと桃の中間の様な味で、『タルトンの実』はアボカドみたいな味がした。知らない果物を食べるのは新鮮で面白い。
「だけど、どういう栄養素があるか分からないな」
前世の様に栄養素が表示されている訳ではないからな。思いもよらない栄養が含まれているかもしれない。まあ林檎とか知ってる果物でも、成分がまるで違うなんて事もあり得るかもしれないが。
取り敢えず、明日からは含まれている栄養素が分かる範囲で、ちゃんと考えてメニューを足そう。
風呂に入ってから、ベッドによこたわり、俺はそんな事を考えた。
荷物の整理やお金の計算など、やることは無くなった俺は早々に眠る事にした。
「……」
大人用のサイズだからか、ベッドがやけに広く感じる。隣に空き空間がある事に違和感を覚えてしまう。
いつも、当たり前の様にそこに居た誰かが、いないから。
……寝よう。
「おやすみ、」