第十七話 『残る傷跡』
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「……酷い有様だね」
隣で歩いているシスイが足を止め、街の光景を見て険しい顔で呟いた。
聖剣祭の見せ場であるトーナメントが開催された闘技場の、あちこちが崩壊していた。
龍種のブレスが中から放たれたのか、大きな穴がいくつも開いているのが見える。
瓦礫が積み重なり、山のようになっていた。
それが、王都のあちこちで起こっている。
建物は崩れ、地面は裏返り、数日前とは見違えるような惨状だ。
「犠牲者も、少なくないようだ。特に、人々を避難させていた騎士達が、多く亡くなっていると聞いているよ」
「……そうみたいですね。王城で聖剣を守っていた人達も……やられてしまったそうですし」
龍種の襲撃後、聖剣はすぐさま王城へと運び込まれた。
一番隊の騎士が聖剣を監視していたそうだが、いつの間にか忍び込んだ使徒によって、皆殺しにされてしまったらしい。
異常を察して駆けつけた騎士が、血溜まりに倒れている仲間と、粉々に砕け散った聖剣を発見したという話だ。
「……それでも、君達が無事でいてくれて、良かったよ」
俺の肩にポンと手を乗せ、安堵するようにシスイは言った。
「遅れて来て、君達に何か起きていたら……悔やんでも悔やみきれなかっただろうからね」
聞いたところによると、シスイは王都に向かう途中、龍種が複数発生している村に通りかかったらしい。
放っておけずに討伐に向かうと、龍種以外にも大量の魔物が発生していたようだ。
それらをすべて対処している内に、到着が大幅に遅れてしまったということだった。
シスイが通りかかったタイミングでの、魔物の大量発生。
どこか、作為的なものを感じるな。
もしかしたら、邪魔になるシスイを足止めするために、使徒が仕組んだのかもしれない。
「もし誰か死んでいたら、怒りのあまり大暴れしてしまっていたかもしれないね」
「……はは」
笑い事じゃない。
あの場で、シスイは俺達を庇いながら戦ってくれていた。
それがなくなったら、一体どうなっていたのだろう。
少なくとも、王都は今以上に酷いことになっていただろうな……。
結局、シスイが倒したスペクルムとドロテアは、いつの間にか姿を消していた。
死体も確認されていないのを見ると、恐らく逃げたのだろう。
胸の奥に、嫌なもやもやだけが残っている。
「――まあ、メイを甚振ったドロテアという使徒は、絶対に許さないがね」
凍えるように冷たい、そんなシスイの呟きが聞こえた気がした。
あれから二日が経過した。
使徒の襲撃による傷跡は未だ王都に色濃く残っており、少しずつ修復作業が行われている。
あの後、俺達はすぐに王城へ向かった。
城の中には大勢の治癒魔術師が揃っており、全員が治療を受けた。
テレスの処置のお陰で、エレナとエステラの命に別状はなく、二人とも無事だ。
しばらくの間、入院していれば元通りになるらしい。
気絶させられていた騎士も城へ運び込まれ、全員が問題なく目を覚ましたと聞いている。
俺も治療を受けたが、特に後遺症が残ったりということはなかった。
完全に魔力が枯渇していたため、丸一日眠っていたらしいがな。
ヤシロとテレス、キョウもすぐに傷が塞がり、元通りになったようだ。
ドロテアの攻撃で重症を負ったメイは、少しの間、入院が必要となるらしいが。
それも数日だけで、体には何の影響もないと、治癒魔術師が説明していた。
現在、重症の者を除き、怪我人の多くは王都内の治療施設に移動している。
エステラやメイも、今は学園の近くの病院だ。
俺とシスイは、メイの様子を見に病院に向かっていた。
「ヤシロちゃんはどうしたんだい?」
「少し遅れて、病院に来るそうです。友達と話したいことがあるみたいで」
闘技場で人狼種である……ということが知れ渡ってから、まだ数日しか経っていないからな。
色々と、積もる話もあるのだろう。
良いことだ。
「そういえば、言うのが遅れていたよ。ウルグ君、トーナメント優勝おめでとう。君の師匠として鼻が高いよ」
「はい……! ありがとうございます」
「アルデバランの息子……レグルス君にも勝ったそうだね。君達の戦いを見ておきたかったなあ……」
レグルスの名前を思い出し、少し微妙な気分になる。
あれから、レグルスは塞ぎ込んでしまったと聞いている。
使徒の襲撃中も、王城で縮こまっていたそうだ。
……あれで、折れてしまわないと良いのだが。
「背も伸びて、体も随分と男らしくなった。男前になったね。うんうん」
俺の肩を揉みながら、しみじみとシスイが呟く。
少し照れくさい。
揉むのはやめて欲しいんだが……。
「それに、良い目をするようになったね」
「……そうですか?」
「ああ。迷宮都市にいた頃は、ずっと苦しそうな目をしていた。今は、違う」
……苦しそうな目、か。
「師匠として、君が苦しみから開放されたことを嬉しく思うよ」
シスイは、嬉しそうにそう言った。
しばらくして、病院に到着した。
―
「あ、シスイ様とお兄さん。来てくれたんですね」
病室に入るなり、ベッドの上のメイが嬉しそうに顔を綻ばせた。
パッと見たところ、もう傷は残っていない。
体への負担が大きかったため、今は大事を取って入院しているだけらしいからな。
すぐに良くなるだろう。
「!」
メイのベッドの傍らで、椅子に座ったキョウが眠っていた。
寮に帰ってすぐに病院に行ったきり、ずっとここでメイを見ていたのか。
「しー」
指を口元に当てるメイに、シスイと二人で頷いた。
「もう傷は大丈夫かい? 痛いところはないかい? 変なところがあったら、すぐに言うんだよ?」
メイの手を取って、シスイが何度も念を押すように慮っている。
「何かあってからでは遅いからね。大丈夫だと思っても、しばらくは無茶をしないように」
「もう、大丈夫ですよぉ。シスイ様心配しすぎです」
「む……」
「でも、心配してくれてありがとうございます」
二人の様子を見ると、本当の親子のようだ。
見ていて微笑ましい。
「…………」
眠ったままの、キョウに視線を向ける。
寮に帰ってくる途中の様子を思い出す。
――私のせいで、姉さんがあんな傷を負って……治らなかったら、どうしよう……っ。
ドロテアとの戦いで、メイはキョウを庇って負傷した。
そのことを、キョウは気にしているようだった。
迷宮都市で『強くなりたい』と悩んでいたこととい、キョウは本当に俺に似ている。
そのことをシスイに話すと『私が話してみる』と言っていたから、ここはシスイに任せておこう。
それから、メイと少し話し、病室を出た。
まだ、何人か知り合いが入院しているからな。
皆、命に別状はなく、後遺症もないという話だから、大丈夫だとは思うが。
それから、メイの隣の病室へ入った。
「な……お師匠様ッ!! 今なんて言った!?」
「馬鹿デブって言ったんだよ。あんなヒョロい騎士に不意を突かれやがって」
「あ、アタシだって、正面から戦ったらあんな野郎には負けねえよ!」
「倒せるのは当たり前だろうが。お前、あの騎士を殺ったの誰か知ってるか? ウルグがやったんだぞ、ウルグが」
「ぐぬぬ……」
部屋へ入るなり、ジークとエレナがそんなやり取りをしていた。
エレナが寝ているベッドに腰掛け、彼女の脇腹を指で突きながらの会話だ。
すごい入り辛い。
「よぉ、ウルグ」
最初から気付いていたのか、何食わぬ顔でジークが声を掛けてきた。
エレナが、気まずそうな顔をしている。
「……どうも。お二人とも、もう傷は大丈夫なんですか?」
「当たり前だ。このデブはまだサボってるけどな」
「サボってない! アタシよりもズタボロになってたのに、もう動けるお師匠様がおかしいんだよ!!」
「つまんねぇこと言ってんじゃねえ。鍛え方が足りねえからそうなるんだよ」
『癒やしの使徒』……ミリアと戦ったジークは、彼女に勝利したものの、かなりの重症だったらしい。
そんな体のまま、自力で病院にやってきたそうだ。
途中で、何体かの龍種を狩ってきたとも聞いている。
治療を受けて一日寝て、退院したというのだから、エレナの主張は最もだ。
化物か。
「……ウルグの傷はもう大丈夫なのか?」
「はい。もういつも通りに動けます」
「……そうか。すまないな。アタシが不甲斐ないばかりに、世話を掛けた」
「いや、そんなことは……」
「そうだ。反省しろ馬鹿」
「お師匠様には言ってないだろうがッ!!」
前から思ってたけど、この二人、めちゃくちゃ仲良いな……。
「あのヒョロ騎士を倒したんだってな」
「はい」
「おもしれえ。負けてたらぶっ殺してたとこだぜ」
そんな風に笑って、
「――良くやった」
ジークが、ワシャワシャと乱暴に頭を撫でてきた。
「――――」
珍しく、ジークに褒められた。
……嬉しかった。
何と言って良いか分からなくなり、取り敢えず感謝の言葉を口にしようとした時だった。
「――すまないが、少し静かにしてくれないか。こちらの病室にまで声が響いて――」
ガラリと扉を開けて、シスイが中に入ってきた。
「――――」
「――――」
その瞬間、ジークとシスイの視線が交差した。
両者が、ピタリと動きを止める。
ピキリと空気が凍ったような気がした。
「……うわ、マジかぁ」
エレナが頭に手をやり、諦めたようにそう呟いた瞬間。
凄まじい殺気が、部屋の中でぶつかりあった。
「よぉお。久しぶりじゃねえか、シスイ。随分と遅れて王都に来たらしいなぁ? てっきりどこかでおっ死んでるもんかと思ったぜ」
「……ジーク、君こそ久しいな。使徒にズタボロに負けたと聞いて、てっきり死んだものかと思っていたよ。生きていてガッカリだけどねぇ」
「あぁ? 負けてねえよ。オレが勝ったんだよ」
「それは失礼。負けたとしか思えないほど、惨めな格好をしていたと聞いたものだから、つい勘違いしてしまったよ」
「はっ、お前みたいな雑魚じゃ、あの女には勝てねえよ。そういうお前こそ、遅れてやってきた癖に使徒を全員逃したらしいじゃねえか。情けねえなぁ、オレがいたら、今頃使徒は全滅していたろうに」
互いににらみ合い、ペラペラと早口でまくし立て合う。
異常な光景に、俺とエレナはただ固まってそれを見ていることしか出来なかった。
「ははは、君如きでは反撃されて今頃死んでいたと思うけどね」
「ふは、お前風情がやりあえる相手に、このオレが負けるわけないだろうが」
「ははははは。殺されたいのかい」
「ふはははは。やってみろよ馬鹿女」
お互いに目が笑ってねえ……。
……何だ、これ。
シスイもジークも、こんなキャラだったか……?
「……お師匠様もシスイ様も、昔から馬が合わなくて、会う度にこうなんだよ」
「そうなんですか……」
そういえば、迷宮都市でシスイが何度か斬りあったとか言ってたな……。
ここまで仲が悪いとは思わなかった。
「そういえばジーク、ウルグ君に剣を教えているそうだね。私の弟子には、あまり野蛮なことは言わないようにしてもらいたいね」
「ああ、お前も何年か前にウルグに剣を教えていたそうじゃねえか。オレの弟子が世話になったなあ」
「何を言ってるんだい? 私のウルグ君だ」
「はぁ? オレのウルグに決まってんだろうが。師匠面してんじゃねえよ」
グルン、と二人が俺の方を向く。
「なぁ、ウルグ君。私はウルグ君の師匠だよね?」
「おい、ウルグ。お前の師匠は誰か、この馬鹿にしっかり言ってやれ」
「え……ええと……」
「もちろん、私だよね?」
「ウルグ、分かってるだろうな?」
あかん、これどっちを選んでもヤバイ奴だ。
「お二人とも……俺の大事な……師匠です」
苦し紛れに、そう答えた。
「…………」
「…………」
しばらくの沈黙の後、
「あぁ!? 無難なこと言ってんじゃねえよ! つまんねえだろうが!!」
「君の判断基準でウルグ君を攻めるな! 何もつまらなくないだろう!!」
「耳元で叫ぶんじぇねえ! うるせえんだよシズク!!」
「私はシスイだ! 二度とその名前で呼ぶんじゃない」
「シズクシズクシズクシズクシズク」
何だろう。
巻き込まれない安全なところからなら、ずっと見ていたいという気がしないでもない。
「は、そういえば、お前のところの双子。殺されそうになっていたことをオレが庇ってやったんだ、感謝しろ」
「はっ、君に庇われるなんて、あの二人も随分と不幸だねありがとう!!」
「聞こえねえなあ!!」
この二人、実はめちゃくちゃ仲が良いんじゃないだろうか。
「ウルグ。しばらくはずっとこんな調子だろうから、他所へ行った方が良い。また巻き込まれるかもしれないからな」
「……はい。エレナ先生、お大事に」
「ああ。ありがとう」
酷く疲れた表情のエレナに後ろ髪を引かれながら、病室を後にする。
外に出ても、二人の言い合う声が聞こえてくる。
これ、絶対メイの部屋にも届いてるだろうなあ……。
「……まあ、元気そうで良かった」
ミリアとの戦いで、ジークはもう少しで命に関わる、というレベルの重症を負っていたと聞いている。
あの様子ならば、大丈夫だろう。
「…………ミリアさん」
ジークをボロボロにしたということは、相当に強かったのだろう。
使徒達の会話からも、ミリアが《剣聖》に届きうるほどの実力を持っていたことが窺える。
結局、どうして俺を庇ってくれたのか、聞くことが出来なかった。
死体が見つかっていないという話だが、ジークが本気を出せば、恐らく跡形も残らないだろう。
最後に、少しでいいから話をしたかった。
ともあれ。
メイもエレナもジークも元気そうだ。
この調子ならば、エステラも大丈夫だろう。
エステラが斬られた時、一瞬だが頭が真っ白になった。
呼吸が出来なくなり、心臓の鼓動が速くなった。
助けられて、本当に良かった。
エステラの病室へ向かう。
「…………」
何故だろうか。
「……………」
心臓の鼓動が速い。
エステラは大丈夫なはずだ。
命に別状はなくて、念のために入院した。
それだけの、はずだ。
「…………」
そう自分に言い聞かせ、扉をノックする。
声があり、俺は中に入った。
―
中に入って。
エステラの話を聞いて。
「――――え?」
言葉を失った。
言葉が、出てこなかった。
エステラの言葉が、頭に入ってこない。
「……魔術が、使えなくなってしまったんです」
目を腫らしたエステラが、もう一度繰り返した。
体内の魔力を、操れなくなった。
結果、エステラは、以前のように魔術を使えなくなってしまった。
治癒魔術師にも原因は分からず、様子を見ることしか出来ない。
治る見込みは、ない。
「……はは。困っちゃい、ますよね。急に……使えなくなる、なんて」
上擦った声で笑うエステラが、痛々しかった。
「祭りが終わったら、一から鍛えなおそう! なんて……お、思っていたんですけど」
「……エステラ」
「あ、すいません。わ、わざわざ来ていただいたのに、ウルグ殿に変な話をして」
「エステラ……!」
思わず、大きな声を出してしまっていた。
これ以上、見ていられなかった。
エステラに近付いて、何となく分かった。
彼女の中に、黒い穴が開いている。
まるでそこだけ欠けたかのように、ポッカリと空洞があるような、そんな感覚。
見えないけど、分かった。
これは、スペクルムのせいで起きたことなのだと。
「……すまない」
「謝らないでください。私は、後悔していませんから! ウルグ殿を、た、助けられて……うれ……し、い」
エステラの瞳から、ポロポロと涙が零れ落ちる。
まるで、堰を切ったように。
「エステラ……」
「結局、私には何も残りませんでした。唯一の、取り柄……すらも……ッ」
「…………!」
「ぁ…ぁああ……ぁああ」
涙を流しながら、エステラが嗚咽を漏らす。
気付けば、エステラの手を掴んでいた。
冷たくて、震えるエステラの手を。
「絶対に……」
「ウルグ……殿」
「絶対に、俺がエステラの魔術を取り戻してみせる」
エステラの中にある、黒い穴。
スペクルムを倒して、エステラが奪われたものを取り戻してみせる。
「絶対に、絶対にだ……!」
エステラは、俺達を助けるために王城から出てきてくれた。
実際に、俺はエステラに助けられた。
なら、今度は俺が助ける番だ。
「だから、待っていてくれ」
エステラが、俺の手を引き寄せ、自分の頬に当てた。
ひんやりとした頬の感触が伝わってくる。
「……はい」
潤んだ目で俺を見上げ、エステラが頷いた。
「ずっと、待っています」
だから、とエステラは笑った。
「それまで、体を鍛えてますね。魔術師の弱点を克服しちゃいますから……!」
「……ああ」
別れ際、エステラは言った。
「……その時が来たら、ウルグ殿に伝えたいことがあるんです。聞いてくれますか……?」
「絶対に、聞きに行くよ」
そう言って、俺は扉を出た。
すすり泣く声に、聞こえないふりをして。
―
「探したぞ」
「……テレス」
外の空気を吸いたくなり、病院の屋上で王都の風景を見下ろしていると、テレスがやってきた。
隣に並んだテレスと、二人で王都の風景を見下ろす。
「……あの使徒達が言っていたことを、覚えているか?」
テレスの問いに、頷く。
「……あいつらは、姉様を知っていた。何か、関わりがあったんだと思う」
「ウルグの力も、そこに何か関係があるかもしれないな」
【終焉に抗う刃】。
俺の中にある、得体の知らない力の名だ。
体から黒い魔力を放出し、触れた魔術を消滅させる力。
その効果は、使徒の使う謎の魔術も例外ではない。
「……怖かったんだ。姉様について、知るのが」
「ウルグ……」
薄々、分かっていた。
自分の中にある力に、セシルが関係しているのだと。
危険が近づいた時に、決まって額がズキンと痛んだ。
……額は、セシルが最期に口付けをした場所だ。
怖かった。
この得体の知れない力の正体が。
先ほどの病室でのエステラの言葉を、俺は既に聞いている。
ユースティティアを見た瞬間に起こった、あの不可思議な現象で。
この予知は、以前にも同じ経験がある。
「だけど、これ以上逃げてはいられない。姉様の昔を知っている人がいるんだ。だから、その人に聞いてくるよ」
「そうか」
「……テレスも、一緒に来てくれないか?」
すまない、とテレスが首を振った。
「使徒の襲撃で浮ついたせいか、父が体調を崩してしまったんだ。父が出向くはずだった用事に、私が行くことになりそうなんだ」
「……そうか」
「すまない。ウルグの力になってやりたいんだが……」
「十分、テレスは俺の力になってくれてるよ。
「ウルグ……」
しばらく、テレスと見つめ合っていると、
「ストップです!!」
いつの間にか屋上にやってきていたヤシロが、俺達の間に割り込んできた。
「テレスさん、ウルグ様に何をするつもりだったんですか」
「べ、別に何もしようとはしていないぞ」
「…………油断も隙もないですね」
テレスにジト目を向けていたヤシロが、俺の方を向いた。
「私がお供します。私は、ウルグ様の影ですから」
「……ああ。頼むよ、ヤシロ」
「はい!」
使徒の襲撃によって、学園は暫くの間、休みとなる。
その間に、迷宮都市へ行こう。
セシルの話を聞くために。
バドルフの元へ、向かうのだ。
―
あの時だ。
体を斬られたユースティティアが炎になる瞬間、彼女は俺を見た。
そして、小さな口でこう呟いたのだ。
『――彼女が選んだのは、貴方かもしれませんね』
その意味は分からない。
だが、あの女を見て、俺は分かった。
何故か、理解出来てしまった。
「――俺が、お前を■す」
――セシルを殺したのは、あの女なのだろう、と。