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嫌われ剣士の異世界転生記  作者: 夜之兎/羽咲うさぎ
第六章 混色の聖剣祭(上)
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虚章 『■■の先へ』

本編とは特に関係なくもないですが、IFの世界です。

 青白い月が空に登る頃。

 街から遠く離れた森の中を、一人の女性が舞っていた。

 物語に出てきてもおかしくないような、美しい女性だ。


 しかし、その青い髪は乱れ、全身の至る所から出血していた。

 

『オォォォォ!』


 その後を追うのは無数の魔物だ。

 低ランクの有象無象から、Aランクの龍種まで、目を血走らせて彼女の後を追う。

 

 逃走しながら、木々の少ない開けた場所へ到達した瞬間。

 女性はクルリと反転し、後を追ってくる魔物へ向けて腕を振る。


「――――」


 放たれたのは風の刃。

 直後、追跡してきていた魔物達が連続して肉塊へ変わっていた。

 強靭な肉体を持つ龍種ですら、首を落とされて地に沈んでいる。


 追手が全て死に絶えたと、女性が手を降ろそうした瞬間だった。


 木々の隙間から女性を照らしていた月光が陰った。

 

「――――ッ」


 違うと即座に判断し、女性が横へ飛び退くと同時。

 白い物体が、女性がそれまで立っていた所へ降って来た。


「また……随分な大物に目を付けられたわね」


 黒みを帯びた白い表皮を持つ、龍種と肩を並べられる程の巨体。

 切れ目のような真っ赤な双眸に、人の頭を丸ごと咥えられそうな妙に歯並びの良い口。

 樹の枝のように長い四本の指を持ち、手の甲からは人の胴程もあるブレードが突き出している。


「《アルマトゥーラ・クニークルス》、だったかしら」


 《鎧兎》とも呼ばれる、災害指定個体。


『ゲッゲッゲッゲッ』


 気付けば、女性は取り囲まれていた。

 嗤う兎の周囲から、追加で魔物が姿を現す。

 災害指定個体に加え、その魔物の数は五十に届く。


 流石に、相手しきれない。

 だが、囲まれてしまってはもう手遅れだ。

 《鎧兎》一匹ならばやりようはあったが、Aランクの魔物がこれだけいてはどうしようもない。


「まず……っ!」


 全ての魔物が、一斉に襲い掛かってくる。

 相手しようと身構えるが、避けることもままならない。

 万事休す。


「……っ」


 女性が目を瞑った瞬間だった。


 歪な笑みを浮かべ、ブレードを振り下ろす《鎧兎》の真横から一筋に黒い閃光が走る。


「――――」


 閃光の直線上にいた全ての魔物が、両断されて地面に沈む。

 右腕ごとブレードを斬り落とされた《鎧兎》が苦悶の叫びを上げた。


「誰に手を出してんだ、てめぇら」


 長く伸びた黒髪を靡かせ、漆黒のバスタードソードを構えた男。

 斬り付けるような鋭い目付きで魔物を見据え、暴風のように突っ込んでくる。


 密集していた魔物を蹂躙し、その男は一足で女性の元へと辿り着く。


「あ、その、えと」

「うるさい」


 女性の言葉を切り捨て、そして男はその体を担ぎ上げる。


「ひゃ、なにを」

「逃げるぞ」


『ゲオオオオオォォ!!』


 逃がすかと、《鎧兎》が吼えると同時。

 鎧に覆われていない双眸に向け、的確に二本のナイフが投擲される。

 反射的に《鎧兎》がそれを弾く、その一瞬。


 その場から、二人の姿は消えていた。




「それで、言い訳は?」

「ありません……」


 数刻後、森から離れた所に二人の姿はあった。


「前に言いましたよね。一人で戦わず、俺も連れて行って欲しいって」

「……うん」

「どうして黙って戦いに行ったんですか?」

「それは、その……ウルグを危険に晒したくなく、あいたっ」


 女性の頭を小突き、男が不機嫌そうに言う。


「それでもし、姉様の身に危険があったらどうするつもりなんですか」

「それは、――――ぁ」


 不意に女性の体が、男にに抱き締められる。

 

「やめてくださいよ、本当に」

「……ウルグ」


 震え声の男の言葉を聞き、女性は俯く。


「分かったわ……。次からは、一人じゃ戦わない」

「はい。絶対ですよ」


 女性は頷き、少年の体へ手を伸ばす。

 二人は抱き合い、至近距離で見つめ合った。

 やがて、二人の距離は縮まって――――



「――という、夢を見たのよ!」


 と、唐突にセシルが言い出した。


「あぁ、ウルグ格好良かったわ……!」

「なに自分で美しい女性とか言っちゃってるんですか」


 冷静な突っ込みは聞こえていないようで、セシルはさっきからずっと俺の体を抱きしめている。


「というか、Aランクの魔物が数十匹ってどういう状況ですか。いや、姉様ならある程度相手に出来るでしょうけど……」

「うーん、分かんない! でもウルグが格好良かったからそれでいいわ!」


 駄目だこりゃ。

 日に日に、セシルが馬鹿になっていく。

 弟馬鹿に。


「はぁ……もう」


 抱きついてくるセシルを引きずって、直食の準備に向かう。

 朝っぱらから元気過ぎる。

 だがもう、こんなセシルの態度は慣れたので、抱きつかれままでも準備出来るようになってしまった。

 どうかと思う。


 しかし、大量の魔物に追われる夢か。

 前世の夢占いだと、何かに追いつめられてる時とかに見るんじゃなかったか。

 そんなことを、頭の片隅で考えていた時だった。


「――■■の先へ歩む勇気を、か」


 不意に後ろで、セシルが何かを言った。

 くぐもっていて、よく聞き取れなかった。


「……? どうしたんですか、姉様」

「うーうん。なんでもない。ねえ、ウルグ」

「?」

「もし夢みたいなことになった時、ウルグは私を助けてくれる?」


 ……何を言ってるんだ、この姉は。


「当たり前でしょう? そんなことより、もうすぐご飯できるので準備してください」

「……はぁい」


 やけに素直に離れたセシルにチラリと視線を向けると、ニヘラぁと笑みを浮かべてきた。

 ああ、これは当分帰ってこないな、何て考えながら、食器にご飯を並べる。


 でも、まあ。


 こんな生活も、悪くない。


 

突発的に、ウルグとセシルの絡みを書きたくなって投稿。


七章は、もう少しお待ち下さい。

待っている間は、再臨勇者の復讐譚をよんで、どうぞ……!

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