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嫌われ剣士の異世界転生記  作者: 夜之兎/羽咲うさぎ
第六章 混色の聖剣祭(上)
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第十七話 『準決勝』


 ――試合は、ヴォルフガングの勝利に終わった。


その後、ヴォルフガングに続いてヤシロも試合場から出て行った。

 残されるのは観客席からのざわめき。

 ヤシロという少女が、二人目の人狼種だったことへの驚きを、口々に話している。


 モニターで試合の様子を目にし、俺は観客席までやってきた。

 そこで見た。

 ヤシロのために、立ち上がってくれた少女たちの姿を。

 

「……俺が出てくるまでもなかったな」


 世の中には、外見だけで判断して、差別する人間は多くいる。

 けど、そうじゃない人だっているんだ。

 あのミーナという少女たちは、ヤシロにとってそうだったのだろう。


「ありがとう」


 彼女達には後で礼を言いに行かないとな。

 

 観客室から中へ戻り、治療魔術師の所へ行くヤシロと少しだけ話をした。

 体力はかなり消耗しているみたいだったが、それ以外は大丈夫そうだ。

 負けてしまいました……と耳を萎れさせていた。


 大丈夫そうで、安心した。

 

 それからヤシロと別れ、待ち合い室へ戻る。

 準決勝がすぐに始まるから、準備をしておかないといけないからな。

 メインの聖剣の儀式に遅れないようにか、割りと時間設定がキツキツだな。  準決勝の後は、少し休憩時間があるみたいだが。



 俺の対戦相手は、ヴォルフガング・ロボバレット。

 レグルスはここまで勝ち上がってきた冒険者の少年と戦うようだ。

 

 どちらにせよ、戦いは後二回。

 いや……《剣聖》との戦いも含めて、あと三回だ。

 

 ヤシロの仇を打つ意味でも……ヴォルフガングには勝つ。


 それから、ヴォルフガングが治療から戻ってきた。

 それを確認し、係員があれこれと話をしている。


「ウルグさん、ヴォルフガングさん。準備お願いします」


 それから数分後、俺とヴォルフガングは外に呼ばれた。

 お互いに視線を合わせないまま、扉から外へ出る。


 黒髪と人狼種。

 この微妙な組み合わせだと観客もさぞ反応に困るだろう。

 そう思ったのだが。


「おぉ……」


 思ったより、観客達はザワザワしていた。

 テレスやヤシロに向けられるようなきゃーきゃした感じではないが、最初に出た時よりも反応は良いな。


「今までの戦いで、少しは観客の心を掴めた…か? なあ、ヴォルフガング」


 向かいに立つ、灰色の髪の人狼種。

 黄金の瞳をひそめ、俺を伺うように睨み付けている。


「前に戦った時から強いだろうとは思ってたけど、まさかヤシロの一撃喰らって倒れないなんてな。驚いたぞ」

「……あいつのことで、俺に怒ってねェのかよ?」


 何だろうな。

 こいつが相手だと、少しいつもより口が回る。

 俺の軽口には乗らず、ヴォルフガングはヤシロとの試合について訪ねてきた。


「急に殴りかかられたとかならとにかく、試合だからな。そんなキレることじゃないだろ。まあ……帽子吹っ飛ばしたり、ヤシロを叩き付けたことには正直少し苛ついたけどな」

「…………」

 

 まあ、俺がこいつをぶっ倒して決勝に行くから、そこはいいとしよう。

 それに、俺はヤシロからあの戦いについて少し話を聞いている。

 

「何か、ヤシロが俺に騙されて利用されてるんじゃないかって心配してくれたみたいだな。ありがとう」

「別に礼を言われるようなことはやってねェ」


 そう言って、ヴォルフガングは大剣を構えた。

 会話の時間は終わりらしい。


「――――」


 魔力を暴走させ、«鬼化»する。


「『我が牙は決して折れず』」


 そう呟いたヴォルフガングの筋肉が膨張した。

 «狂獣化»か。


「――――ッ!」

「――ラァ!」


 そして、準決勝が始まった。



 ヴォルフガングが扱うのは、貸し出された中でも最大サイズの大剣だ。

 正面からやりあえば押し負けるだろう。

 そこで初手から«震鉄剣»を叩き込んだ。


 剣を振動させ、敵の腕に衝撃を送る絶心流の剣技。

 大剣であろうとも、やり方次第で十分に成功させられる筈。


「―――ッ!?」


 刃が交わった瞬間、大剣から伝わる威力に体が浮いていた。

 震動を通すどころか、あまりの威力に吹き飛ばされたのだ。


「なんて、馬鹿力……!」

「ラァアアア!!」


 地面を蹴り、獣の如き形相で追撃してくるヴォルフガング。

 大上段から振り下ろされる大剣を、刃でいなして受け流す。


「甘えェ!!」


 躱した先に待っていたのは、ヴォルフガングの左腕の爪だ。

 体を低く沈め、爪が頭上を通り抜けると同時に、ヴォルフガングの胴体へ蹴りを叩き込む。


「――チッ」

 

 足から、まるで鉄の固まりを蹴ったかのような重さが伝わってくる。

 «鬼化»して強化された蹴りですら、こいつには届かないのか。

 

 そのまま後ろへ飛んで、間合いを開けた。

 ヴォルフガングは追ってこず、大剣を肩に担ぎ直した。


「なァ、お前ェ、なんでヤシロと一緒にいるんだ?」

「あいつが好きだからだよ」

「はァ……?」


 聞き返すヴォルフガングの表情は冷たい。

 こちらの真意を見抜こうとしているような目だ。


「俺は、あいつと一緒にいたいからいる。それだけだよ」


 俺はヤシロと一緒にいたい。

 あいつも、そう思ってくれている。

 一緒にいるのに、それ以上の理由は必要ない。


「お前が考えているような、『影の盟い』を利用してこき使ってやろう、って気持ちはないよ。影の盟いがなくったって、俺はあいつと一緒にいるだろうからな」


 ヤシロに向けられていた人狼種への悪感情。

 この世界の人々には、まだ根強い差別が残っている。

 それを見ると、ヴォルフガングが人間の俺を疑うのも無理はないだろう。


「一緒にいたい……だァ? 人間のお前が、人狼種のあいつとか?」

「人間だとか、人狼種だとか、そんなことはどうでもいいんだよ。俺は『ヤシロ』と一緒にいたいんだ」

「――――」


 俺の言葉に、ヴォルフガングが目を見開く。

 まるで、おかしな物を見るような表情だ。


「人狼種が、関係ねェ……? どうしてそんな風に割り切れる? お前が黒髪だからか? お前ら人間は、俺ら人狼種を嫌って、差別してるじゃねェか。どうして、お前はあいつを受け入れられる? どうして、お前らはあいつを認められるんだ?」


 信じられない、と言いたげにヴォルフガングは疑問を浮かべる。

 『お前ら』というのは、テレス達も含まれているのだろう。

 

 どうして認められる、か。

 種族なんて関係ない、っていう俺達の考え方は、この世界では異端らしい。

 けれど、そんなにおかしなことだろうか?


 ヤシロはヤシロだし、俺は俺だ。

 それだけのことなのに。

 それとも、それだけこいつが人間に差別されてきたのか?

 

「俺が黒髪……ってのもまあ、関係なくはない。きっかけとしては、あったかもしれない。けど結局、俺も、テレス達も、『ヤシロが好きだから』受け入れられるんだろ」

「――――」

「テレスやメイ達……俺の仲間も、ヤシロが人狼種だってことは知ってる。それでも、全員あいつのことを受け入れてくれてたよ。俺のことだって、黒髪だって差別せずに、一緒にいてくれてる」


 「そうかよ」とヴォルフガングは小さく呟いた。

 下を向いたヴォルフガングの表情は、垂れた前髪によって隠れている。

 

「質問は、終わりか?」

「……あァ」

 

 顔を上げ、ヴォルフガングは再び闘志を放つ。

 会話はこれで終わり。

 再び、試合場に張り詰めた空気が戻ってくる。


「行くぜ」


 地面を蹴りつけ、ヴォルフガングが突っ込んできた。

 それを俺は流心流で迎え撃つ。


 剛と柔がぶつかり合う。

 ヴォルフガングには技術がある。

 流心流でカウンターを入れようとしても、大剣や爪で防がれる。

 正面からぶつかり合っても、押し負けるだけだ。

 ならば単純に、相手の弱点を突くだけ。


「オオオアアァァァッ!!」

「ふっ……!」


 理真流で動きを予測し、流心流で受け流す。

 自分からは積極的に攻めず、相手を誘うために動く。

 

 «狂獣化»の力により、間髪入れずヴォルフガングは攻めてくる。

 驚異的な身体能力で試合場を跳ね回り、結界が軋む一撃を連続して放つ。

 それをただひたすら冷静に、受け流していった。


「……ッ、てめェ! どうして掛かってこねェ!?」

 

 数分間の攻防が続き、ようやくヴォルフガングが防御に徹する俺に疑問を抱く。


「さあな」

「……クソォ!」


 俺の意図に気付いたのか、ヴォルフガングが今まで以上に激しく攻め立ててくる。

 四方八方、縦横無尽に襲い来る大剣。

 確かに驚異的だ。


 だけど俺は、これ以上の攻撃をしてくる相手を知っている。

 《剣匠》ジークを相手に毎日何時間も戦っていたんだ。

 防ぐだけなら、やってやれないことはない。


「ッ……はァ……はァ」


 やがて、ヴォルフガングの動きが精彩を欠いていく。

 息も荒くなり、技も大振りになる。


「――はァ!」


 その隙に、重い一撃を叩き込んだ。

 防がれるものの、威力に押されてヴォルフガングが後退する。


「やっぱ、勉強は大事だな」

「……あァ!?」


 ヴォルフガングを見て、俺は呟いた。


「あらかじめ、«狂獣化»についての知識は図書館で得ていた。リミッターを外し、普段以上の実力を発揮する『牙の一族』の技、だったな」


 «狂獣化»した際の攻撃力は、相当なものだ。

 攻撃力に自信のあるこの俺でさえ、正面から打ち合えば、あっさりと負けてしまう。

 だが、そこには弱点がある。


「体のリミッターを外す技だからな。長続きはしない。普段以上の力を発揮するかわりに、普段以上に体力を消耗してしまう。だから持久戦に持ち込めば、そっちから自滅してくれる」

「ッ……!」


 これが通じるのは、試合という形式だからだけどな。

 こっちが逃げられない状況だった場合、正面からこいつと戦わなければならない。


「……はァ……はァ」


 «狂獣化»を使ってから、まだ十数分。

 それでも、ヴォルフガングは既に息が上がっている。

 ヤシロとの戦いでの、消耗も残っているのだろう。


「……チッ。それが何だッてんだよォ。俺の体力が切れる前に、てめェをぶっ飛ばすだけだァ!!」


 会話を切り上げ、ヴォルフガングの剣が迫る。

 受け流し、後ろへ逃げる。

 叫びながら、追ってくるヴォルフガング。


「――ふッ!!」


 そこへ、«震鉄剣»を叩き込んだ。

 最初と違い、今度は剣に衝撃が走る。


「ぐォ……!?」


 ヴォルフガングが、衝撃によろめいた。

 大剣を握る腕から力が失われる。

 これで、チェックメイトだ。


「――――!!」


 放つ«風切剣»。

 咄嗟に大剣で防御するヴォルフガングだが、その構えは普段よりも緩い。

 受けきれなかった大剣が砕け、ヴォルフガングは吹き飛んだ。


「ガ……ァ」


 結界にぶち当たり、地面に沈むヴォルフガング。

 手応えはあった。

 防御越しでも、相当なダメージを与えられたはずだ。


 しかし。


「……まだ、終わりじゃねェェ」

「……!」


 ヴォルフガングは起き上がった。

 額から血を流し、よろけながらも、ヴォルフガングは立っている。

 その瞳からはいまだ、闘志が失われていない。


「本当は«狂獣化»は最後まで使いたくなかった。てめェの言うとおり、消耗が激しいからだ」

 

 起き上がったヴォルフガングは、折れた大剣を放り捨てた。

 残る武器は、あいつの爪と肉体だけだ。


「こっちも……最後まで使いたくは、無かったぜ」


 次の瞬間だ。

 ゆらり、とヴォルフガングの周囲が揺らいだ。

 彼の体から、魔力が放出されているのだ。


「覚えておきやがれ。

 俺様の名前はヴォルフガング・ロボバレット」


 そして、俺は見た。


「《英雄》ヴォルフガングの名を継ぐ男だァァ――!!」


 ヴォルフガングの体から、勢い良く炎が噴き出した。

 それがメラメラと、彼の周囲を地獄のように覆っている。


「人狼種は、属性魔術は使えないはずじゃ」

「俺様は違ェ!!」


 彼が放つ炎は、上級魔術に匹敵する程の魔力量だ。

 «狂獣化»に加え、これほどの力がまだあったのか。


「俺様は天才だ。だから勝つ。勝って、勝って、勝って勝って勝って勝って! 俺を、俺達を! てめェら人間に認めさせるんだよォ!」


 そして、とヴォルフガングは続けた。


「俺様が使徒をぶっ殺すんだよォォォ!!」


  

 ヴォルフガングの絶叫と共に、紅蓮の波が俺へと殺到した。

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