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嫌われ剣士の異世界転生記  作者: 夜之兎/羽咲うさぎ
第六章 混色の聖剣祭(上)
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第十五話 『戦いは進み』

 テレスに勝利し、何とか三回戦への出場を決めることが出来た。

 変幻自在な太刀筋を持つメヴィウス流剣術もさることながら、あの新技は本当に危なかった。

 魔力を防御に全振りしたのに、少しの間意識が飛んでたからな。

 何ともない感じで起き上がったが、割りと本気でやばかった。


 試合後、俺達はそれぞれ治癒魔術師の元へ行き、回復して貰った。

 イベントに出てくる魔術師というだけあって、かなり手際が良かったな。

 戦いの傷や、疲労も随分と癒えた。


 とはいえ、回復するといっても治癒魔術も万能ではない。

 あまり消耗すると、今後の戦いに差し支えてしまうだろう。

 気を付けなければ。


 治療を終え、俺は待ち合い室に戻った。

 負けたテレスは別室だ。


 その後も試合は進んでいく。

 

 二回戦、ヤシロの対戦相手は理真流の剣士だった。

 三段を習得しているという相手の剣士は、ヤシロの攻撃を分析し、冷静に攻めていく。

 モニター越しに見ても、鋭い剣捌きだった。


 しかし、当たらなければ意味が無い。

 ヤシロはそれを躱し、受け流し、カウンターを叩き込む。

 相手は何とか急所への攻撃を逃れるも、やがて頭部へ一撃叩き込まれ、地面に沈んだ。


 ヤシロの勝利だ。

 俺の時と違って、ヤシロが勝つと歓声があがる。

 テレスといい、ヤシロといい、美人だと観客もテンションがあがるんだな。


 そして、エステラ。

 彼女の対戦相手はシード権で二回戦目から参加した、レグルスだった。

 

 エステラは風と土、二属性の魔術を使いこなす。

 «岩石砲»を風で加速し、レグルスへと連続射出。

 そしてその間、更に土と風の上級魔術の詠唱を同時に行い、«岩石砲»へ対処するレグルスへ打ち込んだ。


 エステラの魔術の腕前は流石だった。

 あのレグルス相手に上級魔術を詠唱する所まで持ち込んだのだ。

 しかし、レグルスもまた流石だった。


 エステラの上級魔術が炸裂する瞬間、雷が迸った。

 レグルスの斬撃が魔術を斬り裂いたのだ。


 最大威力の攻撃が防がれたことに動揺しながらも、エステラはすぐさま次の攻撃へ移ろうとした。

 しかし、駄目だった。

 雷が爆ぜ、レグルスは一瞬でエステラとの間合いを詰めたのだ。

 剣を突き付けられ、勝敗は決した。


 レグルスの勝利だった。

 歓声が上がり、レグルスはそれに答える。

 それからエステラを気遣いながら、試合場から出て行った。


「……速いですね」


 試合から帰ってきたヤシロが、試合を見て感想を呟く。

 

「ああ。最後に見せた速度は凄かった。でも、まだ本気じゃないんだろうな」


 レグルスが本気を出している所を、未だ見たことがない。

 見てきた試合全てで、まだ余力を残しているようだ見えた。


 それから幾つもの試合があり、二回戦が終了した。

 レグルス達の他にもヴォルフガングやウィーネなども勝ち残っている。

 俺が三回戦で当たるのは、ウィーネだ。


 ヤシロの対戦相手は、炎を使う魔術師みたいだ。

 モニター越しで見た戦闘だと、かなりの火力がある。

 流石にあれをモロに喰らうのは危険そうだ。


「サクッと仕留めてきます」


 だが、ヤシロは余裕そうだ。

 俺がジークと稽古している間、ヤシロもエレナに稽古を付けられていたというしな。


「にしても、ヤシロが外にでると歓声が凄いよな。テレスもそうだったけどさ。人気だなあ」

「……恥ずかしいです。ミーナ達も見に来ているので」


 ヤシロの友人、ミーナ・ミッテルト。

 あの小柄でジトッとした感じの子だな。


 ヤシロに結構友達が出来たって聞いてるけど、この子は特別らしい。

 ヤシロがさん付けしてないくらいだし、相当仲がいいんだろうな。

 ヴィレムとか、『黒鬼傭兵団』のせいで一時期ヤシロが無視される時期があったみたいだが、その時もミーナはずっとヤシロと一緒にいてくれたみたいだし。


「おお。応援に来てくれてるのか」

「はい。昨日も、メイちゃん達が混ざって、応援会を開いて貰いました」


 何だそれ、聞いてないぞ。


「学園でも、何人かの人が応援に来てくれるって」

「……男の人も?」

「? はい、そうですね。男の子の友達も、何人かいますので」

 

 なんだろうな。

 ちょっと面白くないかな。

 いや、ちょっとだからね。

 全然気にしてないし。


「ふへへ」

「何笑ってる」

「いえいえ。ふへへ。でも、ウルグ様だって一緒ですからね。後輩の女の子が応援に来てるみたいじゃないですか」

「ん……まあな」


 エステラ繋がりで知り合った後輩が、応援しますって声かけてくれたからな。

 嬉しい。

 ヤシロはむすっとした顔で見てくる。

 

「ま、まあ……応援しに来てくれるし、頑張らないとな」

「……はい。そうですね」

「えと、これでヤシロが勝つと……次の対戦相手はヴォルフガングか」


 一回戦目で余裕の勝利を収めたヴォルフガングだが、二回戦目も大した苦戦もせず、勝ち残っていた。

 あいつもまだ、底が見えない。


「そういえば、前に模擬トーナメントでウルグ様が戦っていましたよね。その時はどうでした?」

「一応、時間切れで俺の勝ちになったけど、あいつは全然本気を出してなかったな」


 あのまま戦って、勝てていたかと聞かれれば正直分からない。

 あれから時間が経過しているし、更に強くなっていると見て間違いないだろう。


「ウルグ様と戦って本気を出していなかった……ですか」


 俺の話を聞いて、ヤシロは難しい顔をする。


 ヤシロは人狼種であることを隠している。

 そのため、影の魔術は使うことが出来ないのだ。

 ヴォルフガング相手には、少し厳しいかもしれないな。


「なあ、ヤシロ。前に言ったこと、覚えてるか」

「……はい」

「今である必要はないけどさ。ヤシロの好きなようにやればいい」


 ヤシロが返事をする前に、係員の呼ぶ声が聞こえた。


「じゃあ、行ってくる」

「……いってらっしゃいませ!」


 そして、三回戦が始まった


 

 ウィーネ・ブルクハルト。


 流心流三段をはじめとして、複数の流派と魔術を身につけた剣士だ。

 毎年、賢人祭ではトーナメントで安定した高成績を収めている。

 学園卒業後、騎士への入団も決まっているという。


「以前は振られてしまったが、ようやく君と戦えるな」


 そう言って、ウィーネは剣に水を纏った。

 «鬼化»し、俺も剣を構える。


「ふ……凄まじい剣気だ」

「ウィーネ先輩こそ」


 そして、戦いが始まった。

 

 ウィーネは流心流をメインに使う。

 様々な流派を習得している俺には、その対処法も分かる。

 だがそれはウィーネも同じことだ。


 絶心流で攻める俺へ、彼女は魔術と剣技でカウンターを返してくる。

 ウィーネは強かった。

 毎年、トーナメントで勝ち上がっているのは伊達じゃない。


 戦いは長引いた。

 俺はウィーネに決定打となる攻撃を与えられず、彼女もまたカウンターを決めることが出来ない。


「――――」

「――――」


 それでも、決着の時はやってきた。

 

「絶心流――«風切剣»」


 あえて技名を口にし、俺は剣を振った。

 ウィーネには既に、一度受け流されている技だ。

 彼女は冷静に、前と同じように受け流そうとする。


「な――」


 ここ最近、強敵ばかりを相手にして来たせいか、あまり通じなかった技がある。

 «幻剣»。

 レオルが使っていた、剣速を変化させる技だ。


 ウィーネとの戦いで、俺は«幻剣»を一度も使わなかった。

 もしかしたらこの技を彼女は知っていたかもしれないが、戦いの中で神経をすり減らした今――ウィーネは«幻剣»の存在を失念していたのだ。


「――見事だ」


 最後にそう言い残し、ウィーネは«幻風剣»を喰らって吹き飛んだ。

 結界にぶち当たり、動きを止める。

 

「勝者、ウルグ!」


 こうして俺は三回戦も勝ち抜いた。




 今度の戦いも、かなり体力を消耗した。

 魔力もだ。

 

 治癒魔術師に癒してもらうも、少しずつ体に疲れが残っている。

 それ以上に、精神の方が磨り減るな。

 強敵を相手に連戦だ。

 かなりの集中を要する。

 

 まあ、まだ誤差の範囲内だ。

 この程度の疲労、今まで潜り抜けてきた戦いに比べればどうということはない。

 ジークとの模擬戦だって、何時間もぶっ通しだしな。

 あれは死ねる。


 そして、俺が待ち合い室に入ってくると、中の人数も大分減っていた。

 人数的に、五回戦目が準決勝になった筈だ。


「……あれ」


 対戦表によると、俺とヤシロがこのまま勝ち続けた場合、準決勝で当たるみたいだ。

 うーん……漫画のようにはいかないな。

 決勝戦で当たるとしたら、


「……レグルス先輩か」


 ここには学園の実力者が揃ってはいるが、その中でもレグルスはずば抜けている。

 このまま勝ち上がって決勝まで行きそうだな。


 レグルスは集中しているのか、いつものように喋らない。

 鋭い目つきで、モニターを眺めている。


「まっ、まずは四回戦目だな」


 モニターを見ると、ちょうどヤシロの戦いが始まっていた。


 相手の魔術師は、ここまで勝ち抜いてきただけあって、かなりの手練れだ。

 まるで蛇のように炎を操り、ヤシロを追い詰めている。

 ヤシロは蛇を迂回して魔術師に迫るも、更に複数の蛇が現れた。


「……!」


 突進していったヤシロが、バクリと炎の蛇に飲み込まれた。

 外の観客席から悲鳴があがるのが聞こえる。

 

 直後。

 蛇を突き破って、ヤシロが魔術師の懐へ転がり込んだ。

 慌てて対応しようとする魔術師へ、ヤシロが鋭い一撃を入れる。

 

「ふう……」


 ヤシロの勝利だ。

 少しドキッとしたが、テレスの技を喰らって耐えられるくらいの防御力だからな。

 いくら強力な炎とはいえ、破ることは出来なかっただろう。

 あいつが被ってる帽子も、«魔術刻印»が刻まれてるから破られなかったしな。


 けど、やっぱり出てくる生徒のレベルは高いな。


 冒険者にして、最低でもBランク。

 剣術にすると、三段剣士並みの実力者が揃っている。

 参加する魔術師だって、殆どが上級クラスの魔術師をバカスカぶっ放してたしな。

 さっきのヤシロの相手の蛇も、上級魔術だろう。


 俺が最初に戦った奴も、この中では弱かったにしろ、学園では強い方なんだろうな。


「……そう考えると、俺、二回戦三回戦とかなり強いのと戦ったことになるのか」


 テレスもウィーネも、Aランク冒険者クラスの実力者だ。

 剣技だって、四段の剣士に迫るだろう。

 そりゃ消耗するはずだよ。


 それから時間が経過し、三回戦目も終わった。

 ヴォルフガングは勝ち上がり、予想通りレグルスも勝利した。

 残ったメンツも強そうだ。


「ウルグ様……戦いも残り半分! どうにか決勝戦に行きたいですね」

「ああ、でも俺達、このまま勝ち上がったら準決勝で当たるよ」

「ええっ」


 ヤシロはがっくりと肩を落としてしまった。

 気付いていなかったのか。

 

「うう。ウルグ様と一位二位で決められたら、テレスさんに自慢できたのに」

「仲いいなぁ」


 何かちょくちょくぶつかり合ってる気がするけど、それだけ仲がいいんだろう。

 良い事だ。


「残念だが、お前ら二人共、決勝にはいけねェ」


 治療が終わったヴォルフガングが、中へ入ってきた。


「勝って、優勝するのはこの俺様だからな」

「ああ。お互いがんばろうな」

「……チッ」


 ヴォルフガングは舌打ちして、離れた席に行ってしまった。

 何か嫌われるような事したかな、俺。


「ウルグ様に向かってなんて態度……!」


 怒るヤシロを宥めている内に、次の試合の準備が整った。

 四回戦だ。



 次の試合は、テレスやウィーネほど苦戦しなかった。

 俺と同じ無属性で戦う、二刀流の理真流剣士だった。

 二刀流という所に少し驚いたが、隙を付いて«震鉄剣»を叩き込んで片手の剣を弾き飛ばし、そのまま斬り付けて勝利した。


 やはり実力にはバラつきがあるみたいだ。

 

 これで準決勝進出。

 学園最強が、手の届く範囲にまで近付いている。


「まずは、学園だ」


 この試合はあくまで通過点に過ぎない。

 本当の目的は、この試合の先にある。


「……よし」


 次の戦いへの決意を胸に、俺は待ち合い室に戻ってきた。

 ここも、もう殆ど人がいない。

 モニターをレグルスが睨んでいるのが見えた。

 俺も席につき、モニターを睨む。


「……ヤシロ!?」


 モニターの中で、ヤシロはヴォルフガングと戦っていた。

 それはいい。


 問題は、モニターの中で今まさに起こっていた。

 ヴォルフガングの爪がヤシロの帽子を引き裂き、



 ――ヤシロの耳が、観客に晒されていた。


次話→ 7/17

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