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嫌われ剣士の異世界転生記  作者: 夜之兎/羽咲うさぎ
第六章 混色の聖剣祭(上)
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第九話 『帰り道』

 修行が開始してから、一週間が経過した。

 あれから毎日ジークの元で修行している。

 色々な手法で攻めてくるジークに、必死に喰らいつく日々。


 ジークにあって、俺に無いもの。


 数万と鍛錬を重ねたのだと分かる練り上げられた基礎。

 それに基づいた応用。

 そして、剣を振り続けてきた経験。


 背中に目が付いているのかと思うほどに、ジークは死角を作らない。

 常に相手と自分の位置関係を把握し、自分が有利になるように先を読む。

 相手の攻撃に対して、臨機応変に対応する柔軟さ。


 あげればきりがない。

 だがそれでも、そこからすくい上げなければならない。

 ジークの技術を、俺に必要な力を。



「鈍い、ヌルい、遅え、視野を広く、死角を作るな」


 «鬼化»し、持てる全てを尽くして殺す気で向かう俺を、ジークは危なげもなくいなし、更にアドバイスまで口にしている。

 絶心流で攻めても躱され、流心流で防いでも弾かれ、理真流で予測してもすり抜けられる。

 «幻剣»も«幻走»も«幻風剣»もまるで通用しない。


「ただ避けてるだけじゃ意味はねぇ、オレの動きを読め、技を返してやると、眈々と隙をうかがえ」


 そう言いながら、ジークが瞬間移動じみた速度で追撃してくる。

 エレナが使っていた«烈速»と同等、もしくはそれ以上の歩法術。

 この速度を読むのは至難の技だ。


「慣れろ。オレに勝つんだろ?」

「ッ!」


 ジークが踏み込むたび、その体が残像を残して目の前から消失する。

 目で追うことすらかなわない。

 見えないのなら、見ようとしなければいい。


 連日、ジークの動きは目にしている。

 左右上下、どちらから来るのかを予測。

 ジークの剣がこちらへ来る前に、まだ来ていないその一撃を回避する。


「はっ――づぅ!!」


 真横をジークの木刀が通過していく。

 頬をかすり、僅かな痛みが走るも、無視。


「――ハァッ!!」


 初めて回避出来た、ジークの一撃。

 木刀を振りきった体勢のジークに向けて、«風切剣»を振り下ろす。


 が、躱される。

 それによって、生まれる隙。

 滑るような動きで回避行動を取ったジークが一瞬だけ剣を構えると、

 

「――――」


 次の瞬間、俺は吹き飛んでいた。

 脇腹を木刀で打ち据えられ、鈍痛に悶絶する。

 

 ――絶心流奥義«絶剣»。

 

 見えない、躱せない、防げない。

 確実に相手を殺すための剣。

 

「まだ甘い。渾身の一撃を放った後、お前には大きな隙が出来る。それで仕留められりゃ良いが、倒せない場合、«絶剣»が使える相手に対して、その隙は致命的だ」


 転がる俺に、ジークがそう言い放つ。


「いいか。«絶剣»を放つには、かならず一瞬の溜めが必要だ。その溜めを見逃すな」


 ジークが見せた一瞬の溜め。

 あの短い間に、技を出せないよう妨害しなければならないのか。

 とんでもないな……。

 

「だが、動きは悪くねぇ。お前が諦めなきゃ、そのうち«絶剣»にも慣れるだろうぜ。

 ま、«絶剣»なんて、大した技じゃねえけどな」

「大したことないって、絶心流の奥義なんじゃないですか……?」


 見た限りでは、とんでもない奥義のように思える。


「奥義は奥義でも、この技には瑕疵がある。完璧じゃねえ。«絶剣»は対処できねえから奥義って呼ばれたんだ。隙がある時点で完璧とは呼べねえよ」

 

 瑕疵、か。

 そういえば、前にエレナもそんなことを言っていたな。

 今の«絶剣»でも、大抵の相手は防げないだろうに。


「ま、瑕疵のあるなしは置いておいて、この技を使えるか使えないかで、絶心流の剣士として大きく変わってくる。今のお前の技量じゃ使いこなすのは難しいだろうがな」

「そうですね……。消費する魔力も、体力も大きすぎる」


 «絶剣»は一撃で相手を絶命させる技。

 放つにはとんでもない魔力、そしてそれを一瞬で全てをコントロールする技量が必要だ。

 一瞬でも集中が乱れれば、剣技にほつれが生まれ、«絶剣»は失敗する。

 «風切剣»の上位技だが、扱いの難しさが段違いだ。


「ま、てめぇの修業次第だ」


 そう、ジークが締めくくり、再び修行が始まった。

 


「ウルグ殿!」


 稽古を終え、街を歩いているとエステラに会った。


「稽古帰りですか?」

「ああ。エステラはどうして王都に?」

「私は家に帰る途中なんです」


 そういえば、エステラもテレスと同じように、今は貴族住居街の方で生活してるんだったな。


「夜だし、送って行こうか?」

「そ、そんな。ウルグ殿は稽古が終わったばかりで疲れているでしょう? 申し訳ないです……」

「気にするなって。ちょっと歩きたい気分だったし。それにエステラは強いとはいえ、女の子だからさ」

「……じゃ、じゃあお願いします」


 何故か顔を逸し、頭を下げるエステラ。

 紫色の髪がふわりと揺れる。

 貴族住居街の方へ、俺とエステラは歩き出した。


 と言っても、貴族住居街の中に俺は入れないのだが。

 貴族用の住居街、商業街には原則平民は立ち入り禁止だ。

 入ったから厳しく罰せられる、という訳ではないが、俺みたいなのが入ったら確実に問題になるからな。


 とりあえず、入り口まで送れば大丈夫だろう。

 汗臭くないかだけが不安だ。

 

「エステラは聖剣祭、誰かと行く予定あるのか?」

「はい。友人たちと回ることになっていまして」

「ああ、そうか。エステラが良かったら、一緒に回れないかと思ったんだけど」


 俺の言葉に、何故かエステラが肩を落とす。


「うう、その手が……。次の機会には是非……!」 


 何やら落ち込んでいるようだ。


「……そうだ。ウルグ殿は、学生試合には出られますか?」


 ジークと同じ問い。

 そういえば、エステラには言ってなかったな。


「あぁ、出るよ。ヤシロとテレスも一緒だ。学園側から、予選をすっ飛ばして出て欲しいって通知があったんだ。エステラは出るのか?」

「はい。私も一応、予選を突破して出場出来ることになりました」

「おお、やったじゃないか」


 予選は学年関係なく行われる。

 エステラは先輩達と戦って、本戦への出場を勝ち取ったのだ。


「私の他にも、ヴォルフガング殿が勝ち残っていました」


 ヴォルフガング。

 ヤシロと同じ、人狼種の少年。

 あいつも、学生試合に出るのか。

 少し、意外だな。


「強い人がいっぱい出ると思うけど、お互い頑張ろうぜ」

「はい! いい結果を残しましょう!」


 エステラもやる気十分のようだ。

 両手同時に繰り出されるエステラの魔術に、他の参加者が対応出来るか見ものだな。


「そういえば、ウルグ殿はあれからジーク殿と修行をしているんですよね?」

「ああ、道場で稽古を付けてもらってる。毎日、死ぬかと思うくらいに辛い稽古だよ。けど、やっぱり得るものは多い」

「そうですか。今のウルグ殿が、人を殺した後のような目つきをしていたのは、お疲れだったからなんですね」

「お前、もうわざとだろそれ」

「ひゃん」


 ジトッと睨むと、変な声をあげるエステラ。

 周りに見られるからやめろ。


「すいません。ウルグ殿に見られると、ゾクゾクして」

「……変態」


 メイに負けず劣らず、こいつはやばい。


「も、もう一度言ってください」

「? 変態」

「もっと強く!」

「変態!」

「ふぁあ……」


 こいつ……。

 こんな所で何を言わせるんだ。


「あうっ」


 恍惚とした表情を浮かべるエステラのデコに、デコピンを入れて正気に戻す。

 そろそろ時間だし、いつまでも変な世界に行かれてると困る。


「……ウルグ殿は、頑張ってるんですね」

「ああ。冗談抜きに、毎日死にそうだけどな」

「あれから私も、毎日魔術の特訓をしてるんです。ウルグ殿には及ばないかもしれないけど、少し上達したんですよ」

「おぉ! 今度見せてくれよ」

「はい!」


 エステラと話してると、頑張らないとって気持ちになっていいな。



「……今度は、ウルグ殿と一緒に戦いたいです」



「……? 何か言ったか?」

「いえ、何も言ってないですよ!」


 何か言ったように聞こえたけど、気のせいだっただろうか。

 エステラの態度に違和感を覚えていると、


「到着しました!」


 その考えが纏まるよりも先に、貴族住居街の前まで到着した。

 ここから先は平民が暮らす側よりも、多くの騎士が巡回している。


 どっかりと立派な家が立ち並ぶ、貴族住居街。

 その全てが、以前住んでいた家よりも大きい。

 流石の一言だ。

 これで多くの家が別荘扱いらしいから驚きだ。


「ここまで、だな。騎士が巡回してるから大丈夫だと思うけど、気を付けてな」

「はい! ウルグ殿、送ってくれてありがとうございました。貴方も気を付けて帰ってくださいね」

「ああ、じゃあな」


 そうして、俺は学園に向けて歩き出した。


「……学生試合か」

 

 今の所、学生試合に出ると分かっているのはテレス、ヤシロ、エステラ、ヴォルフガング、レグルスくらいだ。

 といっても、優秀な生徒が出場すると考えれば、候補は自然と限られてくるが。


 剣聖選抜まで、それほど長くない。

 数年の内に、力を付けなければ。


 夜空できらめく星を眺めながら、俺は学園へ戻ってきたのだった。

 


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