第6話
ランドセルを背負っていたら思わず頭を撫でてしまいそうなほど可愛らしい容姿の女の子が目の前で踏ん反り返っている。しかも、窓の所に。普通なら危ないから止めなさいと言ってしまいそうだが、そもそもどうやってそこに乗ったのかが気になる。
「剣はどっちだ?」
名乗り出ようとするまえに、仁が指さしてくる。他のクラスメイトも視線を剣に集っていた。
それにつられてかゆっくりと立ち上がる。
「お前だな」
女の子はやっと窓から身を降ろす。そのまま、剣の手を無理やり引っ張っていこうとする。
「ついてこい」
「ちょ、ちょっと待てよ! お前、誰なんだ?」
「それも後で説明してやる」
問答無用で剣を連れ去ってしまう。後に教室から漏れてくる会話の内容が完全に根も葉もない予想ばかりであったが、彼の心を抉るには充分であった。
一度も行ったこのない屋上。屋上デビューが自分とは違う学校の子と迎えることになろうとは、その上に小学生である。
「お前が剣でいいんだな?」
「そうだよ」
「お前は以前に――」
「その前にちょっといいか?」
「なんだ」
「あんた、パッと見小学生くらいだけど、学校は?」
「今日は創立記念日で休みだ」
「あぁそう。後さ、あんたも名乗ってくれないか?」
「此方の名は久遠寺空色」
珍しい一人称が飛び込んできたが、今はそれに驚くような状況ではない。
「お前は以前にルカに会ったな」
「おう。そうだけど……」
「此方はそのルカに頼まれてお前の監視役になったのだ」
「……何だよ、それ」
「あれこれ説明している時間はないが、此方も時には勧誘をしてほしいとのことだからな」
「それで?」
「此方のチームに入らないか?」
「だから、嫌だって言ってんだよ!」
二度目の怒号。言い放った途端に風が強くなる。空色の髪の毛は肩までしか伸びていないが、それでも綺麗に靡いている。ここでは、乱れていると言うべきであろうか。
「では、今日はここで退くが、いずれまた現れる。それに、監視も続ける。危害を加えはしないが、それを念頭に置いておくがいい」
そう言うと、風の流れが変わった。目の前に空色がいなくなっていた。恐らく、剣の後ろに向かって走っていったのであろう。
どうやって3階の窓まで上ったのか、とうとう聞き出せなかったが、およそ頭に思い浮かんだものは外れていない自信があった。